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[第九話]地下ダンジョンの真実

ダンジョンの奥深く、カイたちは慎重に進みながら周囲を観察していた。彼らの足音だけが響く静寂の中、壁に刻まれた古代文字が淡く光を放ち、まるで彼らを導くかのようだった。


「ここが……本当に最深部なのか?」

アッシュが壁に手を触れながら呟く。


「間違いない。この石板が示している場所はここだ。」

カイは手元の石板を見つめながら、壁に描かれた紋様と照らし合わせた。


「やっぱり古代文明の遺跡だったのね。」

リズが感嘆の声を漏らしながら、壁の彫刻をなぞる。


そこには、太古の時代にこのダンジョンが何のために造られたのかを示す絵が描かれていた。


封印された知識

「見てくれ、この壁画……。」

アランが奥の壁に彫られた巨大なレリーフを指差した。


そこには、かつてこの地に存在した「王国」と「魔導士たち」の戦いが描かれていた。巨大な魔法陣と、その中心にそびえる「核」のようなもの。その周囲には何人もの魔導士が立ち並び、封印を施している様子が刻まれている。


「これは……核の封印方法を示しているのか?」

カイは真剣な表情で壁画を読み解く。


シエンが疲れた体を引きずりながら、壁を見つめると驚いたように言った。

「このレリーフ……中央の核は『賢者の秘術』によって動いているみたいだな。古代魔導士たちは、このダンジョンを"囚獄"として使っていたんだ。」


「囚獄?」

リズが怪訝な顔をする。


シエンは頷きながら続けた。

「このダンジョンの核は、膨大な魔力を蓄えるだけでなく、罪人や魔獣の魂を封じ込めるために使われていた。だが、時が経つにつれ、封印が弱まり、中に囚われていたものが……。」


「亡者となって現れた……ということか。」

アランが低く呟く。


「なら、この核を壊せば……?」

アッシュが不安げに尋ねる。


「壊すだけじゃ駄目だ。」

カイは壁画を指でなぞりながら答えた。

「核は破壊されると、大量の魔力が解放されてしまう。制御しなければ、ダンジョン全体が崩壊し、周囲の村に甚大な被害を及ぼす可能性がある。」


リズが焦った表情でカイを見つめる。

「じゃあ、どうすれば……?」


「壁画をよく見ろ。核には"制御装置"があるはずだ。」

カイは石板を掲げ、その光を壁にかざす。すると、隠されたもう一つの彫刻が浮かび上がった。


そこには、核の力を安定させるための「封印の印」が描かれていた。


核への到達

「印を使えば、核を安全に無力化できるはずだ。」

カイは壁画に示された方法に従い、封印の紋章を石板へ転写する。


「でも、この印をどこで使えばいいの?」

リズが周囲を見回すと、奥の方に光る円形の祭壇が見えた。


「そこだ……行こう!」


カイたちは慎重に祭壇へと歩みを進めた。中央には黒曜石のような核が鎮座し、僅かに脈動していた。触れるだけでわかるほどの強大な魔力を放っている。


「慎重にやれよ、小僧……。」

アランが太刀を構えながら警戒を解かない。


カイは石板を核にかざし、呪文を唱えた。

「……光よ、封印の力となり、闇を鎮めよ。」


すると、石板が光を放ち、核の表面に刻まれた魔法陣がゆっくりと輝き始めた。


「効いてる……!」


しかし、突然、核が激しく脈動し、黒い波動を放ち始めた。


「くそっ、抵抗してるのか……!」


「リズ、サポートを頼む!」

カイが叫ぶと、リズは素早く魔法を展開した。


「――ディスペル・バリア!」


彼女の魔法が核の暴走を抑え込み、その隙にカイはさらに強く石板の力を解放する。


核は次第にその輝きを失い、やがて静かに光を失っていった。


使命を終えた遺跡

核が完全に沈黙した瞬間、ダンジョン全体に穏やかな空気が流れた。壁の魔法陣も次々と消え去り、闇に閉ざされていた空間が、かつての静寂を取り戻していく。


「やった……のか?」

アッシュが息をつきながら周囲を確認する。


「成功したみたいだ。」

カイは石板を見つめながら微笑んだ。


シエンは核を見下ろし、深いため息をついた。

「……これで、やっと解放されたってことか。」


リズがシエンに優しく微笑みかけた。

「あなたが無事でよかった……。」


アランは剣を鞘に収めながら呟いた。

「まったく……よくやったぜ。」


カイは最後に、祭壇の隣に埋め込まれた古びた石板を拾い上げた。そこには、こう記されていた。


――『賢者の遺産』は、時を超えて継承される。知識を手にする者は、その責務を果たさなければならない。


「遺失の力.....」

カイは静かにその言葉を胸に刻みながら、皆に向き直った。


「ギルドへ報告へ行こう。」

カイが一言告げた。


彼らは一歩ずつ、明るみへと歩を進めていった。


***

 

