Stage2 アイデレラ・オーシャンのデビュー(1)
「君、アイドルになりたいんだよね?」
謎の青年、五線譜トーンに声をかけられたここな。自分が密かに持っている気持ちを当てられ、ここなはぽかんとする。
「えっいや……アイドルなんて……」
ここなは、無意識にアイドルへの憧れを否定しようとする。
「僕には分かるんだ。君がアイドルに憧れているということを」
「……!」
ここなは、胸に何かが刺さったような感じがした。
「君に協力してほしいことがある。伝説のアイドル『アイデレラ』になってほしいんだ」
「アイデレラ……?」
「最近、この辺りで悲しみをもたらす怪物が現れるようになったんだ。あの怪物は、アイデレラにしか立ち向かえない」
ここなは、昨日現れた怪物を思い出す。
「でも私……なんの価値もないから……アイドルなんて……なれるわけない……」
「ここななら大丈夫……」
「これ以上話しかけないで!」
ここなは、トーンから逃げるように走り去った。トーンは呼び止めようとするが、ここなには聞こえていない。
「あんな人……怪しいに決まってるよ……」
ここなは、ため息をつきながら帰宅した。
★
とある暗い場所にて、怪しい男三人と、女一人が話し合っていた。
「今回も……負けてしまった……」
「どうしたら……アイデレラを……滅ぼせるのだ……」
「次は俺に任せろ。いい作戦があるから」
「助かる、ダーコン」
「俺たちディスコーズなら、アイデレラなんて簡単に倒せるさ」
悪の組織・ディスコーズの一人、ダーコンはその場から姿を消した。
★
「うつ病になったのは、全部ここなのせいだよ!」
帰宅後ここなは、うつ病の診断を受けたことを母親に話すが、人格を否定されただけだった。
部屋に戻ったここなは、荒い呼吸を何度もした。泣きたい気分だったが、感情の麻痺で、涙すら流せない。
「はあ……私は……どうして……こんなのばっかり言われるんだろう……」
しばらくして落ち着いたここなは、昨日ライブをしていた少女のことを思い浮かべる。
「昨日のあの子って……もしかしてアイデレラ……?」
怪物を撃退した少女は、トップアイドルのように歌が上手だった。
「こんな私が……アイデレラになれるわけないよね……」
アイデレラを探しているトーンに、声をかけられたここな。しかしここなは、アイデレラになれることは微睡も思っていない。その後、ここなは一睡もできなかった。
★
翌日になった。体が鉛のように重たく、ベッドから離れさせてくれない。その後ここなは母親に無理やり起こされた。朝食を食べる、制服に着替えることを体が拒否してくる。
乱暴に手伝った母親によってようやく準備ができたここなは、学校に行こうとするが、その足取りはとても重い。いつもの通学路は色を失っており、「消えろ」という幻聴が、周囲を歩いている人たちから聞こえてくる。
ふらつきながらも学校に到着したが、すでに授業は始まっていた。
「海風、今日も遅刻か! 何度言わせるつもりなんだ!」
と先生に怒鳴られるところから始まり、ここなはいつものようにいじめられたのだった。ここなは既に居場所を失っていた。
傷ついた机や椅子は、ここなの心と同じ状態だった。
「ここなはダメな人間だねー」
そんな声がときどき聞こえてくる。その度、ここなの心に1つずつ穴が開いていった。




