第三話 魔術
アンは魔術の研究をしているらしい。
そう、魔術だ。
男は誰しもが夢見ること。
炎を出したり、水を出したり、土、風、音、などあらゆるものを操れるのだ。
うひょー、興奮してきたぜ。
とうとうこの俺でも魔法が使える日が来るなんて夢にも見てこなかったぜ。
よし、さっそく始めるか。
魔法を使うときって枝とか杖なんかが必要だった気がする。
ま、近くには見当たらないし、前世でハマった漫画の主人公は手からでも魔術を出てたからいけるはず。
「何してるの」
「え……」
恥ずかしい姿を見られたようだ。
だってそうだろ、もう成人も過ぎた大人が手を前に伸ばして踏ん張っているんだもん。
いくらアニオタとは言えどもさすがにこれは…厳しい。
「なに厨二病みたいなことしてるのよ」
「馬鹿じゃないの、使えるわけないでしょ」
手を伸ばして踏ん張るだけじゃ魔法は使えないか。
じゃーどうやったら使えるんだよ。
この世界に来たのに魔術もなにも使えませんなんてやめろよ。
なにかは使いたいじゃない。
だって男のロマンだもん。
「魔術を使うには”詠唱”が必要なの」
「詠唱…………?」
なんだ詠唱って。
ん、待てよ。前世でもそのような言葉を聞いたことがある。
なんだったっけな…たしか…あの漫画だったはず。
そうだ、魔術を使う前に言う呪文みたいなやつだ。
「呪文みたいなやつだっけ」
「そうそう、だけど正式に言うと魔文なんだけどね。呪文は呪術を使うときに使うけどあまり言わないらしいよ。使う呪術によるけどね」
「じゃ、詠唱を言わないと魔術を使えないの?」
「そういうわけじゃない。訓練を積めば無詠唱でも出せる」
詠唱なしで魔術を出すには訓練が必要ってことか。
「ま、とりあえず私が魔術を使うところ見ててよ」
「……水の神よ、我らに心安らき力を与え、清らかな水流を及ぼせ、水魔球」
え...まじかよ。
こいつほんとに手から水を出しやかった。
「また?今のはE級水魔術。一番下の魔術よ。簡単だからあんたもやってみな」
簡単?おいおい笑わせんなよ。
前世で魔術と無関係な生活をしてた俺がいきなり魔術を使えるようになるなんて無理に決まってるだろ。
どんなに厨二病がひどくてもそこまでひどくはない。
「できるわけないでしょ、地球人だよ」
「まーまー、そんなことは置いといてさ、一回だけやってみて」
やってみたらわかるさって顔で俺に言ってきた。
なにがわかるんだよ。
まぁーしかたない。
一度だけ厨二病の度を越えるか。
「わかったよ。一度だけな」
「よし、じゃーさっき私が行ってたことを口に出してみて」
「わかった。やってみる」
「……水の神よ、我らに心安らき力を与え、清らかな水流を及ぼせ、水魔球」
で、できたぁぁぁぁー!
手、手から水が出たー!
え、どういうことだ。
俺って地球人だよな。
地球人ってそんな特殊能力持ってたっけ?
いや俺だけのものかもな。
そんなことはないか。
「ほらできるじゃない。」
「なんで、前世では魔術となんて無関係だったのに」
「ききたい?」
うざい。
ドヤ顔で言われるのはなんか腹立つな。
でも知りたい。
なんで使えるのか知りたい。
「うん」
「しょーがないなー」
さっさとしてくれよ。
もうそのドヤ顔見飽きた。
「多分だけど、私たちがこの世界に来る時にその力が与えられたと思う」
おいおい多分かよ。
しっかりと結論出せよ。
でも聞かないよりましか。
「わかってることとかないの?」
「わかってる事かー、一応あるよ」
あるのか!
ぜひ聞きたい。
「おしえてよ」
「いいわよ。まず人それぞれ魔力総量が違うってこと」
魔力総量?なんだそれ?
