2nd Hour : 5人の者(前編)
この作品は、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域、日時その他、固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても一切関係はありません。
2nd Hour:5人の者
「最悪な・・・場所?」
優哉は疑問に満ちた表情で言った。
すると、パドラーは説明をしだした・・。
「そうです・・。今、私とあなたが居るこの空間、「タイムボックス」は「ゼロアワー」を行き来できる施設です」
パドラーはまだ笑顔で話している。
「だから絶対に、ブラックオウル・・・敵は入ってこれない」
パドラーは「ブラックオウル」と口ずさんだ時、すこし笑みが消えかけた。
ブラックオウル・・・直訳で、「黒い梟」
何を意味しているのか・・。敵?。
優哉は英語がかなり得意だったためか、ふとそう思った。
そして、「敵」という言葉にも疑問を抱いた。
「敵?ゼロアワー?・・って、どういう意味だ?」
優哉は恐る恐る聞いた。
「・・そうですね~。いわゆる・・・」
パドラーは顔を下に向け、少し間を開け・・・
「敵=殺し役、ゼロアワー=別世界、と言ったところでしょうか・・」
と、ハット帽のツバをクイッと上げ、目をギロリと出し、低いトーンでそう言った。
しかし、優哉はそんなことは信じられなかった。いや、信じたくなかった・・。
「・・・おちょくんのも、いい加減にしろよ?」
優哉は怒りをあらわにし、続けた・・。
「殺しだ?ふっ・・・そんなこと日本は認めてねぇし、そんなことしたら、即、警察行きだろうが!!しかもな、別世界なんてモンは存在しねぇ!!」
優哉は眉間にしわを寄せ、そう叫んだ。
しかし、そんな優哉には目もくれずにパドラーは言い放った。
「別世界は実在したんです・・。あ、言い忘れていましたね・・確かにここは日本ですが、ゼロアワーはゼロアワーです。
ゼロアワーはゼロアワーなりのルールがありますから、殺しは犯罪でもなく、加害でもない、平等です」
パドラーは微笑みを見せた。
「テメェ・・・」
優哉は奥歯を思い切り噛んでいた。
そして、左拳を握り締めようした。
が、
「グアアアアアア!!!」
昨日殴ったアザが全く治っておらず、痛みが走った。
それも、今までの喧嘩では味わったことの無い苦痛だった。
「フフフフ・・・それもそのはずだ・・・」
パドラーは何かを知っているような口調で言った。
「どういう・・・意味、だ?」
優哉は左手を押さえ、痛みに耐えながら言った。
「アナタは、先ほど言ったブラックオウル、略して「BO」の一人を殴ったんですよ」
パドラーは真剣な目で、続けた。
「BOの特徴は、人間が触れると、その人間の触れた部分が「サミケイル」という物質により、破壊されるというものです・・・。しかし、アナタは破壊をされていない・・・サミケイルを防ぐ能力を備えているんです。だが、そんなアナタでも少しは効いてしまっているようですね」
「・・・何だかよくわかんねぇや・・」
優哉は頭をかいた。
「まぁ、慣れれば分かってきますよ・・」
「慣れれば?そんな危険な世界に俺を引きずり込むってのかよ!!」
「はい」
「そんな、何でだ?」
「理由は一つ・・・もう後戻りできないからですよ」
パドラーはニヤッと笑った。
優哉は呆然としてしまった。
「どうしてだ!?」
優哉の顔からは汗が浮かび上がっていた。
「抜けても良いですよ?しかし、自身に身につかない限り・・・いや、自分で決めない限りこの世界からは抜け出すことは許されません」
パドラーの表情からは、もう笑みが無くなっていた・・。
そして、優哉はその話を聞いてまた呆然としてしまった。
それと同時に、ふと霧咲の言葉を思い出した・・・。
『優ちゃんが決めることだもん!』
決める・・・。
優哉はそのフレーズを声で復唱していた。
「そうです。決めるんです」
パドラーは再び笑みを浮かべた。
「決めるって・・何を?」
優哉は、さっきまでとは違い、パドラーの話を信じようとしていた。
しかし、パドラーは話題を変えようとした・・・。
「・・・まぁ、それはゼロアワーに行ってからのお楽しみでしょうね。では、これを・・・」
「ふざけんな!早く教えろッ!!!」
が、優哉に掻き消されてしまった。
「Shut up!!!Hear my talk.(黙れ!私の話を聞け)」
パドラーはさっきまでのやさしい表情から、怒りの表情へと一変した・・。
そして、何故か優哉は身体が硬直してしまった。
「あ・・・」
声も出ないほどだった・・・。
「・・あっと、失礼失礼・・・。私を怒らせてはイケませんよ?」
優哉はそう言われると、硬まっていた身体が元に戻った。
(今のは・・・なんだ・・?)
