梨とハマグリ
〈クズ部長〉との不倫は、終わっていると信じてしまいそうだ。
最近会社で流れている〈クズ部長〉の噂も、それを大きく後押ししている。
もう会社は辞めてしまったが、すごい美人を〈クズ部長〉が愛人にしているって言う噂だ。
何人かが〈クズ部長〉と、そのすごい美人をバーで見かけたらしい。
〈クズ部長〉は人目もはばからず、すごい美人の肩をいやらしく抱いていたそうだ。
〈いやらしく抱いていた〉と言う証言に、ものすごい信憑性がある。
〈クズ部長〉ならそうあるべきだろう。
そうすると〈美幸〉は〈クズ部長〉に捨てられて、俺に押し付けられるようとしているのか。
〈クズ部長〉が捨てた女を、俺が拾うのかと思ってしまう。
〈美幸〉をすごい美人と比べれば、誰が見ても美人とは言えないだろう。
でも良い所モ沢山ある、料理上手だし、嫌な事も言わない、笑顔も可愛いぞ。
それと胸がかなり大きい、肌も綺麗だし、あっちの俺との相性も悪くない。
第一あんなに〈おばあちゃん〉を大切に思っているんだ、悪い人間のはずがない。
それなのに、どうして〈クズ部長〉なんかと不倫をしたんだろう、意味が分からないな。
持っている梨がすごく重いため、このまま〈美幸〉の家へ向かうことにする。
梨が重過ぎてタクシーを使ってしまったぞ、親父は一体何個入りの箱を買いやがったんだ。
〈美幸〉の〈おばあちゃん〉が、「あらま」と言って出迎えてくれたが、居間には造花の材料が溢れていた。
俺が今日寄る予定は無かったのだから、〈おばあちゃん〉は何も悪くない。
「ごめんなさい。 散らかし放題で、座ってもらう場所もないわね」
「いいえ、お構いなく。 これ梨なんですが、実家の方の名物なんです。 良かったら食べてください」
「ふふっ、重いのにご苦労様です」
〈おばあちゃん〉は俺が寄った理由を察してくれたようだ。
さすがは年の功って言うことだろう。
「疲れたでしょう。 お茶くらい淹れるわ。 私の部屋で休んでいてよ」
〈美幸〉は台所でお湯を沸かしているから、先に俺一人で部屋に入った。
真っ先に目に飛び込んで来たのは、白、ピンク、青の布だった。
嘘だと思うほどの極小の布切れだ、おっ、黒色もあるぞ。
〈美幸〉が下着を窓際に干しておいたのを、失念しているようだ。
俺はどうするべきか、今は〈美幸〉がいないんだ、目が赤くなるほど観察させて頂こう。
レースにリボン、ビーズに刺繍と、様々な装飾が活用されている。
「お待たせ。 お土産だけど、梨も剥いてきたよ」
「ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
〈美幸〉も座ろうとして、ようやく自分の下着に気がついたらしい。
ラグビー選手の様なタックルをかまして、胸に下着を抱え込もうとしているぞ。
運動は苦手な感じだけど、素早い動きが出来るんだ。
「学生の時は何か運動をやってたの」
「うーんもぉ、こんな時に。 見たでしょう」
「見たと言うより、あれだけ堂々と干してあったら、嫌でも目に入るよ」
「あぁー、忘れてちょうだい。 緊張が途切れたから、記憶も途切れたんだわ」
「まあ、終わったことは、もうどうしようもない。 それより、梨を食えよ」
「くぅーん、とっても悲しいよ」
それでも〈美幸〉はフラフラと、下着を箪笥へぶち込んで、梨を一口齧っている。
「はぁー、梨は甘いけど、人生は甘くはないのね」
「そんなに気にすることはないだろう」
「えぇー、下着よ。 干してあった下着を見られたんです。 つけてた方がまだマシよ」
