表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/39

土下座と補正下着

 嫌々ながらラブホテルに入ると、突然〈クズ〉が私に抱き着いてきた。

 入った直後だから、私は不意(ふい)をつかれてしまって、上手くかわすことが出来なかった。


 お尻をギュッと鷲掴(わしづか)みにされて、ハアハアと臭い息を首筋(くびすじ)へかけられている。

 私は必死で〈クズ〉の胸を押して逃れることが出来たが、寒気(おかん)が全身を(おそ)い夫に申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。


 「あぁー、どう言うつもりだ。 僕に逆らったら、ただじゃおかないぞ。 動画を(さら)されても良いのか」


 「くっ、そんなことは止めてください。 三百万円用意できますから、これで動画を消去してほしいのです。 どうかお願いします」


 「はっ、消してほしいのか。 それだったら、それが人にものを頼む態度か、()が高いんじゃないのか」


 私は両膝(りょうひざ)をつき、床に(ひたい)をこすり付けて、土下座(どげざ)で頼むしかない。

 私を卑猥(ひわい)な動画で脅迫(きょうはく)している、〈クズ〉の方に非があるのは当然だけど、私が土下座をすることで問題が解決するなら、躊躇(ちゅうちょ)する必要は無い、私の(ほこ)りなんか安いものだ。


 「お願いしたします。 動画を消してください」


 「ゲヘヘヘッ、消してほしいのなら、考えてやっても良いぞ。 ただし、言うことを聞くことが条件だ」


 〈クズ〉は私の後ろ髪(うしろがみ)を乱暴に(つか)み上げ、顔を強引に上へ向かせたが、私は痛みを(こら)えてされるがままだ。

 今は耐えるしかいない、張り付いたような笑顔を無理やり浮かべるしかすべはない。

 中腰になった〈クズ〉が私の顔をニヤニヤと見下ろしているのが、とても屈辱的だけど、私が我慢することで皆が幸せになれるのなら、何も辛いことはない。


 悪臭を(はな)唾《(つば)が、顔にかかってもだ。


 「なんだその顔は、文句でもあるのか。 相変(あいか)わらずブスだな」


 笑顔のつもりがそうは見えなかったようだ、私は痛みを(こら)えて、もっと無理やり笑っている顔を作りあげよう、〈クズ〉の機嫌を(そこ)ねる訳にはいかないんだ。


 「へへっ、文句などありません。 三百万円でどうかお願いします」


 「三百万円程度のはした金で、お前は僕の楽しみを奪うつもりか。 お前は素直に言うことを聞くしかないんだ。 そうだ、良い事を考えたぞ。 お前はこれからストリップをしろ。 それと三百万円で動画は消してやるよ。 次回次々回(じかいじじかい)のストリップの参考のためだ、また動画で撮ってやるよ。 グヘヘッ」


 くっ、三百万円を渡して動画が消えたとしても、自分で裸になる動画が残るのでは何の解決にもならない。

 それどころか、自分の意思で裸になったのだから、もっと醜悪(しゅうあく)な動画だととられてしまう。


 動画を消す約束もこんな態度では、信用する方がバカだ。


 〈クズ〉が私を(もてあそ)ぶつもりなのは分かっていたはず、三百万円は私にとっては大金だが〈クズ〉は部長職だ、それほどのお金じゃないのは想定出来たはずだ。


 追い詰められていたとしても、自分の見通しの甘さに腹が立ってしようがない。


 私は怒りに任せて手で思い切り床を押すと共に、首を大きく振り髪を掴んでいる〈クズ〉の手を振り払った、そして勢い良く立ちあがってから、〈クズ〉が私のストリップを撮ろうと取り出したスマホを奪ってやる。


 〈クズ〉は私が反撃に出るとは思って無かったようで、(すき)だらけで簡単にスマホを奪うことが出来た。

 引き千切られた私の髪がハラハラと舞っているが、そんなことに構ってはいらない。


 屈辱の痛みじゃなくて、反抗の痛みは私を鼓舞(こぶ)してくれる。


 「てめぇ、許さないぞ。 人のスマホを盗るなんて立派な犯罪だ。 泣いて許し下さいと言っても、ぶっ続けで(なぶ)ってやる。 バイブを奥まで突っ込んでやるからな、良い声で鳴けよ」