カイたちは急ぎ足で来た道を引き返していた。薄暗い通路を抜け、かつての戦闘の跡を横目にしながら、彼らはやがて地上への階段に辿り着いた。


「やっと……戻れたな。」

アッシュが息を切らしながら、遺跡の入り口に広がる朝焼けを見上げる。


「無事に戻れたことを感謝するべきね。」

リズがほっとしたように微笑むが、その表情にはまだ緊張が残っていた。


シエンは静かに辺りを見渡しながら、苦々しげに呟く。

「……仲間の分まで、俺は生き残らなきゃならないんだな。」


アランが彼の肩を叩き、厳しいが優しい声で言った。

「それがお前の務めだろう。……報告に行くぞ。今は前に進むしかねぇ。」


カイは静かに石板を握りしめながら、一行を先導しギルドへと向かった。


ギルドの反応

カイたちが冒険者ギルド《ヘブン》に戻ると、彼らの帰還を待ちわびていた仲間たちが一斉に駆け寄った。


「シエン……無事だったのか!」

仲間たちの顔には安堵の色が浮かぶ。


しかし、シエンは苦しげな表情を浮かべ、ゆっくりと首を振った。

「……俺だけが生き残った。」


ギルド内に重い沈黙が広がる。仲間の死を知った者たちは、目を伏せ、悔しさを噛み締めていた。


そんな中、カイはセシルの元へ歩み寄り、手にしていた石板を差し出した。


「ダンジョンの核は無力化しました。ただ、完全な封印ではなく、わずかに力が残っています。」


セシルは険しい表情で石板を見つめ、深くため息をついた。

「……よくやってくれた。『遺失の力』か……。」


カイは頷き、壁画に刻まれていた内容を説明する。


「封印されていたのは、単なる魔物や魂ではありません。古代王国が使っていた"禁忌の魔法"、そして、それを制御する高度な技術が埋もれていました。」


リズも真剣な表情で続ける。

「この力が悪用されれば、大規模な災厄を引き起こす可能性があります。だからこそ、適切に管理する必要があるんです。」


セシルは腕を組み、深く考え込んだ後、静かに口を開いた。


「……つまり、遺跡の封印を強化する必要があるということか。」


「はい、その通りです。」

カイが冷静に答える。


セシルはギルドの仲間たちを見渡し、低い声で決断を下した。

「『魔導管理局』に正式に報告しよう。あの遺跡は国の管理下に置くべきだ。」


「魔導管理局……?」

リズが顔を上げる。


セシルは頷きながら説明した。

「魔導管理局は、ルーリア王国の首都アルカンダにある、帝国随一の魔導士たちが集う機関だ。アルカンダ騎士団と並ぶ、国の二大勢力の一つでもある。」

「実は、そこの局長とは昔からの腐れ縁でね。ちょうど王都での異変調査の情報共有も兼ねて話をしてこよう。」


「わかりました。お願いします。」

カイが敬意を込めて応じる。


セシルは少し表情を和らげ、優しく言った。

「君たちは本当に良くやった。報酬を受け取って、しばらくはゆっくり休むといい。」


彼は続けてカイに向き直る。

「それと、カイ。君達はレベル3の冒険者になったんだ。レベル3からはC級クランを作ることができる。検討してみるといい。」


「クラン……ですか?」

カイは驚いた表情を浮かべる。


セシルは微笑みながら頷いた。

「君ならきっと、良いクランを作れるはずだ。」


そう告げると、セシルはギルドの奥へと去っていった。


カイは手にした石板を見つめながら、思いを巡らせる。


――黒の教団、古代の力、禁忌の魔術……

そして、この手に残された紋章……《遺失の力》。


すべてが、何か大きな運命の流れの中で繋がっている気がした。

近いうちに、この国に重大な災厄が訪れるのではないか――

そんな不安を抱きながら、カイとリズはギルドを後にした。

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