第四話 魔物
魔術の訓練を初めてから半年がすぎた。
俺は案外習得が早かったらしい。
だからもうC級魔術師になった。
アンいわく稀に見る存在だわって言われた。
俺ってそんな才能があったのか。
てっきり何も無いと思っていたぜ。
なんだ、天才エリック様じゃないか!
あはは……。
「あんた何考えてんの?」
おっと、またまた顔に出てしまっていた。
どうしても無意識に出てしまうなぁー。
「すまん、なんでもない」
「はぁー…早く寝な。明日も朝早くから魔術練習するんだからね。あと覚えてると思うけど、明日は森に行って実際に魔物と戦ってもらうからね」
そーだった。
明日は森に行って実践練習みたいなことをするんだった。
てっきり忘れていた。
なら早く寝ないとな。
寝る子は育つ!
そーだ!だから早く寝よう!
「ん、おやすみ」
―――
翌朝、日の出と同時くらいに起こされた。
4時半くらいだろう。
もう少しくらい寝させてよ。
まだ寝足りないよ。
そうして布団を抱き枕にしながら二度寝をしようとしていると
「一回で、起きろぉー!」
耳元でブルドーザーのような音が響いた。
そして鼓膜が破れた。
っていうのは冗談で、でも真面目に鼓膜が破けたと思ったよ。
アンは朝から元気だな。
「はぁい、ふぁーい……」
「起きたなら机に置いてある朝食を早く食べて、早く支度を終えて。」
「分かった分かった、そんなに急ぐなって」
「ムカつくわね」
俺はベットから降りて机に向かった。
机の上にはパンらしきものと水が置いてあった。
いつもと変わらないな。
朝食を食べ終わると部屋の一角にある洗面所みたいなところに行き顔を洗った。
もちろん水は魔術で出したものさ。
あ、朝食のやつもね。
一通りの身支度がおわり外に出るともうアンが待っていた。
「遅いわ、早く行くわよ」
「ごめんごめん」
早くしたつもりだけどなぁー…。
アンはどんだけ完璧を目指したいんだよ。
そして俺たちは近くの森へと歩き出した。
アルガンテの森。
ここは生界の中で初心者向けの森として使われている。
だから比較的弱い魔物が生存している。
C級程度の魔術師なら難なく倒せる程度だ。
アンと俺はアルガンテの森の北西の端から森へと入っていった。
森の中は割と明るく、異様な雰囲気は無いほのぼのとした感じだった。
鳥の鳴き声や風にやって揺れる葉の音が鳴り響いていた。
初めの方はそのせいか気が緩んでいた。
森に入って少しすると雰囲気が一変した。
先程とは大違いの雰囲気だ。
太く高い木がなくなり、細く痩せ細った木が沢山並ぶようになり、風も生暖かくなっていき、いかにもこの先行くと死ぬぞみたいな雰囲気が感じられた。
そんな中俺らはひたすら歩いた。
どこへ向かっているのかはよく分からない。
ただアンは迷わず、あたかも森の支配者のようにスラスラと森を歩いていった。
森に入って2時間は経過しただろう。
やっと着いたらしい。
どんだけ歩かせるんだよ。
足取れるぞ。
「よし、早速始めるわよ。」
おいおい待て待て。
いくらなんでもはやすぎるだろ!
疲労困憊な状態で魔物と戦うなんて無理に決まってるだろ。
リンチにされるだけだ。
「休憩ぐらいはとらせてよ。」
「何甘えてるの?今までの歩きも合わせての練習なのよ。この疲労状態で魔物を倒せるかが鍵なの。」
「いやボコされるだけだよ。」
「それをどうにかするんでしょ。そのためにやってきたんだよ。」
「まじかぁ……」
この状態で戦うのかぁー。
厳しいなー。
ま、でもC級魔術師程度なら行けるって話だし、案外倒せるかもな。
こんな状態でも魔物をちょちょいのちょいとやっつけるとこを見とけよアン!
俺様がなんでも出来るってとこ見せてやるからな!
