汚物と幸せ
二着目はどうかな。
「可愛いぞ。 これも良いな」
ふふ、可愛いか、嬉しくなるよ。
「こっちの方が良いの」
「いや、どっちでも良いんじゃないか。 好きな方にしなよ」
はぁー、何を言っているの、私はかなりイラついてしまう。
私の好きな方じゃ意味が無いのよ、〈あなた〉のご両親に会いにいくのだから、どちらが気にいって貰えるかを聞いているんだ、それを理解していないの。
嫌になるわ。
ため息がでちゃう。
「動画を撮って」
《《〈動画〉を、〈動画〉で、〈動画〉に、いやー》》
私の裸が動画に撮られた。
《《撮っている、撮られている、撮らないでー》》
無理やり唇をこじ開けられて、私はドクドクと汚物を注がれてしまった。
苦しいのに息が出来ない、悲鳴をあげることさえ許されない。
目の前にドス黒い液体が垂れてくる。
視界が塗り込まれ漆黒に染まっていく。
私の全身を覆いつくす、絶望的な汚物だ、それにクズの目と手が無数に浮いている、腐りかけの舌もある。
足元にもドス黒い液体が纏わりついて、私は地の底へ沈んでいく。
裸の私は、クズに舐めるように見られている、クズの手で執拗にこねくり回されている。
舐めないで。
見ないで。
触らないで。
あぁぁぁぁ、私の体の奥がクズのもので串刺しにされ、私の奥の奥が声にならない悲鳴をあげながら壊れていく。
クズの目と手は、数え切れないほどドス黒い液体にブカブカと沈みながら、私をブスだと笑いながらも、決して私を離そうとはしてくれない。
私はドス黒い液体をピチャピチャと音を立てて、苦し紛れに吸い込んでしまう。
苦しいよ、悲しいよ、辛いよ、誰か助けて。
私をここから出して、お願い。
永遠に続く地獄から、私は抜け出せはしない。
クズの恥辱と侮蔑に満ちた責め苦は、永久に私を解放してくれない。
んんう、また私のお尻を触ろうとしている。
あん、感じてしまう。
嫌だ。
クズには感じたくない。
うぅ、それだけは許してよ。
でも感じてしまう、はぁん、気持ちが良くなっていく。
こんなの嫌だよ、彼にしか感じたくない。
《《はっ、この手はクズじゃない》》
彼を感じ取った私は、ドス黒い液体の底から現実世界へ、光の速さで浮上した。
まるで萎んでいた風船が膨らんで、一直線に水面へ飛び出したようにだ。
全ての望みを失っていた私に、彼が救いの手を差し伸べて、希望の光を吹き込んでくれたんだ。
私の前には、心配そうな彼の顔があるじゃないの、優しく私を撫ぜてくれているわ。
私には彼がいる。
この前、私を触った手だ。
クズとは全く違う。
《《「ちがうー」》》
私の心の叫びだ。
ドス黒くない、光輝いているんだ。
私を覆っているドス黒い液体が、彼の手で駆逐されていく。
「もっと泣けば良いよ」
あっ、彼の声だ。
「もっと声を出して泣いたら良いよ」
彼が私の体を触って、クズの目と手と舌を、拭ってくれているんだ。
嬉しいよ、助けてくれたんだ、私を守ってくれているんだ。
私は歓喜に震えて、大声で泣いてしまう。
幸せに私はなるんだ。
でも彼の手が足りていない、クズは私を裸にして見て触ったんだ。
彼の手は私のお尻の手前で止まっている、それは彼が私を大切に思ってくれている証拠だ、けど私はすっごく不満だ。
もっと私を触ってほしい、クズの目と手と舌を、直接肌に触れて拭い去ってほしいんだ。
おぞましい記憶から私を救い出して、気持ちが良い記憶を、〈あなた〉の手で私の体に刷り込んでほしい。
「お尻も触って」
私は彼にこうお願いをして、何の迷いも無く全ての服を脱いだ。
恥ずかしさは何も無かった、少しでも早く彼に裸の私を触って欲しかったんだ。
「お願い。 お尻も胸もあの部分も、私の体の全てを〈あなた〉に触ってほしいの」
あの部分は少し抵抗があったけど、そこにもクズの痕跡が残っているのだから、触ってもらわない選択肢は私にはない。
「ふぁ、感じるよ。 〈あなた〉の手を感じるの」
触ってくれたのは、とても嬉しいんだけど、困ったことにもなってしまう。
私の体が反応し過ぎるんだ。
