婚約破棄をされても『ざまぁ』をしなかった令嬢の話
「クラウディア、お前とは婚約破棄だ!バーカ!バーカ!悔しいだろう!」
婚約破棄をされたわ。私はクラウディア18歳、この歳で新たに婚約者を探すのは難しいのかも。同年代は全て婚約者がいるわ。
隣に令嬢がいるわね。誰かしら。
「ウェンディよ。私の家はお金持ちなの。私ならダンディル様に相応しい地位を約束できるわ」
ウェンディ様・・・確か新興の商人の出ね。今、刃向かったら分が悪い。
「なら、お父様を交えての話会いになりますわね」
私は一礼をしてその場を去った。
お父様とお母様は怒っている。
話を聞くとダンディル様に一目惚れしたウェンディ様が無理矢理婚約を結び。ダンディル様とご実家はお金に目がくらみ婚約を結んだそうね。
「向こうから婚約をして欲しいと言ってきたのに!」
「そうよ。ヒドいわ」
「お父様、お母様、賠償をして頂きますわ。今まで当家の資金援助もウェンディ様の実家が補填して下さるそうですからこれでいいのではないでしょうか?」
「しかし・・」
「もう、終わった事ですわ。お母様、良い殿方を探して下さいませ」
それから友人達がお茶会を希望してきた。
目を輝かせて
「ヒドいですわ。ヒドいですわね!」
と言って下さる方・・・目が笑っているわね。
中には、素知らぬ顔で婚約者の自慢をする方々。
「私の婚約者様が、また、手紙を寄越して困っておりますのよ。もう便せんで数十枚、私が殿方と話すと嫉妬して困りますの。何か良い方法があれば教えて下さい」
「まあ、そうですね。その顔をそのまま婚約者殿に見せては如何ですか?」
または、愚痴をこぼす方・・・
「私の婚約者もそっけないのよ。大丈夫かしら」
「さあ、知りませんわ」
以上の令嬢達との付き合いを凍結するわ。
「ケリー、この三人の方々から招待状が来ても断るわ。来てもいないと言って下さる」
「はい、承りました」
そして、来なかった令嬢の家に行くと先触れを出す。メリガー様、学園では妙に気があった方だわ。
「クラウディア様・・・あの、その・・お茶をどうぞ。キャア!」
動揺してお茶をこぼしたわね。
この子は信頼できる。
「フフフフフ、いいのよ。私、婚約破棄されましたわ」
「ヒィ、申訳ありません。いえ、その」
気遣ってくれているのね。
「実は愚痴を聞いて欲しくて・・・良いかしら」
「は、はい」
婚約者か・・・
婚約者を探すが、中々良い人が見つからない。
見目麗しい殿方と見合いをしたがどこかおかしい。
王宮に役職を持っている優良物件だが、婚約者が次々に変り30を超えている。
「どうだ。これは私が学業優秀でもらったブローチだ」
「まあ、素晴らしい」
学園卒業をして何年経過しているのかしら。
どうも良い殿方がいない。私は伯爵令嬢だ。身分が低い方で良い殿方はいるようだけども身分差を考えたら躊躇するのかしら。
と庭師のハンスに目がいった。
若い15歳かしら。
赤毛で日焼けをしている。
「ねえ。ハンス」
「はい、お嬢様、何でございましょうか?」
「今、付き合っている女性はいる?」
「おりません」
「なら婿にならない?」
「そうですね。今の季節は薔薇が・・・えっ?」
「婚約者よ」
「身分違いでございます!」
私は説明をしたわ。
「まずは謝罪をするわ。当て馬になって欲しいの。貴方が婚約者になったら、私でもなれるのではないかと皆は思うかも知れないわ・・・仮婚約者だけど、後でお礼としてお金を払うわ」
「ええ、まあ、いいですが・・・」
お父様とお母様は苦虫を口いっぱいに入れたような顔をしたが・・
渋々承諾してもらった。
とりあえず仕事は庭師をさせながらデートを続けて、お母様に社交界で仮婚約者と宣伝してもらった。
すると、社交界で意見は分かれた。
「クラウディア様は・・そこまで落ちぶれて」
「いや、婿だろ?使用人を婿にしたら尻にしき放題ではないか?」
「ちょっと待て、なら、男爵家の末っ子の俺でもチャンスはあるってことか?」
財産目当てで釣書がたくさん来た。
見合いをして吟味をするが・・・
家の調度品をジロジロ見る者。
「すごいですね。これはいかほどの値段ですか?」
「さあ、分かりませんわ」
理想が高い者・・・
「私は下級役人ですが、貴家のお役に立てます。事業計画を立てています」
「まあ、我家は領地経営が主体ですわ・・・」
「ですから資金を商会から借り受けます」
「宛てはあるのかしら・・・」
「それは・・・」
事業計画を立てるのも良いが、人脈はない。絵に描いたパンですらない。
