理由と部屋
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まただ。
クズからまた、反吐を吐きそうなメッセージが届いた。
「今度の日曜日に、一日かけてじっくりと抱いてやるよ。 今度は汚らしい下着じゃなくて、スケベな下着をつけてこい。 そうじゃないと分かっているだろうな。 覚悟しろよ」
くっ、一日中私を嬲るつもりなんだ。
そんなことをされたら、私は壊れるしかない、それにもう彼に顔向け出来なくなる。
彼に申し訳なくて、別れる選択肢しか無くなってしまうよ。
そんなの絶対に嫌だ。
何でも良いから断る由を探さなくては、だけど二回目だから、もっと強力な理由が必要だ。
だけど強力な理由ってなんだろう。
そんなの思いつかない、あぁ、どうしよう、〈美幸〉諦めないで必死に考えるのよ。
備品倉庫で彼が甘い口づけをしてくれた。
一時的だけど、私はクズのメッセージを忘れて幸せを感じてしまう。
ずっとこの幸せが続けば良いのにな。
私はこの人と一生添い遂げたいと願った。
「〈あなた〉と私は付き合っているんですからね。 彼女だとちゃんと紹介してほしいんです」
私は甘えた声で、彼に家族に紹介してほしいとおねだりをした。
考え抜いて出した言葉じゃない、自然に私の口から零れ出ていたんだ。
言葉が零れた瞬間、彼に断られたらどうしようと、私は断頭台にかけられている気持ちで、とても怖くなる。
まだ数回しか会ったことがないのに、家族に紹介しろとは、早過ぎるとは私も分かっているんだ。
祈るような気持ちで彼の返事を待っていた、そしてその答えは、私を幸せにするものだった。
彼は家族を私に紹介しても良いと言ってくれたんだ。
後はクズだ。
私はまた祈るような気持ちで、またメッセージを送った。
神様すみません、何回も祈って申し訳ないのですが、どうかお助けください。
「日曜日に彼の実家へ行き、ご両親にご挨拶をする予定が既に入っています」
「はぁ、いい加減にしろよ。 僕の言う通りにすれば良いんだ。 日曜はおまえを徹底的に調教してやるよ」
くっ、予定があると言っているのに、しつこいケダモノめが。
「前から決まっていた日取りを、緊急でもない私の都合でドタキャンすれば、きっと破談になるでしょう。 私には結婚する意志が無いととられるでしょう」
「うーん、どうしたものか。 おまえは死んだマグロだからな、結婚して少しは体を開発された後の方が良いかもしれんな。 だけど《みすず》の都合が悪かったら、おまえで我慢するしかないな」
《みすず》さんと言う人の都合が悪く無かったようで、クズからのメッセージはもう届かなかった。
重い鉄の鎖から解放された感じで、体が軽くなって飛び立てるほど、私は嬉しくなってしまう。
クズに嬲れなくて済むし、彼の実家へ行けるんだ、これで私は公認の彼女ってことかな、えへへっ。
私は調子に乗って、私の事を一杯彼へ送信したんだ。
ご両親に紹介された時に、彼が私の事を良く知らなかったら、困ってしまうでしょう。
付き合っているのに、相手の事を何にも知らないなんて、本当の彼女じゃないと思うな。
逆に私が彼の事を良く知らないのは、とっても悲しい事だ。
私は彼の事を何もかも知りたいんだから、私の事を先に教えるのが、正当なルールだよね。
ううん、私の事を一杯知って、もっと深く愛してほしいんだ。
私は浮かれていますけど、それがいけないんですか。
浮かれついでに、私は彼に自分の部屋に来てもらうことにした。
私は彼の部屋へ行ったのだから、今度は私の番だと思うのと同時に、普段の暮らしも少しは知ってもらいたい。
彼に部屋を見せるのはかなり恥ずかしいことだ、私の本質を見せることにも繋がる、私はこの部屋で人生の大半を過ごしていからね。
