終わりのない痛み
胸クソなシーン、残酷なシーンがありますのでお気を付けください。 と今更言ってみる。
【事務総括部長・由中の視点】
「ん?」
誰かに呼ばれ振り返った俺だが、室内にいる者達は皆机に向かっていて、こちらを見る者はいなかった。
教室ほどの大きさの事務室。 当然隠れているような人物はいないし、特に客人もいない。
それでも「気のせい」という感じのしなかった俺は声を上げた。
「誰か、呼んだか?」
言われほぼ半数の人間が顔を上げるが、問いかけには否定する。 残りは仕事に集中しているのだろうが、俺の声に反応しないなんて弛んでるな。 きっちり評価には反映させてやるから覚悟しとけよ。
「気のせいじゃないですか?」
部下のひとりがそう言ってくる。
真面目さしか取り柄のないコイツが言うならそうなのかもな。
「そうか」
納得しがたいが、ごねても仕方ない。
「少し一服してくるから頼んだ」
「はい」
返事がくる前に、足は外へ。 自動ドアが開く前に煙草を咥え、歩きながら火を付ける。
――チッ
舌打ちが聞こえた。
アイツの評価も下げるか。
本社から全館禁煙命令が出てしばらく経つが、面倒な事この上ない。 社長がわざわざ来る訳もないが、万が一を考え吸うのは外だ。 つまらん世の中になったもんだ。
溜息を吐く様に煙を吐き出す。
――高額納税者なんだから、国から何かいいモンでもくれないもんか。 そんな益体もない考えが浮かぶ。
「まだタバコか?」
声を掛けてきたのは別部署の部長。 同じ様な立場でありながら随分楽をしてる様だ。 いい部下に恵まれて、うらやましいこった。
「吸わなきゃやってられんわ」
「そういう立場に、なってしまったんだろう?」
真面目な顔で俺を見る。
「管理者だからか? はん、社員の私生活なんぞ知った事かよ」
「ひとり飛んだんだぞ?」
そう、ひとりの女子社員がマンションの屋上から飛んだ。
遺書にはチラリと社内の虐めを仄めかす様な文言が書かれていたらしい。
「だから何だよ。 この品行方正な俺に向かって、何だって言うんだ」
「…………何が品行方正だ。 品性放浪だろうが。
……色々聞こえてきてるぞ」
シャレかよ。 だがその咎める様な言い様がムカつく。
「何がだよ。
タバコは吸えないっていうから、煙でいぶして、ちょっと咥えさせてやっただけじゃねーか」
「パワハラじゃないか……」
「まあ、どうせゴミになるだろうから吸い殻だったけどな」
「セクハラもかよ」
「だからってそれで飛ぶか?」
心底理解出来ないと、俺は大仰に言ってみせる。
そんな俺を見て、越田は急に、ビビった猫の様に身を引いた。 何だ? 後ろになんかいたか?