「フウ、ハンス、どうしたら良いかしら」
「お嬢様は伯爵家を継がれるのですね。それでしたら事業はお嬢様の役目です。人脈を駆使して商売をなされるのが良いと思います」
「領地経営もやるのよ」
「それは、領地経営は、主に果樹園があり。ワインを製造しております。その他にも小麦や畜産と手広くあります。そうそう危機には陥りません・・・あっ、申訳ございません。旦那様は堅実にされているということで誰がやっても同じでは・・ないです」
「いいのよ・・・ところでハンス、何故、我が領地の産業を知っているのかしら?」
「私はご領地出身です。多少、知識と知己はございます」
「そうね。しばらく領地のことは任せるかしら・・」
とハンスを領地に使いを出した。
お父様の使者扱いだ。
平民視点で意見を言う。
「今年は不作で冬を越せなくて娘を賤業・・・娼館に売るとの話が出ています」
「それが何か?既に税金の一部免除と炊き出しをしているわ。可哀想なだけで援助はできないわ」
「税金の免除と言ってもない物は出せないのです。農民にとっては当たり前と思うものです。
娘がいなくなると、人口が減ります。男衆のモチベーションが下がります。結果として将来の税収が下がるのです」
「そうね。基金を作るわ」
「有難うございます!」
私は事業計画を持ち出すが、やはり上手くは行かない。
婚約破棄をされた女だ。社交界でヒソヒソ話をされる。
「お嬢様、母の知恵です。こういった時はニコヤカニ笑い何事もないようにするのが肝要かと、婚約破棄の話を持ち出されたら『そうなのよー、大変だったのよ』という感じで受け答えされたら如何でしょうか?井戸端会議の知恵ですが」
「分かったわ。やってみるわ」
何事もなかったように社交界にでる。ハンスは平民だから表にだせないから一人だ。
「クスッ、クラウディア様、婚約者殿は?」
「ええ、ハンスは平民ですから遠慮させてますのよ」
「えっ」
中には蔑む者がいる。
「クスクス~、婚約破棄されたのに何故来たのかしら。私なら恥ずかしくてこれないわ」
「まあ、招待状を頂いたから来たのですわ?私はパートナー無しで良いと承諾を頂いておりますわ。それはホスト様に対して無礼ですわ」
「まあ、何てことを!」
「これ、ミレーヌ、やめないか。クラウディア嬢の言う通りだ」
婚約者にたしなめられているわね。
だから言って差し上げましたの。
「ミレーヌ様、殿方に女の醜い争いを見せるべきではございません。婚約破棄をされた女の意見ですわ」
すると、これが評判になった。恋の相談を持ちかける令嬢が現れたわ。
「あのクラウディア様、婚約者の様子がおかしいのです。相談にのって下さいませ」
「いいわ」
何てことはない。ただ彼女らは共感して欲しい。話を聞いて欲しいのだ。
男女間の解決方法なんて当人同士しか出来ないわ。
時には元婚約者のダンディルをネタに話す。
「私の婚約者は、シークレットシューズをはいて、身長を誤魔化しておりますの。私は背が高いから・・・コンプレックスを持っているようですわ」
「全然、大丈夫ですわ。ダンディル様は密かに股間にエチケットポケットを作って、タオルを入れて大きく見せていましたわ。バレバレなのに、シークレットシューズなど可愛いものですわ」
「まあー!」
そうだ。ダンディルは下品で幼稚な男だったわ。
社交界で噂が広まったわ。
「よお、ダンディル!その股間の中にタオル入れているって本当か?」
「な、何故、知っている!誰にも話していないぞ!」
ボチボチ事業の話が出てきたわ。メリガーのお父様から声をかけられた。これに乗ることにしたわ。
「クラウディア嬢、当家と共同事業をしないか?」
「・・・良いのですか?私は婚約破棄をされた女ですわ」
「フウ、実を言うと我が娘は友人が少ないからな・・・親交を結びたい」
共同で森林開発の話を受けたわ。私が婚約破棄をされても放置してくれた子の家門だわ。
「是非、お願いしますわ。お父様に知らせます」
「うむ。よろしく頼むぞ」
やったわ。婚約破棄された女でも共同事業を結べたわ。
ハンスに報告しなければ・・・・
と思ったが、庭で女とイチャイチャしている。
村娘風だ。
「あ、お嬢様。お帰りなさい」
「この方がクラウディア様?私、アニーです。ハンスの・・・お嬢様!」
涙が頬を伝わっていた。
当て馬なのに・・・・
また、婚約破棄をされるの。契約だけどしょうがない・・・
「フフフフ、そうですわよね。ハンスとはそのような契約ですわよね・・・失礼します」
「あの、妹が何か失礼なことをしましたか?」
妹?
