Stage2 アイデレラ・オーシャンのデビュー(2)
ここなは、学校からしばらく歩いたところで、足を止めた。帰る気になれないのだ。
「助けて……」
味方が誰もいないと感じるここなは、苦しみから無意識にそう言った。行き交う人々には届いていなかった。
その場で立ち尽くすここな。その近くの建物の屋上で、一人の男が街を見下ろしていた。この男こそが、ディスコーズの一員であるダーコンだ。
「出てこい、サッドン!」
ダーコンは、地面に向かって魔法を放つ。そこに、ドロドロした怪物、サッドンが現れた。
「!」
人々の悲鳴に気づいたここなは、うつむいていた顔を上げる。
「あの怪物だ……」
サッドンを見たここなは、気づかれないようすぐ逃げ始めるが。
「♪☆¥$○・¥¥$〜!」
なんとサッドンが、大声を上げ始めたのだ。その声は、不協和音そのものだった。
すると人々は、その場に倒れたり、座り込んだりし始める。
ここなも、座り込んでしまう。
「この世界……大嫌い……」
「消えてしまいたい……」
住民たちのネガティブな声が聞こえてくる。ここなは、思うように体を動かせなくなっていた。鉛のように体が重い。
「……っ!」
悲しむ住民たちの声によって、ここなは泣きそうになっている。
「このサッドンは、不協和音で一気に多くの人を悲しませられるんだぜ……」
悲しむ人々を遠くから見ているダーコンが、自慢げに言う。
ここなが動けなくなっている、そのとき。光に包まれたのにここなが気づく。
「あっあのステージ……」
見覚えのあるステージが現れ、その上にこの前の白いドレスの少女が立っていた。そして音楽が流れる。
「いつも~楽しい~キラキラの~世界~」
少女の歌声は、悲しみと自己否定に苦しむここなに、しっかり届いていく。
「なぜだかやっぱり、あの子の歌を聞いてると……悲しみが吹き飛んじゃうよ……」
「誰も~世界の~すべてを~知らないから~」
ここなは、手に持っているサイリウムを振り始める。
アイドルのライブは、ここなにとっての至福の時間だと感じるのだった。
「きっと~魅力的な~場所が~あるよ~」
少女が歌い切る。悲しんでいた人たちは、先ほどとは違って大盛り上がりだ。
そのとき、歌っていた少女の頭上に、虹色の音符が現れた。
「スノー・ダイヤモンドショット!」
音符を手に宿し、いくつかのダイヤモンドをステージ付近のサッドンに放つ。
これで倒せたと思われたが……。
「¥☆+×→○・+<%¥$$€〜!」
なんとサッドンは、怒りからなのか、盛大な不協和音を響かせ始めたのだ。
観客たちが、次々と悲しみにおちいり、倒れ込む。ここなもだ。
ステージの少女も、悲しみで動けない。その間に、サッドンは少女に近づく。
するとサッドンは、少女に向かってビームを放った。
「きゃあっ!」
傷だらけになった少女は、苦しそうにステージの上で倒れている。
少女の悲鳴を聞いたここなは、ぱっと顔を上げる。少女の隣には、少女を起こそうとするトーンの姿があった。
「しっかりするんだ!」
「あの人……」
ここなは、アイデレラになってほしいと頼んでいた人だとすぐ気づく。アイドルである少女を助けたい。アイドルは私を元気にしてくれるから。そう思ったここなは、重たい体を動かそうと、ゆっくりステージに近づいていく。
ここながステージに上がろうとすると、トーンがここなの方を向く。
「君は……ここな!」
ここなは、ステージの上で立ち上がろうとする。
「私……すごく悲しい……だけど……みんなが悲しい世界なんてやだ……。アイドルのライブを台無しにするなんて……私は絶対許せない……!」
ここなが自分の気持ちを一言ずつ言う。そのとき、奇跡が起こる。
トーンの胸から、光が現れ、きらめくマイクに姿を変えた。浮遊し、ここなのもとに向かう。
「これはまさか……!」
トーンは目を見開く。ここなは何が起こったが分かっていないが、マイクを胸に当てる。そしてこう唱える。
「アイドルシンデレラ・オン・ステージ!」
するとマイクは光り輝き、ここなを包み込んでいった。
ここなの体は、青い光に包まれた状態となった。
「レッツドレスアップ! 軽やかなシューズ!」
こう唱えると、ここなにブーツが装着される。
「華やかなドレス! きらびやかなアクセ!」
ステップを踏んでいるここなに、衣装やアクセサリーが装着されていく。
「つややかなヘアー!」
そしてここなの青色の短いポニーテールが、水色の長いものに変化する。
変化が完了し、ターンをすると、ここなは無意識にこう言う。
「きらめく大海原! アイデレラ・オーシャン!」
ここなは、伝説のアイドル「アイデレラ」に変身したのだった……。




