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神秘再生  作者: 西江月
弥生
9/20

太乙

「チン、チン、チン…」

「よし、これで今日の授業は終わりです。最後の間違いやすいポイントを忘れないようにね…」

「はい〜」


 ベルの音が響くと、教室の活気が再び戻ってきた。まだ話し足りないことを語り合いながら、群れを成して集まっていく。次は部活動か、帰宅か。

「バイバイ〜」ただ一つの背中を残し、唯一の知り合いに挨拶をして、西山明は急いで教室を飛び出した。


 教室が再び静まり返ると、空は橙色に染まり始めた。


 夕日が教室に差し込み、太一の体を包み込む。太一は窓の外の風景を眺めながら、心の中ではやはり昨日のことを考えていた。


 —————————


 柔らかな光の中で神聖な輝きを浴びるが、その中に神聖さや荘厳さは感じられない。光のゆらぎと共に、如意宝珠の中には欲界の景色が次々と映し出されていた。


 太一の眉間にある「花蕊」が一瞬明るく輝き、全身のエネルギーが急速に流れ始め、如意宝珠がもたらす影響に対抗しようとした。だが、太一はまるでそれを知らないかのように、意識がふっと消えかけ、七つの穴からは血が流れ出し、数呼吸の間に気力が尽きそうになった。


「ふん!」

 突然、大きな音が響いた。雷鳴のように、叱責のように。明王の眼が怒りを燃え上がらせ、空間に渦巻く雷霆のように、無形の巨手が太一の心臓を打ちつけた。太一は反応できず、つまずくが、逆に地獄の淵から現実に引き戻された。


 如意宝珠は太一の手から落ち、ちょうどいいタイミングで仏壷の中に戻り、蓋も自然に閉まった。その瞬間、欲楽の景色は消え去った。


 意識が戻った太一は、全身が烈火に焼かれているかのように熱く、肌は焼けるように痛み、筋肉のすべてが力を失い、まるで巨大な石に押しつぶされているかのようで、呼吸すらも贅沢な感覚だった。

