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[第二十話]時廃の聖堂

時廃の聖堂――

 その名の通り、時が止まったかのような不気味な雰囲気を漂わせていた。


「周囲を常に警戒してくれ。何が待ち受けているか分からない。」

 カイが剣を握り直す。


 一行は、静かにその扉を押し開けた——。


 重厚な扉がきしみながら開いた瞬間、冷たい空気が一行を包んだ。中にはほこりが舞い、朽ちた石の壁が広がる。聖堂内は静寂に包まれていたが、その奥底に何か得体の知れない気配が潜んでいるのを、カイたちは肌で感じ取った。


「……まるで時間が止まっているみたいだな。」

 アッシュも最新の注意を払っていた。


「時廃の聖堂の名は伊達じゃないってことか……」 シエンが辺りを見渡しながら慎重に進む。


 聖堂の内部には大理石で造られた柱が立ち並び、天井には崩れかけたステンドグラスがはめ込まれている。光が差し込む部分はわずかで、ほとんどが闇に包まれていた。


「気をつけろ……何かいるかもしれない。」カイが剣を構えながら前進する。


 その時——


 カツン……カツン……


 何かが床を踏みしめる音が響いた。


「ッ……誰かいるのか?」


 カイが周囲を警戒する。次の瞬間、闇の奥から何者かの影がゆっくりと姿を現した。


 それは朽ち果てた鎧をまとった騎士たちだった。鎧には無数の傷が刻まれ、目の部分は虚ろな光を放っている。


「……アンデッドか。」シエンが眉をひそめる。


 騎士たちはゆっくりと剣を抜き、静かにカイたちへと向かってくる。その動きは人間のそれとは違い、まるで何かに操られているかのようにぎこちなかった。


 騎士たちは静かに剣を構え、一行へと迫ってきた。


「来るぞ……!」アッシュが低く呟く。


 刹那——


「《迅雷》!」


 カイの剣が雷光を纏い、一瞬で敵の間合いに飛び込む。

 疾風のような一撃が振るわれると、最前列の朽ちた騎士が一瞬遅れて真っ二つに裂け、崩れ落ちた。


「なんだ、この動き……!」アッシュが目を見張る。


「まだ終わりじゃない。」カイは冷静に言い放つ。


 残る騎士たちが動きを速め、カイへと襲いかかる。

 しかし、彼は一歩も引かず、迎撃に転じた。


「はああっ!」


雷の力を宿した剣が眩い軌跡を描き、次々と騎士たちをなぎ払う。

 硬い鎧をものともせず、鋭い斬撃が深く食い込み、アンデッドの身体を砕いていく。


 シエンとアッシュはその圧倒的な戦いぶりを目の当たりにし、思わず言葉を失っていた。


「……相変わらず規格外だな。雷魔法まで使えたとは......」シエンが苦笑する。


「いや、マジでこいつ一人でいいんじゃねぇか?」アッシュも呆れたように剣を肩に担ぐ。


 カイは黙々と剣を振るい、最後の一体を両断する。

 轟音とともに騎士の身体が地に伏せ、ようやく静寂が戻ってきた。


「全滅したんですか?」

 セリは辺りを見渡していた。


「あぁ……しかし妙だな。」

 カイは剣を納めながら、周囲を警戒する。


「どうした?」アッシュが訊く。


「この聖堂、封印されているはずだったんじゃないのか?」


その言葉に、一同はハッとする。

 本来、時廃の聖堂は強力な封印魔法によって閉ざされているはずだった。


「つまり……何者かが意図的に封印を解いた?」シエンが考え込むように呟く。


「可能性は高い。しかも、こんなにも朽ちた騎士が動いていたとなると……」


「黒の教団か……?」


 その名を口にした瞬間、場の空気が張り詰めた。


 黒の教団——それは闇の魔術を操り、各地で暗躍する謎多き組織。

 これまでも数々の事件に関与していると噂されていたが、時廃の聖堂と何の関係があるのかはわからない。


「とにかく、先へ進もう。この遺跡がどうなっているのか確かめる必要がある。」


 一行は慎重に聖堂の奥へと歩を進める。


 壁に刻まれた紋様は古代文字で書かれており、所々に奇妙な時計のような装飾が施されている。

 だが、その時計の針はすべてバラバラの時刻を指しており、まるで時が狂っているかのようだった。


 空気はどこか冷たく、湿っている。

 時間が経過しているはずなのに、埃はまるで積もっておらず、床には人為的な足跡すら残っていた。


「これは……やはり最近誰かがここを通ったと考えていいだろう。」シエンが周囲を観察しながら言う。


「しかも、妙な魔力を感じる。何かがこの聖堂に潜んでいる……」


 進むにつれて、空気が重くなっていく。


 そして、広間へとたどり着いた瞬間——


「……待て。」カイが手を挙げる。


 暗闇の奥に、不気味な黒い影が蠢いていた。

 

