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【第四話】新たな試練

翌朝、カイとリズはギルドへと向かった。朝の市場は賑わいを見せ、冒険者たちの活気ある声が辺りに響く。


「今日は冒険者初の依頼……簡単なやつがいいなぁ。」 リズは背伸びをしながら呟いた。


「そううまくいくかな……」 カイは半ばあきれたように肩をすくめつつ、掲示板へと歩み寄る。そのとき、背後から静かな声がかけられた。


「おはよう、昨日の疲れは取れたかい?」


振り返ると、そこにはギルドマスターのセシルが立っていた。整った銀髪に澄んだ碧眼、普段は落ち着いた雰囲気だが、その鋭い視線には底知れぬ威圧感がある。カイは少し緊張した表情を浮かべた。


「ええ、まあ……」 言葉を濁すカイに対し、リズが元気よく笑顔を向ける。


「はい!今日は初心者向けの依頼を探しに来ました!」


リズの答えに、セシルは微笑みながら二人に依頼書を手渡した。


依頼内容:廃村の調査


依頼ランク:D

報酬:50銀貨

詳細:ギルドから東へ10キロほどの場所にある**『スレイ村』**は、かつて繁栄していたが、20年前に突如廃村となった。最近、その村で異常な魔力反応が確認された。原因を調査し、必要であれば排除すること。

「廃村……?」 リズが不安そうに依頼書を覗き込む。


「不気味だな……俺たち、まだレベル1なのに大丈夫か?」 カイは眉をひそめた。


「君たちなら乗り越えられるはずだ。昨日の試練を思い出してごらん。」 セシルの励ましに、カイはしばらく考え込んだが、リズはすぐに笑顔を向けた。


「やってみよう、カイ! きっと二人なら大丈夫!」


リズの明るさに後押しされ、カイも覚悟を決める。


「……わかった。行こう。」


スレイ村に潜む闇

ギルドを出発して数時間後、二人はスレイ村の近くへとたどり着いた。


「うわ……霧がすごい……」 リズは腕をさすりながら呟く。村は厚い霧に包まれ、まるで誰かの気配が漂っているかのような錯覚を覚える。


「ここがスレイ村……本当に人が住んでたなんて信じられない。」 リズが周囲を見渡しながらつぶやく。


「気をつけろ。」 カイは剣を抜き、慎重に村の奥へと進んだ。


やがて村の中央にたどり着いた瞬間、異様な冷気が二人を包み込む。


「……何か来る!」 カイが身構えた刹那、霧の中から黒い影が浮かび上がる。


「なに、あれ……?」 影は徐々に形を成し、不気味な姿をしたゴーストが突如現れた。


「こいつが原因か!?」 カイが剣を構えるが、ゴーストは不気味に笑うような音を立てながら舞い上がる。


「カイ、物理攻撃じゃダメかも!」


リズが魔法の詠唱を始めた――その時。


黒い霧の侵食

ゴォォォ……!


突如、辺りに黒い霧が広がった。


「な、なんなの、この霧……!」 リズが思わず後ずさる。


霧はまるで生き物のように流れ、村全体を包み込む。その中から、不気味な影が次々と現れた。


「ゴーストが……増えてる!?」 カイが驚愕する。


ゴーストは次々と霧の中から浮かび上がり、数えきれないほどの黒い影が揺らめきながら二人を取り囲んでいく。


「くっ……これじゃあ、キリがない!」 カイは剣を握りしめながら焦る。


リズは震える手で詠唱を続ける。


「せめて、少しでも魔法で……!」


「ウォーターボルト!」


水の弾丸がゴーストに向かって放たれる。しかし――


スッ……


まるで霧に溶けるように、水の弾は威力を失い、消え去った。


「えっ!? なんで……?」 リズの顔が青ざめる。


「この霧……魔力を弱めてるのか?」 カイがゴーストの動きを警戒しながら、リズを庇うように前に出る。


「ギャアア……」


ゴーストたちは不気味な呻き声を上げながら、二人を囲い込んでいく。


(まずい……このままじゃ……!)


カイが歯を食いしばったその時――


「フレイムバースト!」


ゴォォォッ!


突然、真紅の炎が霧を切り裂いた。


「なっ……!」


強烈な炎が巻き起こり、ゴーストたちが苦しそうに身をよじる。その中から、一人のフードを被った男がゆっくりと姿を現した。


「君たちがギルドヘブンの冒険者か?」


鋭い瞳で二人を見下ろしながら、男は落ち着いた声で言った。


カイは男を警戒しつつ、すぐに答えた。

「そうだ、俺たちは冒険者だ。危ないところだった……助かった。ところで、あんたは誰だ?」


「俺の名はアッシュ。魔術師だ。今は説明してる暇は無さそうだ。」


ゴーストが次々に現れ、カイたちはじりじりと追い詰められていく。


そこへ現れたアッシュの協力を得て、カイとリズは共闘を開始した。しかし、立ち込める霧が魔法の威力を削ぎ、思うように攻撃が通らない。


「だったら……!」 リズは魔力を込め、霧を吹き飛ばそうとする。


「ウォーターストーム!」

強力な水流が霧を晴らし、その隙にアッシュが魔法を撃ち込む。

強力な水流が霧を切り裂き、視界が一瞬だけ開ける。


その瞬間、アッシュはすかさず炎を放った。燃え盛る赤が霧の隙間を突き進み、彷徨う影へと襲いかかる。熱が空気を歪ませ、苦悶のような微かな悲鳴とともに、怨念の残滓が闇へと溶けていった。

ようやく、戦場から不気味な気配が一つ消えた。



「あの力を......コントロールするんだ!」

カイの剣がかすかに光る。


(……この感覚……!)


