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霧の奥、星の手前  作者: 星☆
第六章「夜空の開示」
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第4話「星の構造」

 朝のラボは静かだった。昨夜の出来事が嘘のように、冷えた空気と規則的な端末の音が、日常のリズムを刻んでいた。それでもアイリスには、何かが微かにずれている気がした。光の揺れ、機器のノイズ、指先に触れる葉の表皮。すべてが、わずかに波打っているように感じられる。


 例の植物の葉を見つめながら、アイリスはそっと手を伸ばした。今朝は、いつもより一層、葉の表面が冷たくなっている気がした。その中に、金属質な光がわずかに浮かぶ。まるで、どこか別の場所の光を反射しているかのように。


 「また……?」


 背後から声がした。コリナだった。静かに近づき、アイリスの隣にしゃがむ。


 「わかるの?」と、彼女。


 「うん。でも……今日は、映像じゃない。もっと深くて、静かな、重力みたいな感覚。わたしの中に流れ込んでくるものがある。星の方から、地面の中から、同時に」


 アイリスの言葉に、コリナはすぐには返さなかった。ただ、少しだけ眉をひそめてから、そっと視線を植物から空へと移した。


 「今日の夜、また見に行こう。あなたの感じてるもの、わたしには見えないけど……一緒に立ち会いたい」


 その言葉に、アイリスの胸が少しだけ緩む。コリナは、完全に理解できないままでも寄り添おうとしてくれる。アイリスにとって、それは何よりの支えだった。


 夕暮れ。ふたりは温室の奥へと向かった。空は、深い群青に染まりかけていた。日没の残光が植物たちの影を長く引き、温室の外では星がひとつ、またひとつと顔を出し始めていた。


 アイリスは、例の株の前にしゃがみ込む。コリナも隣に座る。風はほとんどない。それなのに、葉がかすかに震えていた。


 「今、また何か……?」


 コリナの声は小さく、でも確かだった。彼女にも“何か”が伝わりつつあるのかもしれない。


 そのとき、空が動いた。


 最初は、ただの瞬きだと思った。けれど、いくつかの星が同時に、一定のリズムで光を刻みはじめた。その輝きは線となり、まるで夜空に透明な構造体が浮かび上がるようだった。


 「見える……?」アイリスは息をのむ。


 コリナはしばらく黙っていた。だがやがて、静かに口を開いた。


 「ううん……形は、見えない。でも……何かがあるのは、感じる」


 アイリスは頷いた。そう、それで十分だった。ひとりではない。ふたりで、同じ時間を見つめている。


 空と植物が、共鳴していた。星の“骨”のような光が夜を走り、足元の葉が、それに応えるように揺れている。


 アイリスの中で、また何かが脈打った。記憶、感情、過去とも未来ともつかぬ感覚。それらが言葉にならないまま、彼女の胸の奥に染み込んでいく。


 ふと、どこからか息遣いのような気配が届いた。振り返っても誰もいない。だが、はっきりとわかる。彼女が、近くにいる。


 「……あなたも、見てるんだね」


 アイリスは静かに呟いた。その声に、夜空の構造体がわずかに震えたように見えた。


 コリナは隣で、小さく微笑むと、そっとアイリスの肩に頭を預けた。


 ふたりは並んで座ったまま、夜が深まるのを静かに見つめ続けた。星の奥に浮かぶかすかな構造と、揺れる葉の共鳴。それは、ただの幻ではなかった。確かに、何かが始まろうとしていた。


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