一話 君はどちらにしたい?
続きを読んでいただきありがとうございます!
まだまだ未熟なため表現がおかしかったり、回りくどかったりするかもしれませんが、ご了承の上で読んでいただけると幸いです!
僕は関東魔人学総合高校――通称・東魔高に通っている。
魔人学に特化した、関東でもトップクラスの公立高校だ。名前はやたらと長いが、偏差値は七十一。普通の高校とは少し違う校風と、独特な教育カリキュラムで知られている。
六月十六日、火曜日。
六限目の魔人学の授業で、僕は席に座っていた。
「前回までは魔人の歴史を扱ったが、本時は生態についてだ」
教師は淡々と話し始める。
「基礎知識として覚えていると思うが、魔人の身体能力は人間の約七倍。自己治癒力は十倍以上。他の生物には見られない特殊能力を有する。食性は人間の血のみだ」
黒板に要点を書きながら、教師は続けた。
「捕食、あるいは能力を発動する際、両目の瞳孔が赤く変化する。だが、その仕組みは現代科学では解明されていない」
僕は教科書を開きながら、その言葉を聞き流していた。
魔人――怪人、吸血鬼。人間とほとんど同じ姿をしていながら、まるで別の生き物。
昔の日本では妖怪と混同されて怪人と呼ばれ、海外ではヴァンパイアと呼ばれる存在。
人智を超えた力を持つ、少数種族。
やがて終業のチャイムが鳴る。
「今日はここまで。明日も六限に授業がある。復習を忘れないように」
教師はそう言うと、さっさと教室を出ていった。
その直後、後ろから声をかけられる。
「なあ、秋。今日、一緒に夕飯行かないか?」
中山 優斗だった。
席が近く、委員会も同じで、よく話すクラスメイトだ。
「ごめん。今日は復習したくて」
「そっか。じゃあ、また今度な」
「うん」
そう答えたものの、僕の心は少しも動かなかった。
楽しい、という感情が昔から薄い。何をしても、心が満たされることがない。
完全に感情がないわけじゃない。ただ、どこか欠けている。
そんな感覚を抱えたまま、気づけば家に着いていた。
机に向かい、教科書とルーズリーフを並べる。
そこで、消しゴムがないことに気づいた。
考え事をしながら片付けたせいだろう。
いつも常備しているが、今日使っていた消しゴムが最後の一つだった。
仕方なく、近くのコンビニへ向かう。
財布とスマホだけを持って家を出た。
僕は、一度何かに集中すると周りが見えなくなる。
興味のあるものが極端に少ない分、集中すると他が消える。
そんな癖の理由を、僕はなんとなく分かっていた。
母子家庭で育ち、遊ぶこともなく、勉強だけを続けてきたからだ。
母は一人で僕を育ててくれた。
無理を重ねて働くその背中を見て、僕はただ、邪魔にならないよう生きてきた。
――生きる意味が分からない、と思ったことはある。
それでも、母の存在が僕を踏みとどまらせていた。
気づけば、消しゴムはもう手に入っていた。
店を出ると、湿った生ぬるい空気が肌にまとわりつく。
その時、駐車場の奥で言い争う声が聞こえた。
制服姿の少女が、男三人に囲まれている。
「何度も言ってるでしょ。興味ないって」
銀髪の少女だった。ウルフカットで、整った顔立ちをしている。
「そんなこと言わずさ、一緒に遊ぼうぜ?」
茶髪の男が少女の腕を掴む。
嫌悪感が、遠目にも分かった。
僕は一度、視線を逸らした。
関わる理由はない。勉強もある。
――なのに。
男たちが少女を路地裏へ引きずるのを見て、足が動いていた。
物音を立てないよう、後を追う。
そして、目にした光景に息を呑んだ。
男たちは地面に倒れ、血にまみれている。
少女は、別の姿になっていた。
瞳孔は真っ赤に染まり、異様な気配を放っている。
体が、動かない。
少女は血のついた指を舐め、こちらを向いた。
懐から銀色に光るものを取り出す。
瞬きをした瞬間、彼女は目の前にいた。
首元に冷たい感触。
ナイフだ。
「君、なんでここにいるの?」
声は冷静だった。
「……どうして、気づいたんですか」
「東魔高の制服…君、魔人の嗅覚のこと習ったでしょ」
確かに、今日の授業で聞いた。
「私たちは、人間の血の匂いを嗅ぎ分けられる」
逃げられたはずだ。
それでも、僕は動かなかった。
恐怖なのか、それとも――。
「選んで」
少女は静かに言った。
「このまま殺されるか、魔人になるか」
「……魔人になる…どういうことですか…?」
「魔人は人間のように子供を作らない種族。そして、魔人は元々人間だよ。」
「そんな…でもどうやって魔人に…」
「私の血を飲む」
一瞬、何を言っているのか分からなかったが、僕は即決した。迷いは全くなかった。
「僕を、魔人にしてください」
「……分かった。ごめんね」
「どうして謝るんですか」
「私は今から、君の人生を壊すから」
少女はナイフを逆手に持ち替え、自分の左手を刺した。
溢れ出る血を、差し出される。
「飲んで」
僕は戸惑いながらも、意を決してその血を口に含んだ。
生温かい液体が僕のなかに入っていく。なぜか鉄の味は、しなかった。
少し身体が熱くなったがすぐにそれは消え、僕は確信する。
「これで僕は魔人に……」
顔を上げると、少女が戸惑った表情をしている。
「……目が」
「?」
「片方しか、赤に染まっていない」
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次回は1月23日金曜日を予定しています!




