感謝と愛
〇■☆◆
― ドーン ―
私の人生が壊れていく。
― ドガァ ―
また壊れる音がした、だけど声も聞こえる。
― ドガァ ―
まだ音が続いている、今度は「クズ部長」という声が聞こえた。
はっ、私が壊れていく音じゃないんだ、〈クズ〉の動きが固まり怯えているような表情をしているじゃない。
音がした方を見ると、ホテルの扉が壊されようとしている。
飛び散った木屑が、桜の花びらのように舞っているのが見えた。
― ドガガァ ―
扉の裂け目からチラッと見えたのは、〈あなた〉に間違いない、私が夫を見間違えるはずがない。
私はカッと身体が熱くなり、どこにあったのか体の奥から力が湧き出してきた、まだ唖然としている〈クズ〉の手を振り払って、すくっと立つことが出来た。
もう〈クズ〉の言いなりにはならない、ならなくても良いんだ、歓喜で胸が燃えるように熱くなる。
― ドガガァン ―
「〈町田部長〉、あなたはもう終わりよ。 私の夫が助けに来てくれたから、覚悟しなさい」
夫はやっぱり私のヒーローだったんだ、ヒロインである私が危機に陥ったら、颯爽と駆けつけて華麗に悪をやっつけてくれるんだ。
もう惚れているけど、また惚れちゃうよ、私のヒーロー様。
〈クズ〉は驚愕で固まっているのか、本来は弱虫なんだろう、声も出せずにただ震えている。
私の夫の迫力に腰を抜かしたんだ、情ない格好で座り込んでいる、哀れな男だ。
こんな弱い男に私は良いようにされていたのか、もっと強気になれば良かったんだ、動画を拡散すれば〈クズ〉にもリスクがあったはずだ、部長と言う地位を失う恐れもある。
―ドガガァン― ―ドガガァン― ―ドガガァン―
扉がベリベリと恐ろしい音を立てて、壊れていく。
〈クズ〉は恐怖のため目を見開き、「ヒィー」と情けない悲鳴を上げている、うわぁ、股間が濡れているのは、おしっこだ、汚すぎるしもう笑うしかない。
―ドガガァン― ―ドガガァン― ―ドガガァン―
夫が〈美幸〉と、私を何度も呼んでくれている。
私は「ここよ」と返事をするけど、扉を壊す音が大き過ぎて聞こえやしない。
だけど、名前を呼んでもらった私は、最上級の幸せに包まれて昇天しそう。
だって悪党にひどい事をされそうになった時に、愛している人が猛然と救いに来てくれたのよ、こんなの物語でもないわ、あまりにも出来過ぎだもの、それが現実なのよ、昇天してもおかしくないでしょう。
扉は跡形も無くなり、ぽっかりと空いた空間から、夫がゆっくりと歩いてくる。
ヒーローのご登場だ。
悪を滅ぼす主役だから、勿体ぶった演出が必要なんだと思うわ。
カッコイイ姿に私は痺れてしまうの、〈あなた〉を見詰める私は恋に焦がれているヒロインなんだ。
「あぁ、願いが〈あなた〉に届いたんだ。 私を助けに来てくれたのね」
私は〈あなた〉を待ち望んでいたのよ、私を救ってくれた勇者様なんだ。
〈あなた〉はヒロインの心からの憧憬をぶつけられて、戸惑っているのね。
でもヒーローってそう言うものよ、賞賛を素直に受け取れば、かなりの俺様だもん。
「うぅ、〈あなた〉はやっぱり私のヒーローだ。 絶体絶命のピンチから救い出してくれたんだ」
私は我慢することがもう出来ない、〈あなた〉の胸に抱かれることを欲しているの、妻でありヒロインだから許してください。
涙が止まらない、ほんの少し前は絶望していたんだ、とても怖かったんだ。
それを〈あなた〉は、小気味良く解決してくれたわ、そんなのヒーローにしか出来っこない、私を愛してくれている夫にしか出来ないことよ。
〈あなた〉と結婚して本当に良かった。
「黙っててごめんなさい。 〈クズ〉に脅されていたの」
あれだけ怖くて言えなかったことが、すんなりと声に出せたわ、〈あなた〉にこんなにも愛されていると分かったから、もう何も怖くないの。
だけどやり過ぎじゃない、ちょっと待ってよ。
〈クズ〉を滅ぼしたいのは良く分かるけど、〈あなた〉が犯罪者になるのは良くないことよ。
刑務所へ差し入れに行ってはあげるけど、すごく寒いって話よ、私はもっと〈あなた〉に抱かれたいの。
ふぅー、杵の柄が折れて本当に良かった、これがヒーロー補正ってことね。
だけど止めてよね、今倒れられたらその先に〈クズ〉のおしっこがあるのよ、それは拷問に近いことなの、〈あなた〉も理解出来るでしょう。
「きゃー、〈あなた〉許して。 あんまりよ」
私はヒロインなのに、こんな仕打ちはないわ、ユーモアよりもシリアスの方が私の好みなのに。
〈クズ〉がやっと声が出せたのか、何か喚いているけど、浴室から出て来なさいよ。
汚いおしっこが洗えないでしょう。
そう思っていたら、優しい〈あなた〉がシーツで、おしっこと鼻血をふいてくれたわ。
「本当にありがとう。 私は〈あなた〉に救われました」
最大限の感謝と愛を〈あなた〉に捧げよう、私は本当に救われたんだ、心からそう思えて最高に嬉しい。
「触ってくれたのね。 〈クズ〉に汚された箇所が、浄化されていくわ」
胸も触ってもらった、〈クズ〉に見られたけど気にしていないんだ、それが堪らなく心地いい、もっと触ってほしいな。
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この話にはもう少し続きがありますので、もうしばらくお付き合いをお願いします。
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