俺は何だか言っても、エッチな気分になっていたのだろう、〈美幸〉の唇から零れ出ている梨の汁を拭ってあげた。
俺の舌でだ。
「あっ、そんな。 〈おばあちゃん〉に聞こえたら、どうしよう」
「声を出さなければ良いんだ」
「無理な事を言わないでよ」
「ちょっとだけだよ。 直ぐ終わるって」
「もぉ、しょうがないんだから、ちょっと待ってよ。 ワンピースを脱ぐわ」
もしかしてと思い、コンドームを持ってきてて正解だったな。
「もう良いか」
「うーん、お布団もしく」
えっと、どうしよう。
一階の〈おばあちゃん〉に出来るだけ、振動が伝わらない方が良いよな。
俺と〈美幸〉は押し入れから、マットレスと敷布団を慌てて出して敷いた。
〈美幸〉の匂いが立ち昇り、濃厚に俺の鼻をくすぐってくる。
俺はもう充分我慢したんだ。
〈美幸〉の下着を少し乱暴気味に、剥ぎ取ってまず最初にキスをする。
「んんう、そんなに慌てないでよ。 私は逃げたりしないんだから、ね」
〈美幸〉はそう言って俺の首に手を回してきた、慌てないでもっとキスをしろってことだろう。
俺はその後も、やっぱり少し慌てて、胸やお尻を揉んだ。
電車の中でお尻をずっと触っていたせいか、〈美幸〉は直ぐに準備が整った感じだ。
始めは正面で、少しついてから背後へ回った、でも、〈美幸〉は背後からではダメだと言ってくる。
「はぁん、声が出ちゃうから、唇で口を塞いでよ」
そう言うことなら、致し方あるまい、最後はキスをしながら胸も揉んで俺は頑張った。
きっと〈美幸〉も俺の頑張りを認めてくれたはずだ、両足で俺をガッチリとホールドしたのがその証拠だと思いたい。
しばらく俺は〈美幸〉の胸を軽く揉みながら、微睡んでいたのだが、〈美幸〉の〈おばあちゃん〉に「ご飯ですよ」と呼ばれて、ハッと我に返った。
「うわぁ、大変。 もうこんな時間だわ」
〈美幸〉も慌てているんだろう、パンツを履くときにスッ転んで、俺に御開帳していたぞ。
「くすん、また変なところを見られた」
「もう、今さらじゃないか。 気にするなよ」
「もぉ、そう言う問題じゃないんです」
俺と〈美幸〉は何とか着替え終わり一階へ降りていったが、「うふふふっ」と意味深に笑う〈おばあちゃん〉を、直視出来なかったのは当然のことだろう。
テラテラにバターが効いた、大粒のハマグリの醤油焼が美味しかったが、〈美幸〉は小振りだと思う。
ご馳走様とお礼を言って、夜も遅いしやることはやったし、俺はアパートへ帰ろう。
〈美幸〉は路地の先まで、また俺を送ってくれる。
手も繋いでだ。
夕食前の余韻が、まだ冷めていないだろう。
「もぉ、ちゃんと拭かなったのね。 〈あなた〉の口の周りが、バターで光っているわ」
〈美幸〉は何を思ったのか、俺の口の周りについているバターの汚れを、舌で舐めて拭ってくれた。
そうされると俺は、〈美幸〉のハマグリ味の唾液を、舌で舐めとらざるを得ない。
それはそうだろう、そうするのが礼儀だと、俺は何本かのAVで学習をさせて貰った覚えがある。
〈美幸〉は少しピクンとしたけど、俺に体を預けてハマグリの匂いがする吐息を、切なげに吐き出しているじゃないか。
学習の効果はバッチリだ。
しばらく〈美幸〉と深いキスを交わした後、ふと見れば、街灯のガラスの覆に虹色が煌めいていたな。
古ぼけた街灯の下で俺へ手を振る〈美幸〉は、どうしてあんなに、小さくて儚げに見えるのだろう。
別れる時に、濃厚過ぎることはやっちゃいけないと、俺はまた学習したよ。