 その時、奥の闇が不気味に揺れ、黒い塊がいくつも現れた。

 粘性を持つ影が波のように蠢き、形を変えながら這い寄ってくる。


「……スライム?」


 セリが不思議そうに黒い塊を見つめる。


「あんな真っ黒なスライム、見たことがねぇ……」アッシュが剣を構えながら言った。


 その瞬間——背後から静かに足音が響く。


「ようこそ、時廃の聖堂へ。」


 一行が振り向くと、そこには黒いローブをまとった数人の影が立っていた。


「やはり……黒の教団か!」


 カイが剣を抜き、鋭い眼光を向ける。


 ローブの男たちは無言のまま手を掲げると、スライムたちが一斉に蠢き始めた。


「さあ……お前たちには、この闇の中で消えてもらおう。」


 不気味な笑みを浮かべる教団の男たち。

 そして、迫りくるブラックスライムの群れ——


「……やるしかないな。」


 カイは静かに剣を握り直し、仲間たちに視線を送る。


「あれはただのスライムじゃない。闇の魔法で強化されている。」


 緊張感が高まる中、カイは剣を構え直し、静かに言い放つ。


「ここが正念場だ。全員、気を引き締めろ!」


 カイの声に呼応するように、仲間たちは武器を構えた。

 ブラックスライムの群れは闇に紛れるように蠢き、まるで意思を持っているかのようにゆっくりと迫ってくる。


「スライムってのは本来、そんなに強い魔物じゃねえはずだが……」アッシュが眉をひそめる。 

 

「だが、これは違うな。……ただの魔物じゃない。」シエンも冷静に観察する。


 スライムたちの黒い粘液は、時折不気味に波打ち、その表面には赤黒い光が脈動していた。

 それはまるで生きた魔力の塊のようで、通常のスライムとは異なる異質な雰囲気を放っていた。


「何かに取り憑かれている……?」

 セリが不安げに呟く。

 

「いや、違う。これは『作られた』スライムだ。」カイが鋭い視線を黒の教団のローブの男たちに向けた。


 彼らは何の動揺も見せず、ただ静かに一行を見つめている。

 まるで、この戦いすら計算済みであるかのように——。


「こいつら……まさか、封印を解いたのもお前たちか?」カイが問いかける。


 すると、黒の教団の一人が静かに笑みを浮かべた。


「フフ……興味深い。君たち、なぜここに来たのかな?」

 落ち着いた声だったが、その裏には冷たい悪意が滲んでいた。

「我々の儀式を邪魔しに来た……そういうことかな?」


「儀式……?」シエンが警戒を強める。


「そう。我々はこの地に眠る"時の遺産"を目覚めさせようとしている。

 封印を解き、時廃の聖堂に眠る力を解放する。それこそが我々の使命なのだよ。」


「ふざけるな!」アッシュが剣を構える。

「お前らが何を企んでいるのか知らねえが、こんなことをしてただで済むと思うなよ!」


「……そう言うと思ったよ。では、せめて"試練"を受けてもらおうか。」


 黒の教団の男が手をかざすと、スライムたちが一斉に動いた。

 黒い粘液が波打ち、次の瞬間、スライムが人の形を取り始める——。


「……えっ……!?」セリが息を呑む。


 スライムの形が変わり、黒騎士の姿を象ったのだ。

 剣を持ち、鎧のように粘液が固まり、まるで生きた人形のようになっていく。


「スライムの擬態能力を利用した……いや、それだけじゃない。完全に操られている……!」シエンが驚きを隠せない。


「これは……厄介だな。」カイが低く呟く。

 スライムの兵士たちは不気味な赤い光を目の奥に宿し、無音のまま剣を構えた。


「お前たちに選択肢はない。」

 黒の教団の男が薄く笑いながら、手を振るった。


「試練の時間だ。」


——その瞬間、スライム騎士たちが一斉に襲いかかってきた!


激戦!ブラックスライムの軍勢

「来るぞ!!」カイが叫び、一行はすぐさま応戦態勢に入った。


 まず先陣を切ったのはアッシュだった。

「やってやるよ!!」

 彼は剣を振り下ろし、スライムの黒騎士へと鋭い一撃を浴びせる——。


 だが——


「……硬えっ!?」

 アッシュの剣が粘液に飲み込まれるようにして止まった。

 通常のスライムならば容易く両断できるはずだったが、まるで鎧を斬るかのような手応えがあった。


「クソッ!こいつ、やっぱりただのスライムじゃねえ!」


 次の瞬間、スライム騎士の剣がアッシュを狙う。

 刃は粘液のように不気味に蠢きながら、鋭く振り下ろされた。


「クソッ……!」


 アッシュはすぐに剣を引き、紙一重でその一撃をかわす。

 だが、スライム騎士の腕が異様な柔軟性を持って追尾するように伸びてくる。


「舐めるなよ!」


 即座に魔力を高めると、アッシュの身体が熱を帯び、周囲の空気が揺らぐ。

 彼の周囲に炎が巻き上がり、燃え盛る壁となって迫る剣を防ごうとする。


 ——だが、黒い粘液は炎を弾くように収縮し、勢いを殺さずに突き進んできた。


「こいつ、火が効かねぇのか……!?」


 アッシュが舌打ちする間に、スライム騎士の剣が再び襲いかかる。

 それを迎え撃つように、横から強烈な雷撃が走った。


 スライム騎士の身体が痙攣し、動きが一瞬止まる。


「やはり雷なら通るな。」

シエンが鋭い視線を送りながら、次の雷を練り上げる。

 