「仕方ない、なら今すぐ戦おうじゃないか。」
「いい志よ。もう少し待っててね。」
常時、前後左右を警戒しながら手先に魔力を集中させていた。
「そろそろだね。 」
すると前から得体の知れないデカブツが突っ込んできた。
俺は反射的に左へとかわした。
四足歩行のゴーレムみたいだ。
それにこいつスピードが異常に速い。
ゴーレムは俺を再度確認し、再び突っ込んできた。
俺は為す術もなくかわすだけだ。
時々水魔術や炎魔術を撃つが効果はいまいちだ。
ゴーレムが突っ込みそれをかわすか、そんな戦況がずっと続いていた。
「こいつ速すぎるって!」
「エリックならいけるわ。」
「でもどうやってこの脳筋ゴーレムを止めるんだよ!」
「自分で考えなさい。」
考えても無理なんだよ。
考えようとしてもゴーレムが突っ込んできて考える暇もないんだ。
くそ、どーする。
水も炎も効かない。
なら何が効くんだよ。
ゴーレムの弱点、ゴーレムの弱点………あ…。
あれだ。
雷魔術だ。
ゴーレムは物理的攻撃は全般効かないが、雷は例外って確か前言ってた気がする。
なら雷魔術でゴーレムに攻撃すれば勝てる!
「お、やっと気づいたか。」
「広大な空の都よ、今ここに雷王の力をさすげたまへ!そして大いなる敵に多大な雷を打たん!光雷殺」
光雷殺。
C級雷魔術の技。
雷魔術は特に岩や土などに強い。
しかも威力は半端じゃない。
もろに当たれば真っ二つまたは即死だ。
今回は、ゴーレムがこの魔術の強性対象だったのと、光雷殺がもろにあたった、この2点によって即死した。
「倒したのか?…」
「おめでと、よくやったわね。」
この閑散とした森林に雷の音が響いた。
ゴーレムは焼死していた。
「すげーな。光雷殺ってこんなに威力があるんだな。」
「そーよ。C級魔術でもこの程度、いやこれより少し強い敵でもワンパンだからねー。」
にしてもすげー迫力だったな。
こんなクソでけー雷をまじかで聞いたのなんて初めてだぜ。
鼓膜がいかれてまうかと思ったわ。
「じゃ、帰ろっか。」
「これだけ?」
「そーよ。これだけ?ってなんか余裕でしたよ感だしてるけど、ちょっと危なかったわよね?」
「こんな程度なら俺にかかればよゆーだな。」
「口だけは達者のこと。ほら、家帰って修行の続きよ。」
「はいはーい。」
2人は拠点へと歩き始めた。
30分ほど歩いた。
まだまだ森の出口へは遠い。
相変わらず木々は生い茂ってるが、雰囲気が怖いな。
そーいえば森に入る前から水を一滴も飲んでなかったな。
そろそろ水分を補給しないと脱水になっちまう。
「アン、水のみた………」
「伏せて!」
「え?…」
アンがいきなり伏せろと言った。
なんかいるのか。
まさかまたあのゴーレムとか?
いやあの程度なら伏せろとかなんて言わないか。
もっと強いやつ?
ゴーレム100匹とか?
「近くに魔力を放ってる奴がいる。」
「そんなこと分かるの?」
「うん、千里感って言って半径200m以内で魔力や、呪力、霊力などを放つと分かるってやつ。」
「で今近くに魔力を放ったものがいるって事ね。」
「そーゆー事。だから気をつけて。いつ襲ってくるか分からないから。厳重警戒ね。」
辺りを見渡しても誰もいない。
気配なんてちっとも感じてこない。
便利だなー千里感って。
俺も習得したいなぁー。
ってそんなこと考えてる場合じゃねー。
この状況、いつ襲われてもおかしくないらしいからな。
前後左右警戒しなくちゃ。
「いるわ。」
アンが左斜め前を見ながら言った。
だが俺には何も見えない。
「どこだよ、いないじゃんかよ。」
そのときだった。
俺の目先には刃の矛先があった。
それと同時にアンが放ったであろう魔術が刃を右へと飛ばした。
刃は轟音を鳴らし、地へ落ちた。
「やんじゃん。」
「あんた誰よ。」
「ん、俺?んー………やっぱ名乗るのって戦ったあとっしょ。」
話の通じないやつだなー。
なにが"あとっしょ"だよ。
「仕方ないわ、すぐ終わらせるわ。」
「やれるもんなら…」
アンと知らない人物との戦いが始まった。