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3 誰だお前!!

誤字報告を下さった方々、ありがとうございます。本当に助かってます!

「婚約者」は、確実に結婚を約束された立場の者だが、「従者」はただの婿候補にすぎない。


前世の記憶を取り戻した今、今世で使われている「従者」という言葉が、前世とはかなり違った意味で使われていることがわかる。

一方、「婚約者」は、前世とほぼ同じ意味で使われているようだ。


「従者」は、学院への送迎や、デビュタント後に夜会でのパートナーを務めるなど、「婚約者」の義務とされることを仕事としてこなす。その他にも、仕えている令嬢のために様々な便宜を図る専属執事のような立場の者だ。

多くが貴族の次男以下の子息で、仕えている令嬢と結婚しない場合は、他家の令嬢と縁付くか、執事になりその家に雇われることになる。

そもそもが「婿候補」でもある貴族の子息なのだから、令嬢とは主従関係だが、それほど強い上下関係ではない。

せいぜい、従者が令嬢に対して敬語を使うくらいだ。


貴族の子女は政略結婚をしなければならないことが多い。

一度婚約してしまうと、よほどのことが無い限り相手を変えることが許されない。

なので、婚約しなければならない相手が現れる可能性を考慮して、「従者」という立場の者を用意しておく。


お嬢様はフォークナー伯爵家の跡取り娘だ。

将来は婿を取り、フォークナー伯爵家を継ぐ立場にある。

フォークナー家は爵位はベルク家と同じ伯爵だが、古くから続く名家で、豊かな農地やいくつかの鉱山、観光地を含む裕福な領地を治めている。

それこそ、王族が婿に来るのもおかしくない家だ。

だからこそ、お嬢様がどんなに望んでも、第二王子という立場の者が婚約者候補に上がっている今、俺が「婚約者」になるのは不可能だ。


腕の中ですがるような目で見上げてくるお嬢様に、できるだけ落ち着かせるように言う。


「光栄です、お嬢様。ですが、それが無理なことはおわかりですね?」


「…………あー、そうだよね。相手は第二王子だもんね…………変なこと言い出してごめんね」


「いいえ、お気になさらず。……むしろ、お慕いするお嬢様から婚約者にと望まれて嬉しかったです」


「うわあ、耳が幸せ」


耳元で囁くように言うと、お嬢様はふにゃりと気が抜けたような顔で耳を押さえた。


とりあえず、お嬢様が落ち着いたようで良かった。

そのまま馬車の中で雑談を続けていると、お嬢様が急に真顔で呟いた。


「味噌田楽が食べたいな……」

「は?」

「なんか婚約者とか言ってたら、コンニャクが食べたくなってきちゃって」

「お嬢様……あなたという人は……」

「ご、ごめん」

「いえ、泣かれるより、食べたいものを強請られる方がよほど良いですから。……そうですね、今度探してみますね、コンニャク」


果たしてこちらの世界にコンニャクがあるのだろうか。

確か味噌はあったはずだが。

無ければ似た物を探すか、最悪作れば良い。

お嬢様のためなら、なんだって手に入れてみせる!


そんな決意に燃えているとき、馬車が止まった。

学院に着いたようだ。


先に馬車を降り、降りてくるお嬢様に手を差し出す。

お嬢様の足が地面に着いた後は、隣に立ち、一緒に歩きだす。


「おはようございます、エリザベス様、リチャード様」

集まってきた生徒たちから、次々と朝の挨拶の言葉がかけられる。

それに対して、お嬢様が、答える。


「おはようございます、皆様。今日もよろしくお願いいたします」


輝くような笑顔。

さっきまで馬車で泣いていたせいか、目元がほんのり赤くなっていて、それがとんでもない可愛らしさを引き出している。

周りを見回すと、皆、顔を赤くし、ぼーっとなっている。


目聡い女生徒たちが「エリザベス様、どうなさったのかしら、目元が赤くなって……」「でも、それもまた儚げで素敵……」などと小声で言っている。

そうだろう、そうだろう。お嬢様はどんな時でも、どんな姿でも可愛いのだ。

今、「珍しくちょっと髪が乱れているな、だがそれもいい」と言った男子生徒出て来い。気持ち悪い目でお嬢様を見るんじゃない!


そのまま、校舎に向かって歩き出す。

しばらくすると、向こうから誰かが走ってくるのが見えた。

その人物は、金髪に緑の瞳、すらりと背の高い若い男で、学院の制服ではなく一目で上質だとわかる白のフロックコートを着ていた。


彼は目の前で立ち止まると、息を弾ませながら言った。


「ああ、エリザベス…………やっと、やっと会えた……」



――――ちょっと待て!! 誰だお前!!


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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