自転車とカップラーメン
〈美幸〉は準備が少しあると言うので、俺のアパートの最寄り駅で7時に待ち合わせをすることになった。
俺はいつもより早く退勤して、ドラックストアで必要になるだろう物を、ひと箱買うことが出来て、ホッと一安心だ。
クールなパッケージに決めたぜ。
部屋を掃除するって言ってたから、部屋に軽く掃除機をかけて、自転車で駅に向かう。
家賃を節約するためだが、俺のアパートは最寄り駅から、自転車でも15分はかかる距離だ。
バスの路線も通って無くて、築年数も三十年以上経過しているから、そこそこの広さがある割に格安となっている。
エレベーターが設置されていないのに、部屋が五階であることも影響しているだろう。
「うふふ、来ちゃいました」
何がそんなに嬉しいんだ。
男のアパートへ、夜に来るって言う意味が分かっているのか。
あっ、忘れていたぞ。
色仕掛けが成功しそうだから、嬉しいのか。
「アパートまで遠いから、二人乗りで行こう」
改めて見ると〈美幸〉は、家で着替えてきたんだろう、フレアの黒いミニスカートを履いているぞ。
煌々とした照明に照らされた足に、ツルツルとした光沢があって、やけに艶めかしい。
でも困ったな、これで自転車に乗るのは厳しいな、跨いだら下着が見えてしまう。
「えっ、自転車に乗るのですか」
〈美幸〉は自転車に乗るとは考えていなかったのだろう、無意識にスカートの裾を引っ張っているのは、どうしたものかと困っている感じだ。
「うーん、ミニスカートでは厳しいか。 しょうがない、歩いて行こうか」
「あっ、見たことがあります。 私、〈横座り〉で乗ります」
〈美幸〉はすごく良い事を思いついた感じで、ニマニマと笑いながら、自転車に横向きに座った。
落ちないためだと思うが、右手を俺の腰にギュッと回して、上半身を俺にピッタリと押し付けている。
〈美幸〉の柔らかく温かな体が、俺の期待と一部を、いやがうえにも膨らませてしまうぞ。
五階まで上がる階段はかなり急なため、〈美幸〉に下から覗かれないように、直ぐ後ろについていて欲しいとお願いされた。
〈美幸〉の白いブラウスを見ながら昇っていく訳だが、透けたブラジャーのピンク色のヒモが目について仕方がない。
フロントホックでは無いみたいだ。
「きゃー」
〈美幸〉が幅の狭い階段を踏み外して、四つん這いになって手をついている。
この体勢では、黒いミニスカートの中が見えてしまう、おっ、下もピンクだ。
「大丈夫か」
「きゃっ」
俺は〈美幸〉を抱え上げるように持ち上げて、立たせてあげた、少し胸に触れてしまったけど本当に偶然なんだ、わざとじゃ無かったんです。
「へぇー、綺麗にしているんですね。 って言うか物がほとんど無いです」
「シンプルイズベストだろう」
俺はシンプルな生活を心がけているから、テレビも無いし食器棚も洋服箪笥も持っていないんだ。
食器は最小限だし服は押し入れに収納してある。
1DKでDKは十畳もあるのだが、パソコン用の小さな机しか置いていない。
「えぇっと、…… 」
部屋にはソファーも無いからな、たぶん、どこへ座ったら良いのか聞きたいのだろう。
「そこにあるビジネスチェアに座ってくれよ。 俺はこっちの椅子に座るから」
「えぇー、それは踏み台じゃないのですか」
「その用途でも使える、〈ハイステップチェア〉って言う優れものなんだよ」
〈美幸〉はゴニョゴニョと小さな声で呟いていたけど、きっと俺の簡素な生活様式に感銘を受けたのだろう。
「あぁ、やっちゃいました。 掃除用具を忘れてしまいました」
〈美幸〉は頭を抱えてやってしまった感を出しているけど、掃除用具を電車で持ってくるのか、箒やバケツを持ってくるのは、現実的じゃないと思うな。
「まあ、気にするなよ。 まあまあ綺麗にしているだろう。 それよりも何か飲む。お茶と水のペットボトルがあるんだ」