剣に刻まれた紋章が淡く輝き、カイの身体に力が漲る。


「……これなら!」

カイは剣を強く握りしめ、一気に前へと踏み込んだ。


勢いよく振るわれた剣が白銀の光を帯び、迫りくるゴーストを斬り裂く。

光の刃が霧を裂き、ゴーストの身体を貫いた。


「ギャアアア……!」

断末魔の叫びを上げながら、ゴーストは闇へと溶けるように消滅していく。


「よし……!」

手応えを感じたカイとリズそしてアッシュは、次々と迫るゴーストを消滅させていった。

ゴーストを全て消滅させると黒い霧はしだいに晴れていった。


「もう出てこないわよねぇ?......」

リズは少し不安に呟いた。


「あぁ.....もう大丈夫そうだなぁ。」

カイもホッと肩を落とした。


アッシュと名乗った男は口を開いた。


「俺の名はアッシュ。俺も調査依頼を受けて、この村に来ていた。」


そう言って一息つくと、彼の表情がわずかに強張る。


「……この村には、まだ何かが潜んでいる。スレイ村が廃村になったのは、ちょうど20年前……何かが、この村の人々を跡形もなく消し去ったのかもしれない。」


「確かに......ここは異様な気配と空気が漂っている......」

カイも同意するように答え


「君たちと協力すれば、真相に近づけるかもしれない。」


リズは迷わず頷いた。

「そうね!一緒にやりましょう!」


カイも同意し、三人で再び村の奥へと向かった。


やがて三人は村の広場に到達し、奇妙な魔法陣を発見した。それは複雑な紋様を描き、かすかに光を放っている。


「この魔法陣……」

カイは思い出すように呟いた。


「これは封印魔法だ。しかし、封印が壊れかけている……」

アッシュが呟いた瞬間、地面が揺れ、中央から地下への通路が現れた。


「隠しダンジョン……?」


リズが息を呑みながら、その暗闇を覗き込む。


地下へと続く石造りの階段が、ぽつぽつと朽ちた魔法灯の青白い光に照らされている。しかし、その光は弱々しく、深奥はなおも闇に包まれていた。


空気はひんやりとしており、古びた石の隙間から冷たい風が吹き上げてくる。そしてどこからか聞こえる低いうめき声のような音が、異様な不気味さを醸し出していた。


「……嫌な気配がするな。」

カイは思わず剣の柄を強く握る。


「危険だ。いったんギルドに戻って報告しよう。」

アッシュの提案に、カイも賛成した。


ギルドに戻ると、セシルが迎えた。


「調査の成果は?」


「村には奇妙なゴーストがいた。そして、封印魔法陣が地下ダンジョンを隠していたんです!」

カイが興奮気味に説明すると、セシルの表情が引き締まる。


「それは……由々しき事態だな。」


「C級、あるいはB級ダンジョンの可能性があります。」

アッシュが冷静に言うと、セシルは深く頷いた。


「わかった。早急に新たな依頼を作成し、クランを編成しよう。」

セシルは真剣な表情で頷いた。


そして、ふとカイを見つめ、驚きを滲ませながら口を開く。

「しかし、レベル1の君たちがゴーストを倒すとはな……特にカイ、その力は強大だ。だが、使い方を誤れば、君自身の命をも脅かすことになるかもしれない。」


カイは少し息を呑み、拳を握りしめる。


「……わかっています。この力をコントロールできれば、加護のない僕でも――」


そう言いかけて、言葉が詰まる。


「……無理はしません。」

気を取り直すように、カイは慎重に言葉を選んだ。


すると、リズがそっと微笑みながらカイを見つめる。


「大丈夫。私がずっと側にいるから。」


その言葉に、カイの緊張がわずかにほぐれた。しかし、次の瞬間――


「おい……カイ、お前、加護がないのか!?」


驚いたようにアッシュが声を上げる。カイは一瞬、身体を強張らせた。


(……またか。加護なしなんて、バカにされるのは慣れてる。)


そんな思いが頭をよぎる。そして淡々と答えた。


「……ああ、俺には加護がない。」


しばしの沈黙。そして――


「何だよそれ? お前、あの力でレベル1? しかも加護なし? ……どれだけ強くなるつもりだよ!」


アッシュの反応は、カイの予想とは全く違った。バカにするどころか、むしろ驚きと興味をあらわにしている。


「これからよろしくな!」

アッシュはカイに手を差し出し、力強く握手を求めた。


「……ああ、よろしく。」


カイも答えるように手を差し出し、しっかりと握り返す。その瞬間、胸の奥から込み上げる感情を感じた。


(……俺を馬鹿にするんじゃなくて、認めてくれる仲間がいる。)


これまでとは違う温かさが、カイの心に満ちていく。


セシルが静かに微笑む。

「とりあえず、君たちは今日はゆっくり休むといい。明日からが本番だ。」


カイとリズは深く頷き、ギルドを後にした。


外に出ると、アルカンダの空はすでに夜に包まれ、星々が煌めいていた。街の灯りがやわらかく光り、穏やかな雰囲気を醸し出している。


「なんだか、今日はすごく長い一日だったね。」

リズが空を見上げながら呟く。


「ああ。でも、悪くない一日だった。」

カイも同じように星を眺め、そう答えた。


旅の疲れもあって、二人は宿に戻ると、すぐに眠りについた――。

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