怪盗シルエイティの婚約破棄 五話
財前家を出てきた真子の前に青いシルエイティが止まる。
中から背の高い女性、カイが出てきた。
「姐さ〜ん、迎えに来たよー」
気だるげな様子で彼女は手を振る。
真子は一瞬、誰もいない後ろを振り返った。
その後、ニンマリと不敵な笑みを浮かべて、決まり切った目で呟く。
「キー、よこしなさい」
「は〜い」
カイはポイっと鍵を放り投げる。
(姐さん、すっげ〜ストレス溜まってそうだ。これはスリリングな運転に絶対なる)
ニヤリと微笑みながら向かいの助手席に座るのだった。
いつの間にかツグモは机で眠っていた。
ブウウッと、唸る様なエンジン音で目を覚ます。
起き上がり、外を見る。
時刻は早朝でまだ少し暗く、周囲には霧が立ち込めている。
自然豊かな山々の広がる中、一台の青い車が猛スピードでこちらに向かってきていた。
(あの車は……?)
ジッと見つめていたツグモは目を見開く。
あれは真子の愛車だった。
(名前は……なんて言ってたっけ)
以前、教えてもらったのを思い出す。
彼女は車から名前を取ったと言っていた。
「そうだ、シルエイティだ! すごいな猛スピードで登ってくる」
気がつけば、シルエイティは坂を開け上がり、ドリフトを決めて、別荘の前で止まっていた。
中から二人の絶世の美人が乗っていた。
一人は背の高いカイ。もう一人はストロベリーブロンドの髪を払いながら真子が降りて来た。
「二人ともお帰り!」
ツグモはベランダから呼びかける。彼に気づいた二人は手を振る。
珍しく真子も大ぶりに手を振りかえしていた。
彼女は満面の笑みで叫ぶ。
「いいニュースよ。わたし、結婚が決まったの!」
次の瞬間、ツグモの体はガチンと凍りついた様に固まる。
目を丸くして、今にも倒れそうになった。
「浮吉さんと婚約が決まっちゃった〜」
朝食が並べられながら真子は楽しそうに訳を話す。
「デート中、あの人が言ってくれたのよ。真子ちゃん、僕と結婚しようって、わたし初めてだわ。そんな風に言われるなんて」
「それはとても素敵ですね」
椅子に座りながらヒスイが言う。
「いっそ、このまま足を洗うのはどうですか?」
「そうね、悪くない話だわ」
「じゃあさ、俺たちも着いて行こうぜ。そしたら、でっかいコース借りてレースできんじゃん」
愉快に話が進む中、ツグモだけが話について行けずにいた。
ブレスレットを盗む為にスカウトされた彼だが、浮吉に接触する際のアクシデントで、自分は今まで待機を命じられていた。
何不自由ない生活だったが、ここ数日が無駄になると考えると震えが止まらない。
何より……
「待ってよ!」
我慢ならず立ち上がる。
「婚約って本気で言ってるの?」
「えぇ」
「本当に嫁ぐき?」
「いい話だと思うのよね」
真子は人差し指を揃えて言う。その時、我慢できなくなったツグモが机を叩きつける。
「ふざけんな! あんな男に姐さんを嫁がせるもんか! 僕が盗んでやる!」
「「「!」」」
「……⁉︎」
ツグモの怒鳴り声に彼自分も耳を疑ってしまう。
彼の言葉に三人は思わずお腹を抑えて笑い出す。
「アハハハ!」
ツグモは慌てて口を塞いだが、もう手遅れだった。
恥ずかしさで今にも死にそうになる。
「ち、ちが……ブレスレットの方だ! わ、笑うな! 今のは間違えてただけだ。今まで待機していて退屈だったんだ。これじゃあ、今までと変わらない。むしろ、もっと詰まんないよ!」
慌てて弁明しようとするが無駄だった。
「アハハハ! あんな男に、嫁がせるものかだってよ。ヒスイ、聞い〜た?」
「えぇ、本当に退屈だったんでしょうね。まさか、恋敵が現れるなんてなんて素晴らしいことでしょう?」
双子は悪い顔をしながら笑い続ける。
あんまり、笑うのでツグモは恥ずかしさよりも怒りで顔が赤くなっていく。
真子は涙を拭きながら笑いを抑える。
「ご、ごめんなさい……まさか、本当に信じるなんて思わなくって」
「本当に信じる?」
眉をひそめて聞き返す。
「えぇ、婚約。あれを私が本当に受け止めると思う?」
ペロッと舌を出して、前のめりに尋ねる。
ツグモはどもりながら答えた。
「え、だって、帰って来た時……本当に……嬉しそうだったから」
チラチラと真子の方を見ると柔らかく笑っていた。
ツグモの反応が可愛げがあり、面白かったのだ。
真子は首を振ってから表情を一変した。
俯き、この時を待っていたと低くくすくすと笑い出す。
「下調べはこれで済んだわ。あなたたち準備しなさい」
双子は彼女の呼びかけですぐに動き出す。しかし、ツグモだけは状況が読み込めず動けずにいた。
「ほら、何しているの? あなたも準備しなさい」
「準備って何を?」
首を傾げる彼女に彼女は再びとペロッと舌を見せた。
「決まってるじゃない。盗みに行くのよ。あなたにはセキュリティーを破ってもらわなと。これから、いっぱい愉快な盗みを一緒にやりましょ」
彼女の言葉にツグモはぎゅっと掴まれる様な熱い思いを感じる。
真子の言葉を聞くとツグモにはどうしてか、力づいてしまう。
彼は急いで支度を始めたのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
どこに入れるか迷った裏話……結局、前書きに入れてしまった。
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