怪盗シルエイティの婚約破棄 七話
パーティーを開いた浮吉の周りには、招かれた来客たちが集まっていた。
彼は一人一人に紙のように軽い挨拶を交わしている。
そこに一人の女性が今いる人たちの間を縫って現れた。
「こんばんは、財前浮吉様」
ペコリとお辞儀をしたのは、明るい茶髪に黄色のパーティードレスを着た女性。
ぱっと見で明るく元気な子だと感じる。
浮吉は笑みを浮かべて挨拶をしようとした。
「こんばんは……」
しかし、名前が出てこない。
女性は微笑みを浮かべながら自己紹介をした。
「真子ちゃんの友達の沙雪と申します」
「あー真子ちゃんのお友達か! 会えて嬉しいよ」
両手を大きく広げる。
沙雪は答えるように軽くハグを交わす。
「二人が婚約を結ぶなんて聞いた時は、驚いちゃいました」
上品な笑みを浮かべる沙雪だったが、浮吉の袖を引っ張る。
浮吉は釣られるように沙雪に連れられてホールの際に向かう。
彼女は辺りを見渡した沙雪は、手を添えてヒソヒソ話を始めた。
「浮吉さん、悪いことは言いません。あの子とは付き合わない方がいいですよ」
「何を言うんだい君は」
ムッと彼の表情が膨らむ。しかし、沙雪は続けた。
「真子は生真面目な性格で厳しいんです。一緒に生活したら毎日怒鳴られちゃいます」
彼女の言葉に浮吉は顔を曇らせる。
「うっ……確かに……」
「それに、付き合って日も浅いのに結婚するのは些か軽率だと思うんです」
沙雪の言葉に浮吉は何か言い返そうとしたが、言葉が出てこない。
彼女は彼を見てニヤリと微笑む。
グイッと浮吉の腕を抱き寄せて囁いた。
「あんな女と薄っぺらい恋をするより、私と本当の愛を気づきませんか?」
控え室から戻って来た真子は慌てて、会場にやって来る。
きょろきょろと辺りを見渡していた。
「誰か、お探しでしょうか?」
とても親切な背の高い執事が声をかける。
「あっはい、浮吉を探してるんです」
辿々しい口調で真子は答えた。
「それなら向こうのほうで見ましたよ」
男はクスリと笑ってから付け足す。
「焦らなくて大丈夫。あの人はそんな風に話しません」
真子は慌てて何か言おうとしたが、すでに執事は遠くまで行ってしまっていた。
そこに探していた男が現れる。
爽やかで見る人を魅了するような整った顔。しかし、中身は薄く信念のない無能。
財前浮吉だ。
彼は眉間に皺を寄せて、鼻息荒く真子の元に近づいてきた。
一体どうしたのか、不安を感じていると彼は突然、大声を出す。
「君とは婚約を破棄させてもらう!」
会場に響き渡る声は回りの者を釘付けにした。
突然の事に真子は目を丸くする。
だが、不思議と冷静に状況を受け止めてしまう。
(となれば、私は婚約破棄を言われた悲劇のヒロインということか……)
なぜ急にこうなっしてしまったのか、開目見当がつかない真子は困り顔を浮かべて尋ねる。
「どうしてなのかしら?」
浮吉は鼻を鳴らしながら答えた。
「出会ってまもない君とくっつくのはやはり可笑しいと気づいた。だから、僕は付き合いが長い紗雪と結婚する」
恥ずかしもなく彼は堂々と宣言する。だが、沙雪とも、つい先ほど出会ったばかり。
沙雪は猫のように甘い声でツッコミをした。
「も〜浮吉さんったら、これから関係を気づいて行くんでしょ」
おしどり夫婦のように絡む二人に目を逸らしたくなる。
そもそも、真子とは軽井沢で偶然出会った程度、デートの際は荒い運転に常にヘラヘラとしていて、ボディーガードも手を焼く始末。
これから先、彼の面倒を見なくて済むと思うと真子は思ったよりマシに思えてくる。
チラリと腕時計に目をやった。
(見送りで来ていたヒスイはまだいそうね……)
彼女は一瞬、目を瞑り嘆息を吐く。
「分かったわ。それじゃあ、部外者になった私は速やかにお暇させてもらうわ」
言い終えるとくるりと向きを返し、背の高いメイドが用意してくれた自分の鞄を持って会場を後にした。
真子が立ち去ったすぐ後に背の高い執事が慌てて駆けつける。
「た、大変です。出ました! 出てしまいました!」
「なんだい。見苦しいぞ、息を整えてから話せ」
眉間に皺を寄せる浮吉に執事は一礼をし、息を整えてから話した。
「大変です、お坊ちゃん……」
彼は一瞬、躊躇ってしまうがすぐにあの名を口にする。
「怪盗シルエイティが現れました!」
「なんだって!」