優哉は戸惑っていた。
「知りたいですか?」
パドラーは優哉の心情を読み取ったのか、そう答えた。
「何?」
「この世界に参加すれば、自身特有の技や術が身につけられる」
パドラーは分かりやすいようにそう言った。
「待て・・じゃぁ、お前は人の心を読めるのか?」
優哉は怪訝そうな表情でそう聞いた。
「フフッ・・・That's right!(その通り!)」
ニヤけながら言った。
優哉はパドラーの少しづつ入れてくる英語に、少しウザったくなっていた。
「そんなことが・・・?」
「まだ信用してないみたいですね~。では、これを見れば納得してくれるかな?」
パドラーはまだ不快に思っている優哉に対し、そう告げた。
「カモ~ン!」
陽気にそう合図すると、優哉の目の前にテレビが現れた。
優哉はその光景にド肝を抜かれた。
「これに驚くのはまだ早いですよ、クククッ」
パドラーは手を口に当て、笑いながらそう言った。
そして、テレビの電源を点けた。
ザザザザザッザ・・・
「この映像は、事実しか起こらない・・。まぁ、よ~く見ておくが良い・・」
パドラーは表情を変え、そう言い残し何処かに消えてしまった。
そして、辺りは闇に包まれた。
明るい光は、テレビの電源だけとなった・・。
すると、映像が始まった・・。
~テレビの映像~
「ハァァアア!!!食らえぇええ!」
キャシャン!!ス、ス、ス、ス・・・!
一人の男はナイフのようなモノを数十本投げた。
男は優哉よりも若い、高校生くらいの男子っぽい。
そして、それは相手の男に刺さった。
ドスドスドスドス・・!!
鈍い音が響いた。
「殺ったか!?」
男は額に汗が浮かび上がっていた。
そして、決まったと思った・・・。
カランカラン・・・
「!?」
しかし、全て地面に落ちた。
「フン!!こんな玩具・・・俺、『キゼル』様には通用せんわ!」
キゼルと名乗る怪物のような顔をした男は笑っていた。
「くそぉ・・このデスビーク(鳥の嘴の形をした武器)まで利かないとは・・・」
男は諦めかけていた。
「その武器、お前には合ってねぇよ。お前の兄の形見として使ってんのか?」
「・・錐陽を殺したのは、テメェだからな!!」
男はキゼルを睨んだ。
錐陽とは男の兄らしい。
「そうだ。だが、錐陽は俺たちを裏切った・・。悲しかったぜ・・。『良い悪の精神』を持っていたのに・・・。あともう少しで、あの『者』にも負けないような悪心を持てたのに・・」
キゼルは、『かたな』と呟いた。
「か、『刀』?」
「あぁ、『刀』だ。だが『者』とも呼べる。その名も・・・いや言うのは厳禁か・・」
キゼルはさっきまでの楽しんでる表情から一変し、少し怯えてるようにも見えた表情を見せた。
「どんなモンなんだ?」
男は恐る恐る聞いた。
「フッ・・軽く聞けるモンじゃねぇよ。一言で言えば、『最凶』だ」
男はそうこうしていると、少し動きを見せた・・。
「へぇ~、最凶ねぇ~・・・ならこれは!!」
ガチャッ!!
男はキゼルの手にしていた銃のような武器を手にし、キゼルに向けた。
「ほぉ~、盗みの技の持ち主ねぇ~。中々やるな」
キゼルは少し関心したような顔をした。
「そりゃそうだ!俺のロッドウェイ(盗みに利用する武器)は天下一品だからな!」
男は笑みを浮かべていた。「勝った」と思った。
「まぁ死ぬのはお前だけどな」
しかし、キゼルはそう返した。
「なに!?・・なら食らってみやがれ!!」
男はそう言い、銃のトリガーを引いた。
ドンドンドン!!!
