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霧の奥、星の手前  作者: 星☆
第七章「芽吹く星」
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第3話「芽吹くことを選ぶ」

 夜の丘は、静かだった。

 風はやみ、霧は低く沈んで、月のない空の下で、わたしは一人立っていた。


 昼間に見つけた成長異常の株。その葉は、また少し広がっていた。露がうっすらと光を返し、星の名残のように淡くにじんでいた。


 この場所は、特別ななにかを語ってくれるわけではない。けれどわたしにとっては、いつも“気配”がある場所だった。

 それは“彼女”のものかもしれないし、もっと昔にこの星を歩いた誰かのものかもしれない。


 わたしはしゃがみこみ、そっと葉に触れた。


 その瞬間、胸の奥がふるえた。

 あたたかい、でもどこか切ない感覚。悲しみでもなく、期待でもなく、

 ただ、「在る」ということを確かめるような……静かな意志のようなもの。


 “彼女”の気配が、ごく微かに重なる。


 けれどそれは、導くものではなく、ただそばに寄り添うような感触だった。

 そのことが、なぜか、とても嬉しかった。


 ——誰かに託されたわけじゃない。

 この感覚は、わたし自身のなかから芽吹いている。

 それを、わたしは今、確かに感じている。


 ここに居たい。

 この星に、もう少し根を伸ばしてみたい。

 そして、ただ調査のためではなく、誰かの記録係としてでもなく、

 自分の感覚で、この星の時間とともに呼吸してみたい。


 それは誰かの代わりではなく、わたし自身の願いだった。

 どこかへ行くためではなく、ここに居ることを選ぶための想い。


 これまで、ずっと「居させてもらっている」と感じていた。

 でもいまは、少しだけ、「居てもいい」と思えるようになった。

 それは、誰にも気づかれないような、小さな変化かもしれないけれど——

 わたしにとっては、きっと、とても大きなことだった。


 目を閉じると、霧の奥にわずかに明かりが揺れていた。

 それは星の構造体の残響か、それとも——


 わたしには分からない。けれど、どちらでもよかった。

 いまの自分は、それをただ見上げることができる。


 霧が、ひとすじ流れた。夜が、やさしく深くなっていく。


 ——明日は、明日の風のなかで歩いていこう。

 そのとき、また違う気配がわたしを導いてくれる気がした。


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