会場は一瞬でざわつく。
「怪盗シルエイティですって!」
「まぁ〜どこにいるのかしら」
執事は浮吉に父親、財前武司からの伝言を話した。
「旦那様から伝言です。パーティーは中止、ブレスレットが盗まれた。参加者はしばらく、屋敷に残ってもらう。もし、帰る奴がいればそいつがシルエイティだ。とのことです。」
執事が言い終わる前に浮吉は急いで会場を走り出す。
先ほど、追い出してしまった事を後悔する。
外に出ると真子は階段を降りて、迎えの古臭い青色の車に向かっていた。
「真子! 真子ちゃん! ちょっと待って!」
息を切らしながら叫ぶ彼に彼女は振り返る。
その眼差しは数時間前まで見せてくれていた優しい眼差しとは違った。
「なんですか? 浮吉さん」
睨みを効かせる彼女に一瞬たじろいでしまう。
浮吉は館を指差しながらまるで子供のように大声で叫んだ。
「大変なんだ! 怪盗シルエイティが出たんだよ、君の推しさ。父さんの宝を盗んだんだ」
「だから?」
「だから? え? えっと……会場の人間に変装しているかもしれないから、帰らせないようにしなくちゃいけなんだよ」
真子の言葉に動揺しながら訳を話す。
浮吉は真子のゴミを見るような冷たい視線と態度に疑問を感じていた。
(どう言う事だ? こないだまであんなに楽しそうにしていたのに、さっきのこと怒っているのかな?)
ふと、彼女の背後に見える車から一人の男が降りてくる。
背が高く自分ほどではないがなかなかいい顔をしていた。
ニコニコと笑みを浮かべた彼は、助手席の方に回り、扉を開ける。
その光景にすでにボーイフレンドを作ったのだと、思った浮吉は慌てて止めようとした。
「も、もしかして、さっきの事怒ってる? 謝るからさ、もう少しパーティーを楽しんでってよ。そんな古臭い車に乗る男なんか掘っておいてさ」
彼の言葉にそばにいた男の表情がこわばる。
失言を言ってしまったかと焦る浮吉だが、この際部外者はどうでも良かった。しかし、浮吉の説得では真子を呼び止める事など、できるわけがない。
話を聞いていた真子は一瞬、後ろを振り返り、しばらくしてから、にこりと笑って浮吉の方を見つめる。
彼女は低い声で軽蔑の一言を言った。
「うるせぇ、頭スカスカ小僧。お前の横にいるなんてごめんだね」
胸を突き刺す様な言葉に唖然とする。
後ろの男はニコニコとした表情で笑いを必死に堪えていた。
漠然と立ち尽くす浮吉を前に、言い終えた真子は向きを変えて、青い車に乗り込んだ。
別れ際、助手席の窓が開く。
「それと」
言い忘れていた事を伝える。
「この車を馬鹿にしないことよ。好きな人を振り向かせたいならその人の大切なものを尊重しないと」
ちゃんと伝わったか、気にする事なく真子を乗せた青い車は走り出してしまう。
「……」
唖然とする浮吉の元に警備の男が走ってきた。
「竜胆真子は!」
カッと睨みながら尋ねる彼に浮吉は憔悴しきった表情で答える。
「行っちゃった……止められなかったよ」
聞いた瞬間、警備は膝を叩く。
「くっそ、怪盗シルエイティめ! 抜け抜けと出ていきやがって」
「今なんて?」
警備の言葉に浮吉は首を傾げる。
彼の反応に警備の男は叫ぶ。
「竜胆真子が怪盗シルエイティなんです! 早く追わなくちゃ……」
自社の車に向かった警備員の男。
車に乗り込んだ時、助手席のドアが開く。
浮吉がいつも以上に目を凝らして乗り込んで来た。
「僕も追いかける。あの女、僕を騙したんだ、許さないぞ!」
復讐に燃える眼差しに、警備の男は降りる様に説得できない。
「途中で降りることは、出来ませんよ」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
プロローグの場面と合流ですね。浮吉くんさぁ、どうしたらそうなるんだい?
彼の名前の由来は浮かれてる性格を思い浮かべて決めました。
「怪盗シルエイティの婚約破棄」が面白いと持ったという方は、
是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。
他作品も是非、読んでみてください。
よろしければ、X(Twitter)のフォローもお願いします。
https://x.com/28ghost_ran?s=11&t=0zYVJ9IP2x3p0qzo4fVtcQ