三発音が鳴り響いた。
しかし、その音と共にキゼルは地面から20メートル程身体を浮かした。
「ハハハハ!!!俺の武器は、お前のその能力じゃ、扱えねぇようだな!」
「クッ!」
男はまた諦めかけた。
「・・んじゃぁ、次は俺の番か?・・ちょいと、ペラペラ喋っちまったしな・・・」
キゼルは空中で止まったままそう言った。
そして、テレビの画面が途絶え始めた・・。
ザ、ザ、ザザザ、ザ、ザザー・・・
ビン!
すると、テレビの電源は勝手に消えた・・。
~テレビの映像終了~
「・・・・」
優哉はテレビの画面に釘付けになっていた。
「・・これで、この内容が分かったかな?」
パドラーは少しトーンを低くして言った。
しかし、優哉は何も答えない。その上、俯いてしまった・・。
「まぁ、落胆するのも仕方ないでしょう。最初からノリノリの人間は・・・直ぐ死ぬ・・。これまでの経験でそれが解りました。何せ、これまでで2568人の人間が死んでますから、ね」
パドラーは人間をおちょくるような言葉遣いをし、ニヤニヤとしていた。
すると、優哉が口を開いた。
「・・せろ」
優哉の声は暗く、パドラーはちゃんと聞き取れなかった。
「え?」
パドラーは少し真剣な表情になった。
「だから、行かせろっつってんだよ!!!!」
優哉の表情は真剣そのもので、魂からの叫びに聴こえた。
優哉は『喧嘩上等』の精神で生きてきた男だが、人情はあるらしい。
そして、この言葉にパドラーは笑みを浮かべた。待ってました、と言わんばかりの笑みだった・・。
「フフッ・・では、その者と共に生き抜いてきてください。あなたが選ばれたのも、単なる偶然ではなく、何かの縁だったのかもしれないですね・・。では、また会いましょう」
パドラーは、何かを企んでいるかのような表情をしていた。
そして、被っていたハット帽を右手で上げ、紳士的なお辞儀をし、左手で指パッチンをした。
それと同時に、周りの白い景色が徐々に消えてきた。
すると、パドラーが一言言い残そうとした・・。
「・・あ、良い忘れてました。・・何らかの『希望』は持って・・・」
しかし、この言葉を最後まで聞く前に、違う景色に変わってしまった。
ザ、ザザ、・・・
「ここ・・・って」
優哉は唖然としてしまった。
・・そう、ここは優哉の住んでいる町と同じだったのだ。
すると、さっきテレビに映っていた二人が見えた。
「クソ!・・ハァ、もう・・・無理か・・」
男の体は傷だらけだった。
「フハハハハ!!!愚か・・人間は、愚かだ!!!しかも、俺に挑むのも尚更愚かだ」
キゼルは空中から地面に降り、最期のトドメをさそうとしていた。
手にしている1.5m程のハンマーには、数千もの針が装着されていた。
「もっと楽しみたかったが・・時間も時間だ。これで・・・」
キゼルが思い切り腕を挙げ、身体の全神経を腕に込めたと同時に優哉が動いた。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
優哉は叫びながら走り、1.7mもある『刀』を両腕で持ち、キゼルの背中に思い切り振り下ろした。
しかし、鞘は付いたまま。
ザンッ!!!!
