プロローグ
「君とは婚約を破棄させてもらう!」
パーティー会場に一人の男の叫び声が響く。
高いスーツと装飾に身を纏い、微笑みを浮かべれば、女が寄ってしまいそうな甘い顔をした彼は眉をひそめ、嫌悪の表情で目の前の女性を見ていた。
日本の山奥に隠れるように建てられた豪邸。真夜中に近づこうとする中、多くのお金持ちが祝いのためにはるばる、暗い峠を登ってきた。
煌びやかな内装は、中世ヨーロッパを思わせる。
(となれば、私は婚約破棄を言われた悲劇のヒロインということか……)
真子はダンマリと口を閉ざし、腕に手を絡めた。
目の前の男はパーティーを開いた財前武司の息子、財前浮吉で、彼女の婚約者だったのだ。
しかし、今彼の隣にいるのは真子ではなく別の女性である。
少し暗めの金髪に豪勢な黄色いドレスを身に纏った彼女はベッタリと浮吉に張り付いていた。
なぜ急にこうなってしまったのか、開目見当がつかない真子は二人に尋ねる。
「どうしてなのかしら?」
浮吉は鼻を鳴らしながら答えた。
「出会ってまもない君とくっつくのはやはり可笑しいと気づいた。だから、僕は付き合いが長くなる紗雪と結婚する」
周囲の視線が集まる中、彼は堂々と宣言する。
真子は軽井沢で初めて出会った時の彼を思い出す。
常にヘラヘラとしていて、ボディーガードも手を焼いていた。
とても、面倒な男の子だった。
これから先、彼の面倒を見なくて済むと思うと真子は思ったよりマシに思えてくる。
チラリと腕時計に目をやった。
(見送りで来ていたヒスイはまだいそうね……)
彼女は一瞬、目を瞑り嘆息を吐く。
「分かった。それじゃあ、部外者になった私は速やかにお暇させてもらうわ」
言い終えるとくるりと向きを返し、背の高いメイドが用意してくれた自分の鞄を持って会場を後にした。
真子が拗ねて立ち去った後、会場に慌てふためく背の高い執事が駆け込んでくる。
「た、大変です。出ました! 出てしまいました!」
「なんだね。見苦しいぞ、息を整えてから話せ」
眉間に皺を寄せる浮吉に執事は一礼をし、息を整えてから話した。
「大変です、お坊ちゃん……」
彼は一瞬、躊躇ってしまうがすぐにあの名を口にする。
「怪盗シルエイティが現れました!」
「なんだって!」
ざわつく会場に気付いても真子は振り返ることなく、不敵な笑みを浮かべていた。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
異世界で物語を書いてたりすると無性にこっちに来たくなりますよね。
と言う訳で夏休み企画として書いてました。まあ、九月の秋投稿なのですがね。
そてでも、楽しんでもらえるよう書きました。
「怪盗シルエイティの婚約破棄」どうぞ、楽しんでください。
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