ヤツの視線の先を見ても、特に見えるモノはない。
「…………それだけじゃ、ないんじゃないのか?」
「何を言ってるかわからんね」
紫煙を吐き出す。
越田はそれを避ける様に身を引いた。 そう言えばコイツ、今は禁煙中だったか。
「手遅れにならないうちに、謝った方がいいんじゃないのか?」
何の事を言ってるんだか、越田はこちらが何かを言う前にそそくさとその場を去った。
言い逃げかよ、みっともない。
俺はゆっくりとニコチンを摂取する。
「謝る? 誰に、何を謝るって?」
阿呆な事を言う同僚を見下し、俺はヤツを嘲笑う。
はん、馬鹿なヤツ。
【販売統括部長・越田の視点】
驚きと恐怖と、背筋を駆ける悪寒に震えながら私は事務室へ戻ってくる。
何なんだ、アイツは…………。
あれを何も感じていないのか……。
私はアイツのせいでここ数日はまともに寝られもしない日が続いているというのに、元凶のアイツがあんな調子とは……。
「ちょっと、部長。 大丈夫ですか? 何か顔が青いですよ?」
部下のひとりが声を掛けてくる。 そうか、見て判るほどか。
「いや、何でもないよ。 ちょっと考える事があってね」
「よく解りませんけど、無理はしないで下さいね。 これから夏の繁忙期なんですから、部長に倒れられたら社内は大混乱ですよ」
「おいおい、それは大袈裟だろう。 というか私が倒れたら君が取りまとめじゃないか。 そんなんじゃオチオチ休みも取れないぞ?」
この職場の雰囲気、わたしは結構好きなんだが、アイツはそうではないんだろうな。
「いやいや、こんな時期に休む予定なんて入れないで下さいよ。 みんなで一緒に地獄を見ましょうよ!?」
おっと、声が大きかったからか、皆仕事の手を止めているな。 話の輪が広がってしまったな。
だが、冗談交じりに言う部下たちを前にしても、私の気は晴れない。
「今ならまだ休めますよ、部長?」
「いや、大丈夫だよ。 さっきも言ったけど、考える事があっただけだからね。
ほら、仕事仕事」
心配する部下達を誤魔化し宥める。
実際の所、多少睡眠不足ではあるが、気が滅入っているだけなんだよな。
それもあんなシーンを見たからなんだろうが…………。
誰が予想出来る?
朝カーテンを開けたら、飛び降りてきた女性と目が合ったなんて。
目が合ったのはほんの一瞬。
でも酷く絶望的な目だったとその一瞬で理解した。
彼女は当然そのまま引力に引かれ、その先にあったマンホールごと自身を破壊したのだ。
救急に連絡を取りながら向かった先にあったのは、人間ではなく人間だったモノ。
運が良かったのか悪かったのか、彼女だったモノはあのダクタイル鋳鉄製のマンホールの蓋を叩き割り、下に落ちてしまう事はなかったものの、そのせいでその無残な姿を衆目に晒す事になったのだ。
彼女があそこまで絶望した原因が、アイツの言ったパワハラセクハラなどである筈がない。 それも一端ではあっただろうが、それだけである筈がない。
だって、彼女はあの時の姿のまま、アイツに憑いているんだから。
ああ、吐きそ…………。
【証拠書整備担当・紺野の証言】
えっ? ウチの職場の雰囲気っすか?
オレが言ったって言わないで下さいね?
もう、最悪っすよ。
あのバカ ――いや、失礼。 今の部長が役職に就いてからもうダメダメっすね。
何がダメって、何をするにしても周囲の理解を求めない。 要するにワンマンなんっすけど。
オレは別にワンマンでもいいんすよ? 引っ張る人間が優秀であればそれだって上手く回るんすから。
アレの場合は自分が優秀だと思い込んでるだけっすから。
辛辣?
実際一緒に仕事やればわかるんっすよ。 兎にも角にも非効率。 AからBへ至る道が一本しかないと思い込む杓子定規。 でもそれを言っても聞く耳持たないし、効率的な方法を教えてもへそを曲げる。 面倒なんでその非効率を無視して効率的な方法で仕事をしていると「上司の命令が聞けないのか」って、全く意味のない正当化をしようとする。
付き合いきれないっすよ、マジで。
そのくせ自分はこっそり社の方針に反した行動は取るし、仕事の合間合間にやたらと休憩時間を取るし。
でも悪い事をしている自覚はあるんすかね?
メールや電話を兎に角チェックしますね。 社内用のタブレットとは言えそこまでするなんて尋常じゃないっすよ?
え? ハラスメントっすか?
ここまで聞いたら言わなくても解るっすよね?
ヒドいモンすよ。
パワハラは日常茶飯事っすけど、大変なのは女性社員でしょうね。 セクハラが普通に加わるっすから単純に二倍の被害。
ああ、それでも被害が誰かに集中している時は気が休めるンすけど。
ほら、マンションから飛び降りた古宇田さん。
あの人がいた時が平和だったっすね。 兎に角あの人に被害がいったっすから。
黙って見てたのかって?