鞘が装備されてあるのに、刃で切った時のような鈍い音がした・・。
「グっ!?」
キゼルは手にしていたハンマーを落としてしまった。
しかし、まだ耐えていた・・。ものすごい筋肉だからか・・。
「なに!?」
優哉の額からは、汗が垂れていた。
「クク・・・俺の身体に傷つけたな、ゴルァ!!・・」
キゼルは振り向いた。
が、優哉の手にしていた『刀』を見て、表情が引きつった。
「な・・なぜ・・人間がそれを!?」
キゼルは顔から冷や汗が流れ出した。
「は?」
優哉は、なぜそんなに慌てるのか、と疑問を抱いた。
「チッ・・・報告しねぇと!マズイ!」
キゼルはそう言い、落としたハンマーを置いて空高く飛んでいった・・。
そして、優哉はずっと疑問を抱きつつも、男に駆け寄った。
「おい!大丈夫か!?」
「・・あ、ありがとな。知らねぇ人間を助けるなんて・・・スゲェ根性だ」
男はニコッとしながらそう言った。
「お、おぅ・・・それより、これってどういうことなんだ?」
優哉は少し照れ隠しをした。
そして、照れを見せないためか、すぐに話題を持ちかけた。
「・・お前、ビギナーか?」
男はフッと上半身を起き上げた。
「ビギナー・・あ、初心者か・・。え、それって・・?」
優哉はまだ何もわからない。
「・・・やっぱ、そうだな・・。ビギナーっつーのは、この世界に初めて来た人間のことを言うんだ。
俺はもう、半年が経つ・・」
男は悲しげに言った。
「なるほど・・。何のために?」
優哉はそう言うと、男の顔は強張った。
「お前、何も知らずに来たってのか?」
「あ、いや、少しだけなら聞かされたから、一応は分ってる方かな」
「誰に?」
「え?・・R・パドラーとか名乗る変人ヤロウから・・」
優哉はこれまで話されたことを全て話した。
そして、話が終わると、男が口を開いた。
「・・そんなことが、ありえるのか・・。アンタがその刀を持っているとは・・」
男もキゼルと同じく、恐れた顔をした。
「この刀・・・何なんだ?」
優哉は問いかけた。
「・・『悪魔』だ。今から数百年前、一人の男が死に、その魂から現れたとされる伝説の悪魔・・。
ソイツは何とかっていう名前を名乗って、戦争から人々を守った優しい悪魔。
だが、政府はその能力に恐れを抱き、全世界vs悪魔一人の戦い・・・
『デビル・インパクト』を起こした。そして、その戦いで悪魔は死んだ。その悪魔を殺したとされるのが、その刀、『デーモン・スカル』だ。そして、悪魔はその刀にとり憑き、者と呼ばれてる」
優哉はこの話を聞くと、何だかワクワクしてきた。
「悪魔・・。そんなこと信じられねぇが、今この状況を見ると、信じるしかねぇみたいだな」
優哉は苦笑いをしながら言った。
「まぁな。俺も最初はそうだった。だが、いろんなものを目の当たりにして、確信を持った」
男は懐かしそうにそう言った。
そして、優哉は思い出したくは無かったが、あの時の夜のことを聞いてみた・・。
「・・そういや、俺の師・・いや、知り合いが死んでさ。しかも、俺の目の前でだぜ?
で、そしたら身体からこの刀が出てきたんだよな・・これって・・」
優哉が言い終わる前に、男が口を出した。
「ランス!それ、ランスのことか!?」
男はよく分らないことを言った。
「え?」
「あ、それはミドルネームだから・・本名は・・・」
男は何故か焦りながら考えていると、優哉が言ってみた。
「沙汰?」
「・・そう!そうだ!沙汰だ!・・どんな関係だったんだ?」
男は興味が沸いてきたのか、今度は優哉に問いかけた。
「師弟・・かな」
優哉は懐かしさと共に、悲しさもこみ上げてきた。
「そう、だったのか・・。なら、アンタ使えるかもしれない!俺は鞍塚 零、アンタは?」
「え・・・希咲優哉だけど・・」
優哉は希咲というワードを言うのをためらいながらも言った。
そんな優哉に対し、零は目から輝きを見せていた。
「決まりだ!俺と同行してくれ!よろしく!」
零は手を差し出した。
「お、おぅ・・・」
そして、優哉は少し困惑しながらも手を出し、握手を交わした。
すると、何やら人影が近づいてきた・・・。
5人の者:前編《終》
は~い。お疲れ様です^^
申し訳ありませんが今回も2段階構成で行きます><;
後編は来年になりますが、その時まで期待しててくださいね~w
それにしても、気になりませんか?w
あの刀w
僕は気になりますね←((お前が気になってどうする
零とかも、沙汰のこととかも・・まだまだ謎ばかりですが、どんどん判明していくんで、期待しててください^^
では、後編!お楽しみに~☆ヽ(▽⌒*)