「ハンスの妹アニーです。兄がお世話になっていますわ!」
「もお、驚かせないでよ」
ハンスの胸に飛び込み胸をポカポカ殴った。
「お嬢様!こら、アニーどこに行く」
「鈍感な兄ですが末永くよろしくお願いします」
☆☆☆5年後
あれからハンスと結婚をして子供ももうけたわ。
ハンスはお父様につき領地経営の勉強をしている。
威厳はないけど、調整役として最適との噂だわ。
今日はメリガーが子供をつれて遊びに来た。
「リヒガー、お嬢様をお庭に案内して差し上げなさい」
「はい、母上、さあ、メーテル嬢、どうぞ」
「はい!リヒガーお兄ちゃん」
息子は手を差し出しいっぱしの紳士気取りだ。仲良く手をつないでいるわ。
大きくなったら婚約を結ばせるのもいいわね。
「フフフフ、メーテルちゃん。可愛いわね」
「クラウディア様、・・・・良かったですわ」
メリガーは言葉は多くない。
しかし、幸せだわ。
二人してお茶を飲む。
幸せだ。と思ったが、それを打ち破る声が聞こえて来たわ。
「クラウディアはいるか?大変だ!」
お父様とハンスがやってきたわ。
「クラウディア、メリガー殿も一緒か。子供達はいないか・・」
「ええ、今、ケリーが見てくれていますわ。二人で庭を散歩していますわ」
「実はな。ダンディルとウェンディの商会が破産した。巨額な額でウェンディの実家も危ないのだ」
「「まあ」」
聞けば、婚約を破棄するのだから契約も守らないのだろうと貴族社会では見放されていた。
沈黙の世論、当たり前すぎて社交界で話題にすらならなかったが、ダンディルたちは貴族から相手にされなくて。
平民の低所得者むけの住宅事業をしたが、やがて資金繰りが悪化した。収入以上のローン契約を結ばせたそうだ。資金提供者には高利の利息を約束した。
連鎖反応で資金提供をした商会も危なく王国が介入しなくてはならないほど?
「まあ、メリガー様、ウェンディ商会の債権はお持ちですか?」
「いえ、さすがに信用できませんから、旦那様に言って買うのを控えさせましたわ」
「まあ、素晴らしいわ」
私の事業は・・全く損害を被らないとは・・・あら、損害がないわね。
ただ、物価高と貧民がでるわね。
ハンスに確認するわ。
「旦那様、領民はどうかしら?債権に手を出した領民はいるかしら?」
「全くの無害ではありませんが、これは投機です。損害を被った者は仕方ありません」
「そうね・・・」
我が領地は自活出来るが用心に超した事はない。
私は旦那様の手を握る。ハンスとなら乗り越えられるわ。
数年間は不況が王国が襲ったが。
後に、共同事業の森から金鉱山が発見されて雇用問題は解決することなり王国から表彰されるがそれは後の話だ。
最後までお読み頂き有難うございました。