悪かったとは思ますっすけどね。 ただ社長の息子だか何だか知らないっすけど、正直あの部長自体関わりたくないんっすよ。
社長も、社内で決まったルールに関してはそこそこ守ってくれるんすけどね、古い人なのかハラスメントを全然理解してくれないんっすよね。
でも古宇田さんが飛んだお陰で、今のとこちょっと平和なんすよ? 反省、はしてないんすけど、今は大人しくしてる感じっすか。 まあ、どうせ暫くしたら元に戻るんっすけど。
【事務総括部長・由中の視点】
あのバカ ――古宇田 幸が飛んでから5日経った。
全く、つまらん事をしてくれたモノだ。
お陰で社長はうるさいわ、警察はしつこいわ、部下はウザいわ、ロクな事がない。
オレの女にしてやったんだぞ?
喜べってんだ、くそが!
押し倒した次の日、じゃなく一日おいてその翌日に飛びやがった。 フェイントのつもりかよ、畜生が。
遺書には遠回しな非難があったようだが、そんな程度のモンじゃ証拠には薄い。 無駄死にもいいところだな。 バカが。
「おう」
扉を開けて室内を見渡す。
「「おはようございます」」
挨拶が返ってくる、が声が少ない。 というか、空席が多い。 この時間になって来ていなければ遅刻扱いだ。
オレ? オレはいいんだよ。
「……何だ? 他の連中は遅刻か?」
「体調不良、との事です」
「全員か?」
「はい」
抑揚のない声で返事が来る。 何だ? いつにも増して覇気がないな、こいつ。
「体調管理もまともに出来んのか……」
そうぼやくオレにメガネがへらっとした表情で口を開く。
「大丈夫ですよ」
「何がだ? なにか大丈夫だって言うんだ?」
「部長も直ぐに体調不良ですから」
「何が言いたいんだ? 日本語を話せ、バカモンが!」
恫喝するがメガネも、他の部下達もへらへらした表情を隠さない。 人を小馬鹿にしたような半端な笑顔のままこちらを見ている。
「あれ? まだ気づいていないんですか?」
「さっきからなんだ!? はっきりと言えっ!!」
「部長、最近眠れてます?」
「奥さん、変な事を言ってませんでした?」
「肩が重く感じてません?」
「疲れが取れなくなってますよね?」
「夜に変な音が聞こえてません?」
「変な声も聞こえてますよね?」
「誰もいないのに後ろから話しかけられた事ありませんか?」
「最近家鳴りもスゴいんじゃないですか?」
「三日前に切った傷、まだ塞がってませんよね?」
「誰もいなくても視線を感じたりしません?」
「顔色悪いですよ?」
「夢見も悪いでしょ?」
「肩を叩かれた気がした、って事もありますよね?」
「調子が悪いって自分でも思うんじゃないですか?」
「偏頭痛もしてるでしょ?」
「胃も痛いんじゃないですか?」
かわりばんこに、順繰り順繰り確認するように聞いてくるその姿は不気味以前に不可解だ。
どうしてそれを知っている?
「――キサマらの仕業かっ!!??」
「「「「「そんな事、出来る訳ないじゃないですか、やだなあ」」」」」
示し合わせたかのように揃って言う部下達。
何だこいつら…………。
朝の9時。 電灯も煌々と照らす事務室にいる相手なのに、表情が見えない。 見える気がしない。
すぐ側にいる目の前にいる、その姿がその表情が、マジックで塗り潰しているみたいに見えてこない。
何なんだ、こいつらは!?
だがオレがビビってるなんて知られてたまるか。
舌打ちし、席へ着く。 自然にヤツらから視線が外れた。
「部長」
「何だ?」
くそ、せっかく視線を外せたってのに。 そう思いながらオレは再び顔を上げた。
「!!!!!??????」
いつの間にか、全員がオレを取り囲むようにここにいた。
そしてその顔は、全てがひしゃげ潰れた女の顔 ――古宇田幸の死に顔だった!