「ありがとうございます。 お茶が良いです」
冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して、〈美幸〉に渡してあげる。
「あっ、食材が何も入っていない」
スカスカの冷蔵庫の中が見えたのだろう。
「自慢じゃないけど、食パンとコンビニ弁当とカップラーメンしか、食べたことが無いぞ」
「うぅ、それは本当に自慢になりません。 今晩の夕食をどうするつもりだったんです。 私が何か作ってあげようと思っていたのに」
「今日はカップラーメンだな。 〈美幸〉は何味が良い」
「ふぅ、私はあまり食べたことが無いのですが、何味があるのですか」
「今はあるのは、カレーに塩味だな。 あっ、チリソースもあったな」
「私は塩味にしますけど、お湯はどうやって沸かしているのですか」
「ガス台の下にヤカンがあるから、コンロで沸かしているよ」
「ヤカンはあるのですね。 お湯だけでも私が沸かします」
〈美幸〉はキッチンでゴソゴソして、お湯を沸かしてくれている。
「あっ、見つけました。 お掃除する場所がありました。 シンクがかなり汚れています」
「おぉ、そうか。 で、シンクってなに」
「説明は困難で放棄したいです。 クエン酸や重曹はないですよね」
「無いよ。 あいにく化学の実験が趣味じゃないんだ」
「ふぅ、それじゃいつもは何で洗っているのですか」
「ガス台の下に入っている、〈怖いほど落ちるさん〉だな。 かなりの優れ物だよ」
「バンジージャンプを思い起こさせる、何か嫌な名前ですね。 ありました、これメラミンスポンジです。 だけど名前に〈酸〉があるのに〈酸〉が含まれていませんよ」
うーん、固形物に酸が含まれていたら、かなり危ないんじゃないのかな。
「掃除は後で良いじゃないか。 先にカップラーメンを食べようよ」
大きなテーブルはないから、パソコン用の小さな机に、俺と〈美幸〉は肩が触れ合うほど引っ付いて、カップラーメンを啜った。
手作り弁当を食ったせいで、カップラーメンが以前より美味しく感じられない、困ったことだ。
〈美幸〉も何とも言えない顔をして食べているな。
まあ、〈猫またぎ弁当〉よりは数段マシだから、何も問題はない。
〈美幸〉は歯を磨いた後、早速シンクを掃除しだした。
シンクとは流し台のことだったんだ。
掃除用具は忘れたらしいが、〈美幸〉は歯ブラシとエプロンは持ってきている。
エプロンは、ピンク色でヒラヒラがついた可愛いものだ、下着と色とお揃いにしたのかも知れない。
歯ブラシの柄もピンク色だったから、合わせることを徹底しているな。
徹底的に掃除をするため、〈美幸〉は腰を曲げてシンクに覆い被さっているから、ミニスカートの裾からピンク色のパンツが見えてしまっている。
力を入れてゴシゴシと手でこすっているから、その動きに連動してお尻もフリフリと動くんだ。
女性の下着はパンツと言うのか分からないが、レースのヒラヒラがついた可愛いものだと分かるほど、ハッキリと見えている。
そうすると、健全な若い男である俺は、もうダメな訳ですよ。
主に自重とか我慢するっていう、紳士的でクソな概念がです。
避妊具はダースで確保してあるし、キスもしたやれそうな女の子が、一人暮らしのアパートへ来ているのですから、しない方が失礼だと言うものです。
騙されていてもやれることはやろう、〈あばあちゃん〉にバレないように離婚してクズ部長から慰謝料を盗れば良いんだ。
少し考えれば無理だと分かることも、根源的な欲望の前では塵芥化するって事です。
いずれ寝取られて離婚するにしても、設定を演じている〈美幸〉は、可愛いところがあって家庭的な娘だ、俺の好きなタイプでもある。
嘘じゃなければ良いとさえ思っているから、もう歯止めが効かないんだ。




