Stage4 トーンがここなの学校に来た!(1)
ここながアイデレラデビューした翌日。ここなは、学校に向かう前の重苦しい気持ちの中、ぼーっとしながら味のしないトーストを食べていた。
「昨日、ねおん市に新たな謎のアイドルが現れました」
そんなニュースがテレビから聞こえ、ここなはテレビに目を向ける。
「……!」
テレビに映し出されたのは、ステージで震えながら歌うアイデレラ・オーシャンの姿だった。そしてサッドンをやっつけるところも流された。
「そのアイドルは、最近現れるようになった謎の怪物を、やっつけてくれました。今後の活躍に期待です」
少し興奮気味のアナウンサーの声が聞こえた。
ここなは、変身した姿とはいえ、まさか自分がテレビに映るなんてと思いながら、視線をトーストに向けた。
そしていつものように、重い足取りで学校に向かうのだった。
★
ここなの通う学校で、クラスメイトたちが話をしている。
「昨日のライブ、すごかったよねー」
「見たことない子が歌って、それに怪物もやっつけてくれてたね」
クラスメイトたちは、スマホを見せ合いながらアイデレラ・オーシャンのことを話し合っていた。
画面に映っていたのはSNSのトレンドランキングで、一位のところには、#アイデレラ・オーシャンと書かれている。SNSでもすでに話題となっているようだ。しかしオーシャンの正体がここなであることは、誰も気づいていない。
授業が始まる直前、ここなが教室に入ってくる。
「あっ来たよ、クラスで一番ダメな子が」
クラスメイトの一人がそう言った途端に、クラスが静まり返る。ここなはうつむきながら、自分の席に向かう。傷だらけの机の上に、カバンを置く。
「価値のないここなが、なんで学校に来るんだよ」
いつものように、ここなへのいじめが始まってしまった。
★
その頃、ディスコーズの四人が、アイデレラを倒す作戦を話し合っていた。
「みんな、大変だ。アイデレラがもう一人現れた」
「えっ!?」
「でも心配は不要だ。歌うのに慣れてないから倒すのは簡単だろう」
ダーコンが、もう一人のアイデレラのことを報告した。そして、アイデレラ・オーシャンのライブ動画を見せる。不安になった三人を見て、すぐ前向きな考えを示す。
「絶対に、俺たちで悲しみに満ちた世界を作ってやろうじゃないか!」
「よし、今回も俺が行くぞ」
「頼んだぞ、ダーコン」
ディスコーズは、世界を悲しみで満たすことを目的としているようだ。
★
さらに翌日。ここなはどんよりしながら学校へ向かっていた。外の空気を吸うのが、ここなにとって苦痛となっている。
「どうして学校、休んじゃダメなのかな……」
学校を休みたいと言ったら、母親に怒鳴られてしまったのだ。「学校は行くのが義務」だと。
足取りは重く、学校に着いたのは、ホームルームが始まる直前だった。
教室に入ると、素早く自分の席に向かった。教室の端にあるので、一部の人には気づかれにくい。
そしてすぐ先生が入ってきた。
「みなさん、お知らせです。本日このクラスに、転校生がやってきました」
先生の言葉に、クラスメイトたちがざわつく。
「では入ってきてください」
扉が開かれ、入ってきたのは、ここなにとって見覚えのある人だった。
「あの人……!」
ここなの胸が一瞬跳ねる。
「僕は、五線譜トーンといいます。遠い田舎から上京してきました」
異世界出身であることを隠すためなのか、トーンはこう言った。
「初めての都会、慣れないことも多いですけど、仲良くしてください」
そしてトーンは、黒板に自分の名前をゆっくり書いた。トーンの丁寧な字を見て、クラスメイトが拍手する。
「これからよろしくお願いしますね、トーンさん」
「はい!」
トーンが、ここなの学校に転校してきたのだった。
「ではトーンさん、海風さんの隣の席へお願いします」
「分かりました」
なんと自分の隣にトーンが来るなんて。驚きの連続で、ここなは放心状態となっていた。
★
授業中、ここなは先生から当てられてしまった。
「あれ……なんだっけ……」
ここなは、長期間のいじめによって、授業内容が頭に入らなくなってしまっていた。
そのとき、トーンが手を挙げた。
「では、トーンさん」
「はい、答えは『をかし』です」
「正解です」
ここなを庇うかのように、トーンが正解を言った。クラスメイトの拍手は、ここなにとって悔しいものに聞こえた。
それから休み時間になり、クラスメイトたちはここなをいじめ始める。
「あんな問題、どうして分からなかったんだよ」
「ここなが勉強してこなかったからだろ」
数人のクラスメイトたちが、ここなを囲んでいる。ここなは、自責感でいっぱいになっている。
「やめるんだ!」
悪に満ちた笑いを浮かべていたクラスメイトたちは、一瞬にして怯えた表情になる。トーンが、ここなを助けようとしているのだ。
「ここなを悲しませて、何が楽しいんだ!?」
「……」
クラスメイトたちは、何も言えない。
「……ごめんなさい……」
一人が、小声で謝罪する。つられて、他の人たちも謝った。それから、つらい表情で席に戻っていった。
「ここな、君は何も悪くない」
今まで泣けなかったここなだったが、少しずつ涙がこぼれ始める。
苦しみから解放され、泣き始めるここなを、トーンは優しく撫でるのだった。