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」
椅子から転げ落ちそうになりながらもオレはそいつらを押し退け、走り出した。
【俯瞰・その1・事務室】
由中は叫び声を上げながら事務室から転がるように走り出た。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
あまりの大声に同棟別室の営業課や総務課の人間も顔を出す。
彼等は走り去る由中をわざわざ追う事はせず、取り敢えずドアが開けっ放しの事務室を覗き込んだ。
「なんだぁ……?
え? た、大変だ。 おい、誰か救急車を!」
事務室内で全員の人間が倒れているのを見て周囲へ呼び掛ける。
「おい! 大丈夫――――」
真っ先に室内へ入ってきた「彼」は近場にいたひとりを呼び掛け、その声を詰まらせた。
息はしている。
出血はなさそうだ。
だがその顔は首より上全てが鬱血したように紫色になっており、瞼は開いているものの意識はないのか、その視線はあらぬ方向へ向いている。
「何が……あったんだ……?」
彼は由中の走り去った方向へ目を向けるが、それで判る事など何ひとつもなかった。
【俯瞰・その2・逃走】
由中は走っていた。
中年太りを通り越し醜く膨らんだ腹は重く、運動不足の足や肺は酷く痛みを訴えてくるが足を止める事は出来なかった。
酸素の回らぬ脳はただ恐怖に塗り潰され、もう逃げる事しか考えられないでいる。
それでも天の采配か、日頃の行いか、何も考えずに走った先には会社の使う駐車場。
由中は本来社用車しか駐めてはいけないそこに駐車する自身の車に直ぐさま乗り込むと、即キーを回し発進させた。
――ガンッ! ゴッ!
周囲をまともな確認もせずに発進させた車は、周りにある会社の車を凹ませながら進み、一気に加速した。
――逃げる。
今の彼は、それしか考えられないでいる。
速度はあっという間に法定速度を超え、信号は無視され、人を轢きそうになりながら、彼は車を走らせた。
どの道を、どれ程の距離を走ったのか。
周囲に民家など殆どなくなり、太陽光パネルや風力発電用の風車が散見される様な場所に差し掛かり、由中は漸く冷静な意識を取り戻した。
「……どこだ、ここ……」
車をゆっくり走らせながら周囲の状況を確認する。
見覚えのない場所。
速度と時間で算出すると市街地より60㎞ほど離れた場所、なのだが冷静さを欠いて走っていた彼に、改めてそれを確認出来るような情報はない。
ナビ上では、この車は道のない平原の中を走っており、位置情報が全く狂っているとしか思えない状況だった。
「くそ……、役に立たねえ、くそみたいなナビめ」
数少ない民家を訪ねるという方法もあるが、その住人まで古宇田幸の顔になったらと思うと、その気にはなれない。
それに時間で言うならまだ昼前である。 迷子になったから道を教えて欲しいとは、とても言えない。
車を走らせる。
彼方此方ぶつけたせいで、多少ガタゴト言う車を走らせる。
だから彼は気づけない。
上で、バキッ とボルトが折れた音に気づかない。
――バキッ、バキッ
風車の、巨大な羽根を支えるボルトが残らず折れてしまった事に気づかない。
羽根は回転しながら落下する。
円状に回転する物体の外周速度は、その物体の直径がそのまま計算に反映される。
大型風車の先端部分は時速250㎞を超えるのだ。
その速度を維持したまま、風車は落下し……
そのまま由中の乗る車に突き刺さった!