「魔力総量って何?」
「魔力総量っていうのは魔力を使うために必要な魔力をどれだけ持っているかってこと。簡単に言えば、体力がある人とない人がいるみたいな感じ」
要するに魔力総量が高いやつほど沢山魔力を使うことが出来て、低いやつほど使うことが出来ないってことか。
なら俺も魔力総量がどれくらいか決まってるってことか。
どんだけなんだろ。
「なら俺も魔力総量が決まってるってことでしょ?」
「そーよ」
「じゃあどのくらいの量なの?」
気になるなー。
もし魔力総量が高かったら魔力を使いたい放題ってことでしょ。
そしたら強い敵なんかちょちょいのちょいじゃねーな。
ちょろい世界だ。
「ちょっと待ってて、魔力総量調べる器具を取ってくるから」
「分かった」
そんな器具なんかあるのか。
やっぱ前世より発展してんなぁー。
あ、そーだ。
この世界には前世で言う機械みたいなものなんかないのだろうか。
もちろんその魔力総量を調べるのも機会のうちだが、
俺が知りたいのはそこじゃない。
スマホやパソコンなど科学的な製品のことだ。
俺はスマホがないと生きてけない。
スマホと二人三脚で生きてきた男だ。
急にスマホなんてありませんなんて無理に決まってる。
あるに賭けて聞いてみるか。
「ほらこれ被って」
「分かったけどそのまえに、この世界にスマホとかの科学的製品ってあるの?」
「ないに決まってるでしょ!」
おいおいまじかよ。
これからどーやって生きてければいいんだよ。
生きがいがなくては生きてはいけねーよ。
「でも今見てる感じ前世より発展してない?」
「確かに前世では見たこともないような器具は沢山あるけど、前世でいう最新的な機械なんてないわよ。魔法とかその他もろもろを抜いたら弥生時代みたいな生活してる部族や世界なんて沢山あるわよ。もういい?早く被ってこっち向いてよ」
「もういいよ、ありがと」
俺はよく分からない色々なボタンや凹凸があるヘルメットのようなものを被せられた。
被せたあと、アンがヘルメットに上部に手をのせた。
「なにしてんの?」
「魔力を送ってんのよ」
「魔力送らないと使えないの?」
「ちょっとだまってて。今集中してんの!」
おっとすまん。
逆鱗に触れてしまった。
逆鱗まではいかないか。
それしにしても魔力を送り込むと使えるってどんな仕組みしてるんだろ。
そんなことを考えてたらヘルメットが緑色に光った。
「あ、緑か」
「緑ってどんな意味があるの?」
「端的に言うと、魔力総量が少ないって意味。しかもこんなはっきりした緑なんて見た事ないわ。あんたどんだけ魔力総量が低いのよ」
そんなこと言われたって、俺には分からない。
しゃーない。
俺には魔術とは縁がなかったってことだ。
男のロマンが……。
後ろ向きになるな。
まだ霊術とか呪術がある。
そうだ、そっちに力を入れよう。
ヘルメットを外そうとした時
「待って!」
なんだなんだ、またなんか弱いところがあるのか?
弱いところだけ聞くのは嫌だよ。
「あんた魔力総量はとても少ないけど、魔術の威力が今現在でA級並ってどういうこと?」
へ?A級並?どういうことだ?
俺もさっぱりわからん。
「それってすごいの?」
「すごいわよ!だってあんたさっき魔術使ったばっかなのに威力が化け物って……嘘みたい」
そんなに凄いのか。
なんか嬉しいな。
さっきまで雑魚キャラだった俺が少し強キャラになった気分だ。
そんじゃ世界制覇しますか、なんて言いたいが21歳はそこまで馬鹿じゃない。
そういうのには順序があるってのは知ってるさ。
でもA級ってどのくらいのレベルなんだろう。
「A級ってどんなレベルなの?」
「上から四番目。あれさっき言わなかったっけ?」
「うん、言ってない」
「そう、なら今教えてあげる。魔術には8段階のレベルがある。下からE級、D級、C級、B級、A級、S級、神帝級、皇級。それぞれの級に上がるには各種類の魔術のその級の技を取得する必要がある。あんたはA級の魔術の技ほどの威力があるって事よ」
「なら俺ってA級魔術師ってことか?」
転移早々強キャラになったとか幸せすぎるだろ。
A級魔術師ならさすがにドラゴンも倒せるに違いない。
「馬鹿なの。さっき言ったよね。A級の技を取得しないとA級魔術師を名乗れないの。あんたは威力だけA級相当ってことよ」
なんだよそれ。
じゃー速攻A級の技っていうのを習得してやるわい。
今こそ俺のポテンシャルを発揮する時だ!……ってポテンシャルなんてないか。
運動も勉強をイマイチだったしな。
「なら俺A級の魔術の技を習得するよ」
「まずD級からな。いきなりレベル高いことするなんて無理に決まっってるでしょ」
D級からかぁー…。
仕方ないか。
地道に進んで行くんだ。
そして最終的には神帝級魔術師くらいまでには行きたいなぁー。
がんばるか。
そして俺は魔術の特訓を始めた。