「んんう、〈あなた〉の手はどうしてこんなにも熱いの。 私は溶けて変わってしまうわ」
本当に溶けてしまいそうよ。
こんなことになるなんて、私は彼に思いを伝えることが止められない、彼に知ってほしかったの。
「はぁぁぁ、〈あなた〉の手の、指の感触を私にきつく覚えさせてよ。 決して忘れないように私へ刻み込んでほしい」
もう止められないわ。
こんなにも私は彼に感じてしまうのね。
こんなにされたら、私はもう〈あなた〉から絶対に離れることが出来ないよ。
〈あなた〉の服も脱がして、裸にしたいと思ってしまう。
裸になった〈あなた〉に抱きしめてもらって、素肌を直接感じたいの。
でも私は女だ、それはやり過ぎだと本能がブレーキをかける。
彼の服のボタンに伸ばした手を止めてくれた。
恋愛の手段として、まだそれはやっちゃいけない、今はもう少し猫を被っていなさいと。
でも切ないな。
彼に最後までしてほしい。
もどかしいよ、私のあの部分がすごい事になっているのは、触っているから知っているでしょう。
もうダメだ、これ以上されたら、自分から求めてしまう。
「あぁん、もう充分だから、触らないでよ。 もうしっかり覚えましたから、止めてね」
「んんう、もうダメなの。 これ以上は許してよ」
私は体に灯った情欲に耐えているけど、とっても幸せでもある。
私の体は、クズから受けた仕打ちをほぼ忘れて、彼の手が与えてくれた快感に震えている。
もし結婚出来れば、もっと深くこの快感がずっと続いてくれるはずだ。
快感に耐えているのに、彼が口づけをしてきた、私が抵抗出来るはずもない。
口づけをされたら、もう、私は耐えられない、ギリギリだったんだ。
「したいですか」
私は彼に問いかけてしまった。
〈したい〉と言わなかったのは、私なりの最後の抵抗だ。
彼の要求を優先する彼女と、欲望を満たしてあげる彼女を、演じてみたんだ。
私だって、少しは恋の駆け引きが出来るんだよ。
でも彼は私を抱かなかった。
私の体は不満だと言っているが、私の心は大満足している。
私はクズにされたことを鮮明に思い出して、すごく取り乱していたはずだ。
それを見ていた彼が、平気で私を抱いたら、かなり幻滅していたかも知れない。
彼を試すようなことをしてしまったけど、その結果はとても嬉しいものだ。
思わず笑ってしまうほど、幸せな気分になってしまう。
彼が変な例えを言うから、私はさらに笑ってしまった。
ついさっきまで、クズのことを思い出して最低最悪な気持ちになっていたのに、こんな短時間で私を笑わせるなんて、この人はやっぱり私の〈ヒーロー〉だと強く感じてしまう。
私が裸なのをからかってきたから、「見るな」「バカ」と言ったのは、単なる照れ隠しだよ。
予定調和の返しでもあるけど。
〈あなた〉は「バカ」じゃない〈ヒーロー〉だよ、私の裸を見たいならいつでも言ってよ、〈あなた〉だけには見せてあげる、もちろん触っても良いんだよ。
私が服を着る間は、私は何も言ってもいないのに、彼は後ろを向いて見ないようにしてくれた。
彼の背中に〈見ても良いのよ〉と言いそうになったから、自分でも本当に困ったもんだと思う。
私は手段を選ばずに、彼を繋ぎ止めようとしているんだ。
彼は私が着替え終わるのを待って、私が取り乱したことを聞いてきた。
彼は真剣な表情で聞いてくれたけれど、私は「過去の嫌な事を思い出してしまったの」とちょっと素っ気ない事しか返すことが出来ない。
私は前後の記憶が飛ぶほど錯乱していたんだ、とてもじゃないがこの答えで、彼の納得を得られないのは私も分かっている。
でも彼はそれ以上、詳しく聞こうとはしなかった。
私のことを気遣い、傷を抉るようなまねはしないんだね。
優しくされて涙が出そうなってしまう、今は言えないけど、もう少しだけ待って。
必ずクズにされたことを〈あなた〉に告白するわ。
それで嫌われたらどうしよう、そう思うと、まだ私の勇気が足りないんだ。
でも私は強くなって見せるわ。
〈あなた〉がそばで、見守ってくれたなら、百人力だもの。




