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怪盗シルエイティの婚約破棄 二話

 ツグモの元に彼女が訪れたのは、今から二週間前のことだった。


「おい、新人! 根を詰めるのもいいが、いい加減今日は終わらせろ」


 大手企業のオフィスで先輩が呼びかける。

 彼の視線の先には冴えない新入社員が立ちながらパソコンをいじっていた。

 新人は慌ててパソコンを閉じて顔を上げる。


「すみません、もう終わりました」


「おう、それじゃあ、飲みに行かないか?」


 クイっと指でおちょこの形を作りながら先輩は誘う。しかし、後輩は苦笑いを浮かべながら答えた。


「すみません、自分、飲めないんですよ」


「そうか、なら仕方ないな。じゃあ、また明日」


 一瞬、残念そうにした彼だがすぐに後輩のことを思い、別れを告げる。

 先輩が見えなくなるまで手を振った。


「また明日か……」


 手を降りながら後輩はボソリと呟く。


(もうここには来ることもないのだけれど……)


 彼は会社を出ると薄暗い路地に足を運ぶ。

 買ったばかりの上着やダサいメガネを外し、かつらも外す。

 チラリと割れて放置された鏡には可愛らしい童子顔の少年が写っていた。


「やっぱり、こっちの僕の方が可愛くていいね」


 ニヤリと笑いながら背後に聳え立つビルを見上げる。

 これがツグモだ。


 情報専門に盗みを働くアウトドア派のハッカーである。

 要するに直接、現場に潜って情報を盗む泥棒だ。

 いつもの様にネットで募集した、ワタシテちゃんにデータを届けにいく。


「あ、いたいた。お待たせ! 待たせちゃっね」


 狭い路地で静かに待つ女の子に声をかける。

 白いパーカーに猫耳の刺繍が施されている可愛い感じだ。

 ネットで雇った素人のワタシテちゃんである。


 彼女はうっすらと笑みを浮かべて顔を上げた。


「!」


 軽い調子で近づこうとしたツグモだが、違和感を覚える。

 彼は慌てて距離をとった。


「誰だい君?」


 教えてもらった服装はあっていた。しかし、心の中で警告音が鳴る。

 目の前の彼女は他の子達と違うのだと、手慣れすぎている気がした。

 様子を伺う彼に女の子は少し驚いた表情を見せる。


「あれ、勘づかれた?」


 言い訳をする気はない様でフードを脱いだ。

 白いフードの中からストロベリーブロンドの髪をした美人が顔を見せる。

 彼女の顔は全てを見透かした様に微笑んでいた。


(警察!?)


 囮捜査に引っかかったと気づいたツグモは慌てて元来た道を引き返そうとする。しかし、突然、大きな壁にぶつかってしまった。


 見上げると高身長の男女が怪しげな瞳を輝かせている。

 二人の顔は振り二つで、見分けがつかない。


「なぁ、ヒスイ、こいつ、しめちゃってい~い?」


 女の方が肩を鳴らしながら、ゆったりとした口調で隣の男に尋ねる。


「ダメですよ、カイ。これから彼とビジネスの話をしなくてはいけません」


 男の方は丁寧な口調でそっと宥める様に話す。


「でも、少しぐらいなら……」


 ゾッとする様な視線でツグモを見下ろした。

 背筋が凍りつきそうになる。


(この二人……やばい)


 全身が震え始めてきた。

 受け子に変装していた女性が呆れた様に目の前の大柄な男女を呼び止める。


「ヒスイ、カイ、いい加減にしなさい」


「え、まだ何もしてないじゃん!」


「そうですよ。カイはともかく、僕まで注意されるなんて……」


 しょんぼりする二人を横目に彼女はツグモの方を見る。


「大手企業に潜入し、内部から顧客や取引内容を盗み、他社に高値で売りつける。コソ泥にしてはなかなかのやり手ね」


 感心する様にポケットからデータの入ったカードを取り出す。

 取られた事に気づかなかったツグモは慌ててポケットを探るが、カードはなかった。


「いつのまに……」


 唖然とする彼に女性は話を続ける。


「会社に行って情報を盗むには手間が掛かって無駄に思える。でも、それだけじゃないわね」


 グイッとツグモの顎を引き寄せる。

 真っ直ぐに見つめる彼女の目は、マジシャンの手品をじっくりと観察し見破る目をしていた。


「一見無駄に思える行為だけど、内部の反抗に見せかけられる。サイバー犯罪と違ってデータの足が残っても現実世界で行方をくらませられて面白いわよね」


 ニンマリと微笑を見せながら、警戒して睨む野良犬に彼女は挨拶する。


「始めまして、わたしは怪盗シルエイティ。あなたの変装とハッキングの腕を見込んで、一緒に盗みたいものがあるの」


「盗みたいもの?」


「えぇ、財前武司が所有するアクアマリンのブレスレットよ。興味ない?」


 目を輝かせる彼女にツグモは目を逸らす。


「別に宝石は……」


 高い物を身に着ける趣味はないので、興味がなかった。

 乗り気じゃない彼に真子は少し黙り込む。


「ふ~ん、あなたのこそこそ働いて盗むやり方は面白くないわね」


「え?」


 ボソリと呟くシルエイティだったが、ツグモの顎から手を離し、スタスタと日向の通りへ、歩き始めてしまった。


「え、もう終わり!」


 背後に立っていたカイと呼ばれる女が叫ぶ。


「せっかく、朝っぱらから待機してたのに……これじゃ、骨折り損じゃん」


 気怠げに目を背けながら愚痴をこぼす。


「おやおや、カイ。あなたは車の中で寝ていたじゃありませんか」


 ヒスイと呼ばれた方はニコニコとする。

 この二人は、性格は全く違うが身長や顔立ちがよく似ていて、醸し出す危険な雰囲気が不気味でツグモは少し困惑する。


「あぁ、そうだ」


 シルエイティは振り返る。

 まだ、伝え残したことがあった様だ。

 手にしていたカードを見せながら言う。


「この依頼はわたしがしっかり渡しておくわ。それと、明日、迎えにヒスイをよこすから大人しく着いてくる様に」


 言い終わると彼女はサッと曲がり消えてしまう。

 直後、青い車が走り抜けていった。


 後ろにいた男女も立ち去る。

 一人取り残されたツグモは、先ほどの言葉を思い出していた。


「このまま安定をとっていても面白いのか……」


 彼女の言葉に心がモヤモヤとする。

 同時にぶつかってくる何かを打ち負かしてやりたいと言う思いも込み上げてきた。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

ツグモくんはもともと情報を盗む泥棒でしたね。

ワタシテちゃんはツグモが命名した、ネットで雇った受け子みたいな子たちです。

「怪盗シルエイティの婚約破棄」が面白いと持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。

他作品も是非、読んでみてください。


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