 熱が引いて、供え台に手をついてなんとか立ち上がると、月はすでに高く昇っていた。


 仏壷を見ながら、太一の心には恐怖が生まれた。自分の父、名声高い「禅主」が、死後にこんな邪物を生み出したなんて。


 太一の記憶の中で、父は外で法事を終えた後に倒れたはずだ、あるいは帰ってきた時にはすでに病気だったのかもしれない。

 自分はその時、地の浮橋で遊んでいて、父がゆっくりと登ってくるのを見た。いつもの雷のような速さではなく、どちらかというと、よく法を尋ねに来る老施主のように。


 呼びかけたが反応はなく、決まった足取りで明王殿に戻っていった。


 母に慌てて伝えると、母は自分を連れて急いで主殿へ向かい、父の最後の姿を見た。

 あの暗い主殿で、座蒲の上で静かに経を唱える僧侶や、そばで涙を流す母の姿を今でも覚えている。慌てて何を言うべきか分からず、ただ泣きながら駆け寄った。


 その時、僧侶はようやく自分に気づいたかのように、優しく抱きしめてくれた。

 口を開き、慰めようとしたのか、何かを思い出したのか、母に向かって何かを言った。

 太一は何も聞こえなかった。ただ、母が涙を流しながら何かを受け入れるように見え、その後、強引に母に抱き出されてしまった。


 再び主殿の扉が開かれた時、座蒲の上には数個の舍利だけが残されていた。

 今では、普通の舍利がこんなものに変わってしまったのか、当時の自分の力が不足していたのか、あるいはこの数年の間に何かが変わってしまったのか分からなかった。

 しばらく沈黙し、ため息をついてから、ゆっくりと仏壷を元の位置に戻し、明王の怒りを仰ぎ見て再び鎮圧を願った。

 今の自分には、これを制御できる力はなかった。


 —————————


「タッタッタ」

 突然の足音が太一を現実に引き戻した。

 この時間にまだ教室に人がいることに驚いたのか、彼の眉が少し上がった。


 残りの夕日を踏みしめて、彼女はまるで美しい彫刻のように、髪が頬にかかり、鋭い気配を漂わせている。

 細身の体型だが、彼女の存在感は薄れていなかった。


 逆光の中を歩いてきた彼女は、太一の前で立ち止まり、印象に残る顔ではなかった。


「望さん?」


「東雲さん、初めまして。こんなに遅くまで教室にいるのはどうしたの?」


「こんにちは、望さん。こんなところで会うとは思わなかった。今日はアルバイトがあるので、学校に残っていたんです。」


 望月影は髪をかき上げ、対面に座った。「卒業生が多すぎて、新入生はまだ入っていないし、しかも新学期が始まったばかりで、処理しなければならない事務が多いんです。」


「へえ〜、忙しすぎて授業をサボれるなんて、いいの?」


「授業をサボることはできても、勉強を怠ることはできませんよ。」

「東雲さんは学生会に入らないのですか?学生会の補助金は一般的なアルバイトの報酬を超えますよ。」


「ええ、私は遠慮しておきます。能力のある皆さんに任せておきます。」


「え、東雲さんがとても有能だと思います。」

「転校生として、まだ知らないかもしれませんが、留年を防ぐためには十分な単位が必要なんです。基礎科目に加えて、少なくとも一つの選択科目か部活に参加して成果を上げないといけません。私の知る限り、留年を免れた生徒も多面的な努力をしていますよ。」


 太一はその話を今まで聞いたことがなかった。

「教えてくれてありがとう。考えてみます。」

「ごめんなさい、もう時間が来たので行かなくちゃ。」


 望月影は微笑み、深く追及しなかった。「それでは、気をつけて、怪我しないでね。」


 その鋭い眼差しに迎えられ、太一は彼女に見透かされたような気がした。

 軽く頭を下げて感謝の意を示し、急いで教室を出て行った。


 望月影の視線は移動することはなかった。まるで壁越しに太一を見つめ続けているかのようだった。しばらくしてようやく視線を戻し、何か面白いことを思い出したのか、柔らかい笑みを浮かべた。


 —————————


 複雑な心情を整理した後、電車はようやく目的地に到着した。

 ホームに足を踏み入れる前に、周囲の乗客から漂ってくる独特の匂いが、他の地域とは異なることに気付いた。

 同じ人々がこの歓楽街を作り上げたのか、それともこの歓楽街が同じ人々を引き寄せているのか。


 ホームを出ると、騒々しい声が四方八方から聞こえてくる。

 ネオンが瞬き、欲望が波のように押し寄せる。まさに、眠らない歌と舞の街である。


 路端で客引きをしている店員を避け、不快な誘いを断りながら、雑踏を進む。

 いつの間にか、純粋で未熟な学生の姿は視界の隅に消え去っていた。


 ···


「ここに来れば面白い人にたくさん出会えるよ!」店員の声には熱意と誘惑がこもっている。

「特別なエンターテイメントがあって、絶対に楽しめるよ!」


「お、あそこに新しい顔がいる、ちょっと掘り出し物を見つけられるかも!」と、客引きをしていた店員が目を輝かせ、そばの仲間に声をかけようとした。


「馬鹿!」気が付いた先輩が足を強く蹴り、急いで後輩を引き寄せて道を開けた。


 黒いスーツを着た男が二人をちらりと見て、歩みを進めた。

 その足取りに合わせて、さっきまで騒がしかった街が一瞬にして静まり返った。

 彼の姿が見えなくなると、雑音が再び戻ってきた。


「前、前輩。」喉を潤して言った。「彼、すごい人なのか?」


 この街で先輩として混ぜてもらっているとはいえ、無数に見てきたこの光景でも、この男の前では、まだ出たての新人のままだ。

 何度経験しても、この圧迫感は彼の心拍数を早めさせ、どうしようもなくさせる。

「狮子堂の番犬、いや、凶狮!」


「狮子堂太乙だ!」


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