私の辛い事と夢と希望と後悔が、ギュッと詰まっている場所なんだ。
彼が家にやってきたから、私は少し緊張している。
子供の時を含めて男の人を、私の部屋に招き入れるのは、今が初めてなんだ。
朝早く起きて徹底的にお掃除をして、消臭スプレーをこれでもかと、噴射したからきっと大丈夫。
〈おばあちゃん〉の花も、スッキリするように飾り直した、彼はこの花達をどう思ってくれるかな、少し不安がよぎってしまう。
玄関に入った彼を捕まえて、〈おばあちゃん〉が余計な事を言っている。
〈おばあちゃん〉が私を心配してくれるのは、ありがたいことだけど、彼の前で笑うなんてひどいよ。
〈おばあちゃん〉は自分の事じゃないので、ちょっと楽しんでいるんじゃないのかな、私はド真剣なんだよ。
はぁー、彼が私の部屋に入ってきたよ、ドキドキしちゃう。
あんまりジロジロ見ないで、古くってみすぼらしいから、胸がキューとなっちゃう。
「この羊羹十本入りと、そのクッキーの丸缶はどっちが良いと思う」
私は緊張に負けないで、果敢に彼へ話しかけることが出来た。
私は良く頑張っていると思うな、褒めてほしいよ。
「どっちでも良いよ。 むしろ無くても良いくらいだ」
それなのに、この返事はないわ。
「もぉー、ちょっとは真剣に考えてよ」
私がむくれるのは当然だと考えます。
手土産は私の想定どおり羊羹に決まったから、まあ、良いか。
少し彼と話しをしただけで、緊張がかなり解れてきたのは、彼女だから当然なんだろう。
私達はもう男と女の関係になっているもの。
彼が〈おばあちゃん〉の花を褒めてくれたのが、すごく嬉しい、顔を見ればお世辞じゃないのが分かる。
自分が褒められるよりも嬉しいな、私の緊張はどこかへ吹き飛んで、後は浮かれることしか出来ないよ。
次はいよいよ、着ていく服だ。
気合を入れ過ぎて二着も買ってしまったが、彼に選んで貰うんだから、大切なお金だけど全然惜しくはない。
着る機会はこれから、いくらでもあるでしょう。
まずは花柄からいこうか。
ふふっ、彼はどう言ってくれるかな、私はそう思って彼の方を見た。
んー、彼がいるな、私は服を脱いでいるね。
おかしいな。
「あっ」
普段どおりここで着替えてはいけないんだ、まだ私は奥さんじゃないんだ。
「うわ、俺に下着まで選ばせるつもりなのか」
そんなに驚かないでよ、好みは気になるけど。
「違うよ。 普段の調子で脱ぎかけただけだよ。 下着を選んで貰うのはまだ早い」
あぁ、余計な事を言ってしまった。
これじゃ私が彼の選んだ下着で、抱かれるのを待っているみたいじゃないの、〈おばあちゃん〉は出かけているから、家には彼と私の二人しかいないのに。
恥ずかしくて顔が熱くなる。
「この服はどうかな」
気を取り直して何でもない感じで、サラッと聞いてみる。
「すごく綺麗だよ。 それで良いんじゃないか」
あっ、五秒くらいで言ったよ。
綺麗と言われて気分は悪くはないけれど、ちゃんと見てくれていない。
私の熱気に比べて、おざなり過ぎるよ。
「言うのが早すぎるよ。 もっと良く見てほしいな」
私は彼に文句を言ってしまう、〈あなた〉のために買った服なんだよ。
「胸を見ている。 いやらしいな」
それなのに私の胸を見ている、エッチなことを考えているんだ。
さっき脱ぎかけて、下着をチラッと見せたのが失敗だったな。
私と二人切りでいるんだから、そんな気分になるのは、しょうがないとは思う。
何も思われなかったら、その方が良くない気がする、私の魅力に大きな疑問符がついたことになってしまう。
ふふっ、見たければ見ればいいでしょう、私は彼女なんだから、それほど遠慮はいらないわ。




