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ヤドっち

マイちゃんがピペットでブラインシュリンプを容器から吸い上げ、俺の近くに漂うようにそれを撒いてくれた。

今日の餌も抜群に美味い。

それは同居している彼…そう、ヤドっちも同じだったようだ。


いつも餌の時間になるとどこからともなくヤドっちが出てくる。

ヤドっちはいつもボーっとしているのに、この時ばかりは俊敏だ。


「ヤドっち、俺たちももう一年近い付き合いだしさ、そろそろ心許してくんないかなぁ?」


黙々と餌を頬張っているヤドっちに声をかけてみた。

するとヤドっちは俺のほうをチラリと見て自分の殻にスポッと入った。


「あ…石コロになっちゃった…」


無愛想なのかシャイなのか知らないが、ヤドっちは話しかけたり機嫌が悪かったりすると時々こうやって石コロのようになる。

そう、あの時も。


初めてマイちゃんの家に来て水槽に移された時に頭上から降ってきた石コロは、実は石コロではなくヤドっちだったのだ。

初日は石コロだと思って気にもしてなかったが、翌朝起きた時に何か違和感を感じた。

寝る前に隣にあったはずの石コロが朝起きたら無くなっていたのだ。

俺が寝ている間にマイちゃんが水槽から出した様子もなかった。

不思議に思っていると、次の日石コロが飾りサンゴの隙間にあるのを見付けた。

しかもよく見るとガタガタ動いている。

恐る恐る近付いてみると、それは飾りサンゴの隙間にハマって動けなくなってもがいているヤドカリだった。

何とか救出しようとしたが、押しても引いてもピクリともしない。


「なにこれ、石コロじゃなくてヤドカリさん?ふふ…ヤス、お友達がいて良かったね」


非力ながらもヤドカリの救出に励んでいた俺を見てマイちゃんがそう言った。

そして指先でいとも簡単にヤドカリを救出すると手のひらに乗せて


「ここに来たのも何かの縁ね。じゃあ君の名前は…

う〜ん…えーっと…ヤドっち」


と即座に何のひねりもない名前をつけたのだった。

ヤドっちは嬉しかったようで、マイちゃんの手のひらの上で両腕を上げ、ブンブン振り回していた。


それからというもの俺とヤドっちは、特に干渉し合う事なく寝食を共にしている。

今はまだ俺に心を開いてくれてないようだが、いつかお互いの未来を語り合えるような仲になりたいもんだ。

ヤドっちも俺と同じように思ってくれているといいのだが、なにせ一年間この調子だから、まだまだ先は長そうだ…。

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