怪盗シルエイティの婚約破棄 三話
新しい仕事に心躍らせていた、数日前が懐かしく思える。
ツグモは、白を基調としたゴージャスなリビングで、テトリスを淡々と遊んでいた。
単純な作業で、次第につまらなくなる。
ついには放り出してしまった。
「あーなんだよ。待機って!」
広いリビングに声が響く。すると、台所からスラリと背の高いヒスイが姿を見せる。
「突然、大声を出してどうしたのですか、ツグモさん? いきなり騒ぎ出して」
ニコニコと張り付いた笑みで尋ねてきた。
「もうすぐ、昼食ができるので待っていてくださいね」
子供を宥める様に言って、彼は台所に戻っていく。
別にそういう訳でないツグモは、眉をひめる。
「お腹が空いて駄々を捏ねていたわけじゃない。ただ……」
その先を言おうとして口をつぐんでしまう。
数日前まで、情報を盗み出す生活していた彼だが、少し前に真子に大きな盗みに誘われた。
「一緒に盗みたいものがあるの」
ニヤリと余裕な笑みを浮かべる真子の顔を今でも思い出す。だが、結局、彼女一人で事足りてしまったのだ。
ターゲットの息子である、財前浮吉に自分が接触する手筈だった。しかし、アクシデントにより、その役をツグモではなく真子が担ってしまう。
軽井沢プリンスショッピングプラザでバッタリ出会った彼女たちは、そのまま付き合う事になったのだ。
毎日、食事や遊園地といろんな場所に出かけている
対してツグモは広い別荘で待機を命じられていた。
(正直……)
めちゃくちゃ快適である。
二十四時間、遊び呆けていられた。
初めて来た時は、リゾートホテルの様に贅沢三昧で、ベランダのプールで遊びまくったほどだ。
食事はヒスイが作る料理で、何が入っているか時々不安になるが美味しい物ばかり。
これ程贅沢できたのは、初めてだった。
それに比べ、真子の方は毎晩遅くに帰って来ては、ぐったりとやつれていく。
朝起きた時は、どんよりとした顔を浮かべ、疲れがヒシヒシと伝わってきた。
今朝、真子に進捗を聞いた際、彼女は浮吉の愚痴ばかりこぼしていた。
「あの男、最ッ低! わたしと言う女と付き合いながら他の子にまで手を出そうとするのよ!」
オレンジジュースを叩きつける。
「あげく、ボディーガード呼んで攫う気だったんだからね。なんとか、その場を収めたけれども……」
彼女の後ろで話を聞いていたヒスイが同情する様に頷く。
「それは大変でしたね。しかし、それは彼の問題であって、あなたが止めなくてもよろしかったのではありませんか?」
首を傾げる彼に真子はカッと睨みを向ける。だが、すぐに振り払う様に前を向いて言った。
「冗談じゃないわ! 横にいるわたしまでグルだと思われたくないもの」
ため息を吐きながら机に突っ伏した。
嘆く様な声をあげて言う。
「わがまま坊ちゃんとは、聞いていたけど、まさかここまでとはね……でも、何より許せないのは……」
コップが割れそうな程力手に力が籠る。しかし、怒るのは良くないと残っていたオレンジジュースを飲み干した。
だが、湧き上がる怒りは抑えきれずに漏れ出していく。
顔を歪め、歯を噛み締める彼女からヒシヒシと怒りが伝わってきた。
日頃からからかう事が好きなヒスイですら、真子の怒りに恐れ慄き、距離を置いている。
「あいつ、クソほど運転が下手なのよ……急加速に急ブレーキ、おまけに曲がるのなんて合図なしでガンガン曲がるの。あれでよく免許取れたわね!」
ツグモは真子の苦労に思わず、苦笑いを浮かべてしまう。だが、意気消沈する彼女にツグモは追い討ちの様に今日の予定を話した。
「あれ? 今日はそいつの家に行くんでしょ」
真子は突然口を押さえて、突っ伏した。
「うっぷ……」
これから起こることを想像すると吐き気が襲ってくるのだ。
財前家には、お目当てのお宝であるブレスレットが保管されている。
目標まであと少しだと思えた。しかし、浮吉の世話を一緒にしなくてはいけないと思うと真子の目から光が消えていく。
「え……わたし、あいつの家で大して面白くもない自作映画とか、趣味の悪い写真集見せられるの? もしかして、自宅のコースでスポーツカーに相席させられるわけ? わたし、殺されるんじゃ……」
段々と青ざめていく。
「これはこれは、大変そうですね〜」
ニタニタとヒスイは笑みを浮かべる。
「実際大変よ!」
机を叩きながら彼を睨んだ。
ヒスイは逃げる様にリビングを後にする。
真子は頬を吐きながらボソリと呟く。
「今日はそのまま、お泊まりなのかしら……」
「それはダメ!」
彼女の何気ない言葉にツグモは叫んでしまう。
「な〜に? 心配してくれてるの?」
ニヤリと笑みを浮かべ、彼の方を見る。
ツグモは思わず口から出てしまった言葉に焦ってしまう。がすぐに答えた。
「別に心配している訳じゃない。せっかく面白そうな獲物を追っているのに、姐さんが独り占めしたら面白くないだけさ!」
堂々と言ったが、次第に恥ずかしくなる。
つい本音が溢れてしまったのだ。
話を聞いた真子は嬉しそうに笑う。
「ふふ、安心しなさい。私はそこまで無計画じゃないの。だから、例えお宝を見つけてもすぐには飛び付かないわ」
彼女は言い終わると鞄を取り立ち上がる。
「それじゃあ、私は行ってくるから」
ヒラヒラと手を振る彼女を見ていると、変な気分になる。
ツグモはぶくぶくとオレンジジュースを泡立てながら見送った。
「ツグモ、行儀悪い」
「ごめん」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
一日置いて、人物紹介をしましょう。
今回は尾船 翡翠とても高身長で張り付いた笑顔がチャーミング!
大抵の事をそつなくこなすが、仲間からは何を企んでいるのか、
分からず少し距離を置かれてるかも?
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