 その間に、カイが静かに前へ進み出た。


 剣を握る彼の周囲に、淡い光が揺らめき、次いで闇の波動が絡みつく。

 まるで光と闇が一つになり、絶妙な均衡を保っているかのようだった。


 一息に踏み込み、カイの剣が振り下ろされる。

 それは黒いスライム騎士を一刀のもとに両断し、光の閃きが粘液を焼き尽くす。


 粘液が軋むような音を立て、スライム騎士の形が崩れていく。


「やはり……光の魔法には耐性がないようだな。」


 カイが剣を納め、淡々と呟いた。


 しかし——


「なかなかやるな。」

 黒の教団の男たちは、まるでまだ余裕があるかのように微笑んでいた。


「お前たちがここで倒れるのは決まっていることだ。

 なぜなら——"本命"はまだ現れていないからね。」


 その言葉とともに、聖堂の奥で何かが蠢いた。

 空間そのものが歪むような重苦しい気配が広がり、肌にまとわりつくような闇が生まれる。


「……何か来る!」


 カイが剣を握り直す。


 その瞬間、セリがすかさず詠唱を開始した。

「ウィンド・ウォール!」

 透明な風が巻き上がり、一行を包み込むと、空気の流れが一変する。

 冷たく、鋭い風が周囲を守る壁となり、迫る敵を押し返そうとする。


 ——そして、闇の奥から巨大な黒い影が姿を現した。


 それは、スライム騎士の残骸が集まり、新たな怪物へと変貌した姿だった。

 全長五メートルを超える巨体は黒き粘液の塊と化し、無数の触手が蠢いている。

 中心には、不気味に脈動する赤い核。


「融合……したのか?」

 シエンが息を呑む。


 アッシュは歯を食いしばりながら剣を握り直した。

「クソッ……さっきまでのスライムとは桁違いだな。」


「こいつ……強いぞ。」

 カイの声に、一行の緊張が一気に高まる。


 セリは息を整え、風の魔力を練り上げると、仲間たちの身体に軽やかな力を与えた。

 その瞬間、足元の感覚が変わる。まるで風そのものになったような速さ——。


 黒き怪物が、ゆっくりと蠢きながら触手を振り上げた。

 その動きは遅く見えたが、次の瞬間——


「速いッ……!」


 シエンが叫ぶ間もなく、巨大な触手が空気を裂きながら襲いかかる。


 それをカイが一閃し、闇の剣が触手を切り裂く。

 しかし、切断された部分がすぐに再生し、再び迫ってきた。


「再生能力があるのか……!」


 カイが眉をひそめた。


「なら、一気に核を潰すしかねぇな!」


 アッシュが高く跳躍し、剣に炎をまとわせながら一直線に核を狙う。

 だが、触手が素早く動き、彼の進路を阻むように絡みついてきた。


「チッ……!」


 炎で焼き切ろうとするが、粘液がまたしても炎を弾く。


「やっぱり……火は効きづらいのか!」


「なら、雷で痺れさせる!」


 シエンが雷を放ち、怪物の巨体を貫く。

 電流が赤い核に届くと、怪物が一瞬のけぞるように動きを止めた。


「今だ!」


 カイが闇の剣を振り上げると、その刃が漆黒の光を纏う。

 光と闇が絡み合い、異様な輝きを放った瞬間——


 一直線に核を貫く。


 怪物が震えるようにうねり、空気が一瞬、張り詰めた。


「……やったか?」


 アッシュが息を整えながら呟いた。


 しかし——


「フフ……さすがだな。やはり、ただの冒険者ではない。」


 黒の教団の男が、どこか愉快そうに微笑んでいた。


「だが、これはまだ"序章"に過ぎない......」


 その言葉とともに、聖堂全体が揺れ響いた。

どこからともなく冷たい風が吹き抜けた。


「……何だ?」


アッシュが身構える。


黒の教団の男は静かに笑いながら、ゆっくりと手を掲げた。


「まだ終わりではない……"目覚め"は、これからだ。」


その瞬間、足元の大理石の床に刻まれた紋様が鈍く光り始めた。


「これって?......」


セリが床を見つめると、古い魔法陣が徐々に輝きを増していく。


「まずいぞ……! 何かが召喚される!」


シエンが鋭く声を上げる。


黒の教団の男は微笑みながら、一歩後ろへ下がった。


「さあ、楽しませてもらおうか——"時廃の守護者"との戦いを。」


カイたちは、剣を握り、魔法の詠唱を始める仲間と共に、迫りくる未知の存在に備えた。


時廃の聖堂の守護者が今、目覚めようとしていた——。


 


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