Stage6 ここな、心の休息
ここなの隣には、銀色の髪を持つ、憧れの少女が立っている。
「し、白銀ゆきねさん!?」
ここなの声に気づいたゆきねは、口に人差し指を立てる。
「騒ぎになっちゃうよ」
「あ、すみません……」
落ち着きがないのか、ここなは何度も頭を下げる。
「でもまさか……ゆきねさん……アイデレラだったんですか……?」
顔が赤くなりながらも、ここなは少しずつ言葉を出す。ゆきねは小さくうなずいた。
「そうだ。僕がゆきねをスカウトした」
「トーン……!」
トーンの声が聞こえ、ここなは反対方向を向く。
「僕がこの世界に来たとき、ゆきねがライブをしていた。間違いなくアイデレラに向いていると、ライブでの元気なパフォーマンスを見て思った。そこで、ライブを終えたゆきねに声をかけた」
「そうなの。初めはびっくりして本当なのかって思ったの。でも話していたらサッドンが出てきて、自分の歌で悲しみを打ち消したいって強く思ったの。そしたらキラキラしたマイクが、あたしのところに来て、握ったらアイデレラに変身しちゃった」
トーンとゆきねが、ゆきねのアイデレラデビューのことを話した。
「あのときはありがとう、助けてくれて。アイデレラが増えて、あたしはとっても嬉しいの」
ゆきねはそう言って、片手をここなに差し出す。ここなの手が緊張で震える。ゆっくりと、ゆきねの手に近づけていく。
ゆきねは、優しくここなの手を握る。
「はじめまして……海風ここなです……。ずっと前からあなたのファンです……」
「よろしくね、ここな」
ここなは、トップアイドルであるゆきねと、念願の握手を交わしたのだった。
「また一緒にライブしようね!」
そう言うと、ゆきねは顔を少し下に向けながら走り去っていった。人々に、ゆきねだと気づかれないようにするためだろう。
「よし、そろそろ帰るか」
「あっそうだ! 実は相談があるんだけど……」
ここなは、精神科で医者から言われたことをトーンに話そうとする。
「精神科でお医者さんから、学校を休むことを言われて……。でもママに反対されそうで……」
母親から虐待を受けていることも合わせて話した。
「それなら僕が協力して、君の母親を説得してみせるよ」
「いいの?」
「もちろんさ。僕はここなのためならどんなことだってする」
ここなは、トーンの心強さを感じた。
「僕を、君の家まで案内してくれないか?」
ここなは、トーンと一緒に帰宅することになった。
★
母親からまた何か言われると思い、家に入れないここな。トーンが、家のチャイムを鳴らす。
「僕は、ここなの友達のトーンです」
母親が出てくる直前、ここなはトーンの後ろに隠れる。そして母親が扉を開ける。怒っている様子は見られない。
「実は、あなたに用があって、お邪魔することにしました」
「はあ……どうぞ」
母親は、なんとも言えない表情だが、トーンを家に入れることにした。トーンにくっつくように、ここなも家に入る。
「ここな、部屋で待っててくれ」
ここなは、トーンの指示通り、自分の部屋に入った。トーンは、母親とともに居間へ向かう。
「あなたに話しておきたいことがあります。あなたがここなに虐待をしていること」
「虐待? そんな覚えはないけど」
「自覚がないようですね。ここなはすごく傷ついているんですよ」
「そんなこと……」
「いじめられているここなを無理やり学校に行かせたり、なんでもここなが悪いと言ったりしてましたよね?」
「……」
自分の言動が知られたことに、母親は絶句する。
「……私、実はすぐ何かに当たってしまう性格で、しかもここながよく失敗してるから、怒って気分を晴らしたかった……」
怒りやすい母親とは思えないくらい、声が沈んでいた。
「ここなは優しくて、毎日を生きている。だからここなを責めるんじゃなくて、ほめてください」
母親は、うつむきながらうなずいた。
「それから1つ。ここなが、心の疲れで学校を休みたいと言っています。それを承諾してほしいのです」
「ここな……」
母親は、手で顔を拭う。声には涙が混ざっている。そして「分かった」と言う。
「もうここなに虐待しない、というのならそれでいいのです」
母親は、初めて他人ではなく自分を責めているのに気づくのだった。
★
その後、トーンはここなの部屋に入る。
「学校休んでいいって、母親が言ってたよ」
「ありがとう、トーン……」
「もう大丈夫。ここなの心はきっと元気になるよ」
そう言って、トーンはここなの背中を優しく撫でた。
★
翌日、ここなは学校を休んだ。部屋のベッドで横になっている。
「自分の部屋……すごく居心地がいいな……」
ふかふかの布団は、いじめられてきたここなを慰めてくれるかのように、温かかった。
ここなは、目を閉じると、アイデレラとしてライブをしていたときの自分を思い浮かべる。元気いっぱいに歌って踊って。悲しみを吹き飛ばして。そんなことを考えていると、ここなは今、自分の心をいたわることに専念しようと思うのだった。
それから夕方になり、仕事に行っていた母親が帰ってくる。その数分後、チャイムが鳴った。母親が玄関に向かう。
「お邪魔します」
トーンの声が、部屋にいるここなのところに届いた。母親はトーンを家に入れると、トーンはここなの部屋に向かう。トーンが扉をノックする。
「ここな」
トーンが、ここなのベッドの横にしゃがむ。
「具合はどうだ?」
体調が悪いわけではないが、心が傷ついてきた影響で、体が重たいのを感じていた。しかし、休んでいるうちに、心が回復していき、笑顔を見せられるようになっていた。そのことをここなはトーンに話す。
「ここなの笑顔を見られてよかった」
ここなは、布団から手を出す。その手を、トーンは優しく握る。
「明日は学校行けるかも」
「よかった。でも無理はするなよ」
トーンが、ここなを気づかうように言った。
こうして、学校を休むことで、ここなは心を回復できたのだった。