 私は〈クズ〉のスマホを手に持ったまま逃げようと、扉の方へ駆けだしたが、〈クズ〉もバカじゃ無かった、私に体当たりをかましてくる。

 体重差もあり私は吹っ飛ばされて、床をゴロゴロと転がり肩を強打したが、再度扉を目指して走るしか道はない、痛む肩のことは今は忘れるしかない。

 扉の取っ手を掴んだ瞬間に〈クズ〉の手が伸びてくる、もうちょっとだった、後三十秒あれば。


 汚い手で私の邪魔をするな。


 〈クズ〉は力任せに私の手を強く締めあげてくるけど、痛くても我慢するんだ〈美幸〉、ここが踏ん張(ふんば)りどころだ。

 私は手をブンブン振って必死に抵抗していたけど、注意していなかった、もう片方の手を掴まれてしまった。


 でもスマホは決して離さないわ、この中の動画を絶対に消したいの。


 私は両腕に力を込めて必死に(あらが)っている、だけど徐々に態勢が崩されていく。

 中年と言っても男だから、力で〈クズ〉に(かな)うはずもない、私の両手は引き延ばされて〈クズ〉の唇が私へ迫ってきた。


 「ゲヘヘッ、捕まえた。 ほら待っていたんだろう。 キスをしてやるぞ」


 くっ、私が口づけを許すのは夫だけだ、〈クズ〉になんかされてたまるか。

 私は(ねら)いを定めて男の急所である股間に、渾身(こんしん)の力で()りを放ってやった。


 私の全ての筋肉を動員した、最高のキックだったと思う。


 「おぉ、中々良い蹴りだったな。 ただ残念な事に、蹴る場所をそんなに見詰めちゃバレバレだ。 僕の股間に熱い視線を送ってくれたから、お返しに僕の熱いあそこをズボズボと()してやるよ。 まあ、その前にお仕置きだな」


 私に蹴りは無念にも、太ももを閉じて(ふせ)がれてしまった、おまけに足が挟まれて抜けない状態になっている。

 〈クズ〉は私の足を両手で掴んだため、片足でやっと立っている状態だ、それなのに〈クズ〉は足を大きく振り回してくる、私は踏ん張ることも出来ずに思い切り壁に叩き付けられてしまった。


 「ドゴォ」と大きな音がした、私はうずくまったまま動くことが出来なくなっている。

 頭が壁に強く当たり、脳震盪(のうしんとう)を起こしているんだと思う。


 「キャハハ、スマホは返して貰ったよ。 これでお前の凌辱(りょうじょく)シーンを撮れるってもんだ。 ゲハハッ」


 スマホで動画を撮りながら、〈クズ〉は動けない私の頬に「パーン」「パーン」と平手打ちを二回もする、左右の頬が痛いが私はそれを映画のワンシーンのように感じてしまう。

 まだ私の脳は麻痺(まひ)した状態なんだ。


 平手打ちは〈クズ〉なりの理由で怒っているのだろうが、〈クズ〉の論理はまるで理解出来ない。

 〈クズ〉が下手糞(へたくそ)だったから、誤って手の腹が私の鼻に当たりドクドクと血を流しているらしい感触がある、だけどまだ頭がぼーっとして濃霧(のうむ)の中へいるようで現実感がない


 私の抵抗が無い事を確かめられたためだろう、〈クズ〉が私の服をビリビリに破り始めた、手にはスマホを持って撮影しているようだ。


 「ちっ、これは補正下着じゃないか。 ブヨブヨの嫁を思い出すから()えるな。 止めてくれよ、下着もブスさん。 ゲハハッ」


 最後の頼みのナイフはどこにある、働かない頭ではハンドバックがどこにあるのか覚えていないし、とても取りに行けそうにない。

 私はスラックスも破かれて、ボディスーツだけの姿にされてしまった、それも今肩ひもに手をかけられて、私が裸にされるのは時間の問題だ。


 〈クズ〉の手と舌でいやらしいことを一杯されて、それを動画に撮られるんだ、バイブでねっちこく私のあそこが(なぶら)られるんだ、とてもじゃないが耐えられない、もう消えてなくなりたい。


 涙が(こぼ)れてしまう、私がバカだから勇気がなかったから、夫にひどい事をしてしまった。

 好き放題(もてあそ)ばれるために、私は〈クズ〉の誘いに乗ってしまったんだ、結果論だけど現実はそうなっている、〈ごめんなさい〉と謝ってももう遅いね。


 恐くても相談すれば良かった、楽しいことや辛いことも共有出来て本当の夫婦だ、それを私は自分で放棄してしまったんだ。


 「おぉ、おっぱいが片方見えたぞ。 顔は血だけだから、キスはあそこにしようかな」


 あぁ、夫だけのものなのに胸が見られてしまった、あそこも舐められてしまう。

 うっ、〈あなた〉本当にすみません、私を許してとは言いません、私の事は綺麗サッパリと忘れて、どうか他の女性と幸せになってください。


 だけど〈あなた〉に、〈クズ〉から救い出してほしいと願ってしまう、私はどうしようもないバカだ。


 「〈あなた〉、許して、私を助けて」


 「ゲハハッ、〈美幸〉もっと泣けよ。 股の間もビチョビチョの号泣ってか、グハハッ。 あの間抜けなら、今頃ボロいアパートで()でもこいているさ」


 ― ドーン ―


 私の壊れていく音が世界に響いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