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涙と手

 「もっと声を出して泣いたら良いよ」


 俺は〈美幸〉にそう声をかけて、頭からお尻の手前まで、ゆっくりとさすっている。

 俺の手は、〈おばあちゃん〉に比べて、温かくもないし優しくもないけど、何もしないよりはマシだろう。


 〈美幸〉は「えぐっ」「えぐっ」と俺の胸に顔を埋めて、大きな声で泣いている。

 涙がポロポロと(こぼ)れて、(ほほ)も唇も(あご)も濡らしていく。


 俺はその涙を(ぬぐ)ったりはしない、流れ落ちるこの液体には、少しだけ真っ黒の塊を溶かす効果があるはずだから。


 俺は「助けるよ」「守るよ」と言った。

 一度はこの手で抱いた女がボロボロになっているんだ、見捨てられるほど俺は悪人にはなれない。


 俺に助けを求めている女を捨てたのがバレても、天国にいる〈おばあちゃん〉は決して怒ったりはしないが、それはそれはひどく悲しむだろう。

 そんな顔をした〈おばあちゃん〉を見るくらいなら、俺は地獄に落ちた方がまだマシだ。


 それほど恩知らずなことはない。


 〈美幸〉が俺の腕の中で少し身じろぎをした、もう声をあげて泣いてはいない。

 ゴソゴソとし出して、涙の流れる量が少なくなってきている。


 「もっと泣いたら良いんだよ」


 「お尻も触って」


 〈美幸〉は着ていたワンピースを脱いで、スリップも下着も全部脱いでいく。


 俺は「えっ」と声をあげてしまったが、こんなのしょうがないだろう、どうして今裸になるんだ。

 いきなりエッチな気分になったのか、体はさすってはいたけど。


 ただ〈美幸〉の顔はそんな感じじゃない、涙で濡れた顔で(すが)るように俺を見ている。

 死病に犯された病人が、医者に向けるような目だと思った。


 「お願い。 お尻も胸もあの部分も、私の体の全てを〈あなた〉に触ってほしいの」


 俺は〈美幸〉があまりにも真剣だから、恐る恐るお尻へ手を伸ばした。


 「ふぁ、感じるよ。 〈あなた〉の手を感じるの」


 触れと言われたけど、それはどうかと考え、胸を出来るだけ優しくさすった。

 動作にほとんど差はないけど、俺の意識の問題だ。


 「んんう、〈あなた〉の手はどうしてこんなにも熱いの。 私は溶けて変わってしまうわ」


 そう言う〈美幸〉の方が、よっぽど熱いと思いながら、局部もさすることにした。


 「はぁぁぁ、〈あなた〉の手の、指の感触を私にきつく覚えさせてよ。 決して忘れないように私へ刻み込んでほしいの」


 どうしてこうなったんだろう、〈美幸〉の体をさするのは嫌じゃないんだ。

 裸になっている彼女の体をさするのは、むしろご褒美(ほうび)だと言えない事もない。


 俺は〈美幸〉お尻や胸や色んな部分をさすりながら、ただただ不思議な気分になってしまう。

 天国にいる〈おばあちゃん〉も、困惑(こんわく)しているだろう。

 ただ〈おばあちゃん〉も女性だから、俺よりは〈美幸〉の気持ちが分かる可能性があると思う。

 ただ〈おばあちゃん〉には余計な事を考えずに、〈たださすれば良いのよ〉と言われそうだ。

 女性の気持ちを俺は()み取る事が出来ない、付き合えば付き合うほど、〈美幸〉の真意が分からなくなるな。


 〈美幸〉の体の動きが段々激しくなり、息がかなり荒くなってきた。


 「あぁん、充分だから、もう触らないでよ。 もうしっかり覚えましたから、止めてね」


 「もう良いの。 もっとさすってやるよ」


 「んんう、もうダメなの。 これ以上は許してよ」


 〈美幸〉はおかしくなった最初と同じように、また体を丸めて俺の手から胸や他の部分を守っている。


 触れとか止めろとか勝手な事を言うなと思ったから、俺は少しムッとして、俺の勝手でキスをしてやった。

 それも唇を割った深いキスだ。

 少しエッチな気分にもなっていたし、〈美幸〉が元に戻り安心したんだと思う。


 〈美幸〉は少しだけ抵抗したけど、直ぐに俺の背中へ手を回してきたから、〈美幸〉もしたかったんだと思う。

 最後の方はエッチな感じになったけど、最初の方は普通じゃなかったので、もちろん〈美幸〉を抱く気はなかった。


 だけど〈美幸〉は「したいですか」と聞いてきた。

 俺は「〈美幸〉が辛いことを思い出したのに、今はしないよ」と答えておいた、それはそうだろう。


 「ふふっ、〈あなた〉で良かった。 私は幸せです」


 「泣いた赤鬼がもう笑った」


 「えぇー、違いますよ。 それを言うなら、〈泣いたカラスがもう笑った〉でしょう。 それ以上に私を赤鬼に例えるなんて、どういう意味ですか。 絶対に許せません」


 「あははっ、それは赤くて可愛いってことだよ」


 「はぁ、可愛いって言葉だけで、私は騙されません」


 「ふふふ、服よりも、よほど裸を俺に見せたいんだな」


 「あああ、こっちを見るな。 バカ。 もう知らない」


 結局俺の実家に着ていく服は、最初のヤツになった。

 二着目は変な脱ぎ方をしたので、(しわ)くちゃになってしまったんだ、でも俺は悪くない。


 後で〈美幸〉にどうしてああなったんだと聞いたら、「過去の嫌な事を思い出してしまったの」と言っていた。


 当然これ以上の詳しい事は聞けない、また思い出してしまうからな。

 本人が嫌だった事を誰かに打ち明けて、何かで昇華しょうか出来る未来が来ることを祈ろう。

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