【終幕】
結局、由中は命を取り留めた。
ただし、五体は満足と言えない状況だが。
彼の車に突き刺さった風車の羽根は、車体を真っ二つに切断した。 シートベルトをして居らず車外へ放り出された彼は、燃える車体の側で呻く事しか出来なかった。
何せ巨大な刃と化したそれは、あっけなく車を貫通、切断し、車内で彼の右腕と両足を抉るように断ち切ったのだ。 タバコを吸おうと胸元に寄せていた左腕は切断は免れたものの筋肉を半分ほど削がれた為、障害が残り、砕けた屋根が傷つけた右目は視力が酷く低下した。 またそれと同時に頬から唇にかけても大きな傷跡を残し、原因不明の発声障害をも引き起こしていた。
幸いにも燃える炎が傷口を炙っていた為、大量出血を抑えたのだが、それは切断した手足を骨まで焼き尽くす事となった。
勿論これらには保険と保障が下りたが、これらの発電機器は「会社」の所有物であり、賠償相手は会社であり親であった。 吹っ掛けても全く意味のない相手である。
何千万だ億だと吹っ掛けても、結局会社が潰れてしまえば、その金で一家が暮らすしかないのだから。
大きな顔をしようにも、自身はもう真面に起き上がる事すら出来ない圧倒的弱者なのだ。 生殺与奪の権利は残された家族が手にしてしまった。
彼は今、病室で、九日目の夜を過ごしている。
恐怖に震えながら、ベッドの上で時が過ぎるのを待っている。
眠る事は許されず、気を失う事も出来はしない。
いや、もしかするとこれは既に悪夢の中なのか。
解らない。
判らない。
分かるのは、これは彼女の仕返しなのだという事だけだ。
自身がここにいる事すら、全ては復讐のうちなのだと。
広い個室、ぽつんと置いてあるベッドの上に由中はいた。
その周りを人影が囲んでいる。
遊びのように、儀式のように、囲んでいる。
嬲るように、逃がさぬように、囲んでいる。
ひしゃげ潰れた古宇田幸の死に顔が由中を見下している。
冷たい死人の顔が、おぞましい怨みの貌たちが彼を見下ろしている。
(止めてくれ……! もう、止めてくれ!)
声は声にならない。 ナースコールは押す事が出来ない。
自身を見下す死者たちの姿に、由中は心の内で懇願する。
初日は囲み、見下すだけだった。
二日目もただ脅かすようにその姿を見せるだけだったが、三日目は何カ所も生皮を剥がされた。 四日目も生皮を剥がされ、五日目は頭皮を毟られた。
六日目も頭皮、七日目と八日目は生爪を剥がされ…………。
今日は九日目である。
(もうイヤだ……! 止めてくれ! 許してくれ!)
囲う古宇田幸たちに、許しを請う。
彼女たちの表情は変わらない。 通じているのかいないのか、それすら判らぬ無表情は血を、それ以外を滴らせながら、芋虫ほども動く事の出来ない男を見つめる。
(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああっ!!??)
唐突に、股間周辺に今まで感じた事のない痛み。 声のない絶叫。
その様子を見て、スッと姿を消していく彼女たち。
この八日間と同じ様子の彼女たちに、由中は絶望するしかない。
まだ終わらないのか、まだ続くのか、と。
(許してくれ……、頼む……お願いだ……古宇田……)
その声は届かない。
その願いは届かない。
これからも与えられるのは痛み。
ずっと与えられ続ける絶望。
その身がバラバラになってしまうまで。
その身が粉々になってしまっても。
決して復讐を望んで自死した訳ではありませんが、常日頃からストレスに晒され続け、その「原因」に更に絶望的な後押しをされてしまった彼女は心の奥底にあった暗い昏い澱みに身を委ねてしまいました。
作中にネタバレする様な雰囲気がなかったので書きませんでしたが、由中を囲っていたのは会社で倒れて、そのまま精神病棟へ入院したヒトたちです。
当時「体調不良」で休んでいたのは、敢えて言うなら古宇田さん側の人たちで、彼女は彼ら彼女らを全く怨んでいませんでした。 むしろ数少ない味方だったので。
取り憑かれたのは、古宇田さんに被害が向くように仕向けたり、内心で嫌いながらも由中をヨイショしていたりとするヒトたちでした。
ちなみに最後の「痛み」はバルーンカテーテルを無理矢理引っこ抜いた痛みです。 多分肉体的には古宇田さんと似たような痛みなんじゃないかなあ、と思ってます。