五話 分からない。
前回に引き続き読んでいただき、ありがとうございます!
また、素人なためあまり上手く書けていませんが、温かい目で見てくださると幸いです!
男の声は低かった。怒鳴ってはいない。
だが、怒りがわずかながら滲んでいた。
「そうですが……」
男の視線が、僕の全身を舐めるように上下する。
「昨日の模擬戦。妙だったな」
「……何がですか?」
問い返した瞬間、男は睨みつけながら言った。
「あれは初心者の動きじゃねぇ。それに半魔ってのも怪しい」
空気が変わる。
本能が、この男は危険だと告げていた。
「東魔高。模擬戦。半魔。どれも怪しいんだよ」
男は、逃げ道を塞ぐ位置に立っていた。
危害を加える気配はない。だが、逃がす気もない。
「誤解です。僕は…」
「誤解で済めば楽だよな。そもそもお前が魔人になった理由も、完全な魔人になろうとする考えも、お前の立場じゃ理解できねぇんだよ」
「それは…」
男の肩がわずかに動く。
拳が握られたのが、はっきりと見えた。
来る――そう思った瞬間。
「そこまでだよ」
聞き慣れた声が割って入る。
「みつきさん……?」
男の動きが止まり、振り上げかけた拳がゆっくりと下ろされた。
「個人的な感情で新人に手を出すのは規律違反だ」
「……チッ」
男は舌打ちをし、僕から視線を外す。
「確かに君の言うことは正しい。でも、秋くんを魔人にし、連れてきたのは私。責任は私にあるから異論は私に言うべき。」
男はハッとし、みつきさんに謝る。
「すみませんでした。しかし、この男は危険です。後ほどまた、水瀬さんに伺いにいきます。」
そう言いながら足を歩める。
去り際、すれ違いざまに囁いた。
「俺はお前の行動を監視している。怪しいことしたら俺はお前を断罪するだろう。」
その背中を見送りながら、僕は思う。
あの男の言葉は、言い得て妙だ。
確かに、魔人になろうとするなんて常人が考えることじゃない。
ましてや東魔高の生徒がわざわざ魔人になり、半魔から完全な魔人になろうとするなど、外から見れば怪しさしかない。
考え込んでいると、みつきさんが心配そうに声をかけてきた。
「去り際に何か言われたみたいだけど、秋くん大丈夫?」
「はい、大丈夫です……それより、あの人はどういう方なんですか?」
「さっきの奴? 半年前に入ってきた関戸という奴で、一応新人なんだよねー」
「そうだったんですね……あまり良い印象を持たれていないようでした。他の人も、同じように思っているかもしれません……」
「確かにその可能性は高いだろうね。こうなってしまったのも私の責任だからどうにか理解してもらえるよう策を講じるよ。」
「すみません。ありがとうございます」
なんとなく、みつきさんの言葉は少しだけ心が温かくなる気がする。
もしかしてこの感情は中山くんや下田さんの言っていた恋というものなのだろうか。それとも…
「秋くん? さっきから考え込んでるけど、どうしたの?」
「すみません、何でもないです。それより、伊藤さんから団地の一室を貸していただくことになったんですが、4号棟の202号室って分かりますか?」
「うん。よかったら案内するよ」
「いいんですか?」
「全然いいよー。それに私のお隣さんになるしね」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。私が秋の面倒見るって伊藤ちゃんが手配したみたい」
「伊藤さん……後でお礼を言わないと」
「とりあえず行こ。伊藤ちゃんから聞いたけど、あの後寝ずに学校行ったんでしょ?」
「すみません、ありがとうございます!」
「あと、その“すみません”っていちいち謝らなくていいからね」
「すみま……あっ、分かりました! 気をつけます!」
「それでよし」
みつきさんは楽しそうに言う。
僕も、なんとなく楽しいと感じていた。
鈍感な僕でも分かる。みつきさんといると、感情が大きく動く。
「生活に必要なベッドとか洗濯機は用意されてるはずだから、不便はないと思うよ」
「色々とありがとうございます」
「全然いいよ。これが組織の強みだしねー」
「あ、そうだ。聞こうと思っていたことなんですが、僕とみつきさんの関係って何ですか?」
「ん? あー、あまり考えてなかったな」
「やっぱり先輩、とかですか?」
「まあそれに近いけど……友達でいいんじゃない?」
「なるほど、ありがとうございます!」
「納得いったみたいで良かった」
こうして僕たちは別れ、それぞれの部屋へ入った。
用意されていた部屋は広く、2DKで和室が二部屋ある。
机の上にはメモと黒い服が置かれていた。
『秋くんへ
模擬戦のとき、制服がかなり汚れてたの思い出したから訓練用のスポーツウェア用意しといたよー
あと寝巻きも一応ね
伊藤より』
伊藤さんの優しさを感じながら、僕は着替える。
押し入れには布団、キッチンには一通りの電化製品。
「ここは廃墟地区なのに、どうやって電気を供給しているんだろう?」
独り言を零す。
だが、睡魔はすでに限界だった。
布団を敷き、アラームをセットし、横になる。
目を閉じた、そのとき――
ふと、男に言われた言葉が脳裏をよぎった。
――確かに、あの男の言う通りだ。
なぜ僕は魔人になったのか。
なぜ、半魔から完全な魔人になりたいと思ったのか。
分からない。
普段の僕は、何に対しても興味がなく、感情も薄い。
それなのに昨日は、みつきさんが気になって路地裏に入り、
死ぬか魔人になるかの選択で、迷わず魔人を選んだ。
動機はない。
なのに、選択だけははっきりしている。
その事実が、胸の奥で引っかかる。
まるで自分の意志ではないみたいだ。
誰かに押されているような、
導かれているような…
思考がそこに辿り着いた瞬間、
僕の意識は、ぷつりと途切れた。
眠りに落ちたのか、それとも――
深い闇へ、静かに沈んでいく。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
また、「ここがおかしい」や「他の作品に似ている」などの意見があれば言っていただけると改善できるかもしれません!
もし、アドバイスなどあれば言っていただけると次のモチベーションに繋がります!
よろしくお願いします!
次回は20日金曜日を予定しています!




