嘘告白をした彼女
1
「今まで付き合ってたの、あれは全部嘘。本当は罰ゲームで嘘告白をしたの。でも悠介が私の嘘告白を真に受けて喜ぶから、つい面白くて、からかってただけなんだよね」
涼香が軽やかな声でそう言った。
クラスの数人がクスクスと笑う声が聞こえる。
僕の頭の中は真っ白になった。
嘘だ、そんなはずがない。
この半年間のあの日々が演技だったなんて。
手をつないで一緒に登校し、その時に道草をして二人とも遅刻をして怒られたこともあった。夏休みには、夏祭りに浴衣を着て行って花火を観た。海にも行った。ハロウィンでは二人で仮装して、お互いの姿を見て笑いあった。
そして、お互いの初めてを捧げた……。
それが全部嘘だったなんてありえない。
しかし、僕を見つめる彼女の瞳には冷たい光しか宿っていなかった。
「まさか、本気にしてたの? ホント、バカっかみたい」
彼女の言葉の一つ一つが僕の胸に突き刺さった。
縋り付くように手を掴もうとしたが、彼女はその手を払いのけ、教室から出て行ってしまった。
そして、翌日から、彼女は学校に来なくなった。
2
私は点滴のチューブに繋がれながら病室の窓の向こうに見える碧い海を眺めていた。
「余命はあと一年です」
半年前に医師からそう告げられた。
治療法がまだ確立していない難病だった。
『まだ17歳なのにどうして私が何百万人に一人しか発病しない難病にかかるのよ。死ななければならないのよ』
そんな嘆きと絶望の淵を彷徨っていた。
あと半年経つと末期のがん患者のようになり、衰弱してゆき、死ぬのだと説明を受けた。ただし、今は自覚症状がほとんど無い状態で、あと半年間は普通の生活を送ることができるとも言われた。
私には、その半年の間を思い残すことの無いように過ごすことしか無かった。
『死ぬ前にどうしてもしたいこと』をリストアップした時に真っ先に浮かんできたのが悠介のことだ。
悠介はクラスメートで、私が片思いをしている相手だ。
余命がいくばくも無いなら、悠介に告白して、もしも受け入れてくれたら、一度でいいから二人でデートをしてみたかった。
でも、振られてもいいとさえ思っていた。振られたら死ぬことに何か諦めのようなものがつくと思えた。
しかし、告白をした結果は意外なことになった。
夕暮れ時の校舎裏で告白をすると、悠介から「僕も涼香のことがずっと好きだった」と言われて、強く抱きしめられた。
それからの半年間は、本当に夢のような日々だった。
毎日が輝いていて、生きていることの喜びを心から感じた。
でも、彼が私を愛してくれればくれるほど、胸が締め付けられるような恐怖が私を襲った。このまま私が死んだら、彼はどれほど深く傷つくだろう。
そして何より、病状が進めば髪は抜け、顔はむくみ、痩せ衰えて老女のようにやつれていく。彼の中に残る最後の私がそんな醜い姿であってほしくないと思った。
綺麗な私のままで彼の記憶に残りたかった。
だから私は、あの日、悪女を演じることにした。
彼に私を嫌わせ、憎ませて忘れてもらうために酷い言葉を投げつけた。
(これでいい。これでいいのよ。きっと彼は私を恨み、私との思い出に蓋をして、新しい未来へと進めるはずよ)
そう自分に言い聞かせた。
すると、病室のドアが勢いよく開いた。
そこに立っていたのは悠介だった。
3
「なんで……どうしてここに……」
涼香は唖然とした表情で僕を見た。
僕は彼女にまっすぐ歩み寄り、そっとその手を取った。
「あれが嘘だってことくらいわかるよ。一緒に過ごしたあの半年間が僕らの真実だ」
涼香の瞳から涙がこぼれた。
「涼香がどういう状態なのかは聞いた」
「なら、分かるでしょ。私はこれから毎日、ボロボロに朽ち果ててお婆さんみたいになって死ぬのよ。そんな姿を悠介に見られたくない」
「どんな姿になってもいい。お願いだから、最後まで隣にいさせてくれ」
「でも……」
そのあとに続く言葉を僕は唇でふさいだ。
それから僕は毎日病院に通い詰めた。両親と学校とよく話をし、なんとか高校の卒業だけはできるようにし、大学は推薦で進学することにした。本当は高校なんて中退してもよかったが、涼香が心配するので、ちゃんと高校を卒業して大学に通うことにしたのだ。
薬の副作用で髪が抜け、体が痩せていっても、僕は涼香の傍に寄り添い、ずっと「綺麗だよ」と言って彼女の手を握り続けた。
そして翌年の葉桜の頃、涼香は静かに息を引き取った。
病室の窓から差し込むやわらかな光に照らされた彼女の顔は、まるで眠っているようで、この世の誰よりも美しかった。
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