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神秘再生  作者: 西江月
弥生
4/20

怒りに燃え盛る

 驚く間もなく、いや、驚く余力すら残っていない。そもそも、何に驚けばいいのかさえ分からない。


 三度目の鐘の一撃で、太一の体力はほぼ尽きかけていた。再び目の前がくらくらと揺れ始める。


 撞木に寄りかかり、なんとか体を支え、息を整える。太一はその合間に、千足人面蜘蛛の様子を観察した。


 裂け女は確かに恐ろしい姿になっているが、よく見れば、その鋏角はすでに自分で壊してしまい、二本の毒牙も破壊されている。


 今追撃しなくて、いつするんだ?


「ようやく第二段階に入ったか。しかも、一つ体力を回復してくれたとはな。」


 深く息を吸い込んだ。体はすでに限界に達していると知りつつも、太一は再び手を上げ、鐘を打ち鳴らそうとした。


「やめなさい。」


 冷たく澄んだ声が響き、太一を制止した。


「よくやった。」その声は怪我を止めたようで、もはや太一の目には透明な霞のようなものが漂う様子は見えなかった。


「『三毒』をお前が鳴らした。それだけで私の予想を超えている。奴をここまで追い詰め、原形を引き出したのが限界だ。正しい方法で鐘を使わなければ、お前が撞木に打たれて死んでも、それ以上の効果は期待できない。」


「次は、ただ首を落とせばいいだけだ!」


 太一は呆れた。まるで全ての問題が一言で片付くかのようだ。


 太一の思考を感じ取ったかのように、少女は彼を睨みつけ、衣が風に舞った。


「シュッ!」


 一瞬、視界に黒い影が飛んできた。


「痛っ!」


 太一が痛みに手を伸ばす間もなく、長細い物が腕に落ちてきた。


 一本の脇差だった!


 柄は紫金色の糸で巻かれており、気品あふれる雰囲気を漂わせていた。


 朱鷺色の鞘からはほのかに香木の香りが漂い、細かく刻まれた紋章は損傷していたが、かろうじて「斗鬼」の文字が浮かび上がっていた。


 刀の長さは一尺、幅は二指ほど。刀を引き抜くと、荘厳な雰囲気が広がり、その瞬間、音すら止まったようだった。


 刀身が何の金属で鍛えられているのかは分からなかったが、予想外に黒く、刃はついていないが、なおも鋭い輝きを放っていた。


 冷たい光が刀身を這い、うっすらと人影が浮かび上がるのが見えた。


 太一がじっくりと観察する間もなく、頭の中に声が響いた。


「いつまで遊んでいるんだ?」


 怒りを含んだ声だった。


「ごめん、ごめん…」太一は乾いた笑いを漏らし、そして——


 抜刀!


 …………


 剣を手にした瞬間、太一の体は再び活気を取り戻した。尽きかけた体力が再び沸き上がるような感覚に包まれた。


 眉間がますます熱くなり、まるでそこにもう一つの心臓が鼓動しているかのようだった。


 体はますます軽くなり、頭は冴え渡っていた。


 相手が動き出す前に、太一が先に行動を起こした。


 一瞬で加速し、人面蜘蛛の前に飛び込む。


 左手で鞘を横に構え、盾として、同時に回避の壁となる。


 右手で刀を反手に持ち、力を込めて円月を描いた。


 狙いは、顎下から脳へと突き刺す一撃!


「ガン!」


 煙が舞い上がり、金属音が響き渡る中、太一の体は鐘楼堂まで弾き飛ばされた。刀鞘を握る手は止まらず震えており、右腕には数十箇所の貫通した傷穴ができていた。


 人面蜘蛛の剛毛が突然伸びて、貫通を阻んだのだ。そして、すぐさま手術刀が振り下ろされ、太一は攻撃を跳ね返された。


 太一は負傷したものの、決して無駄な一撃ではなかった。


 一撃で仕留めることはできなかったが、裂け女の右顎の半分を切り落とし、半分の顔の皮膚を剥ぎ取ることに成功した。


 何よりも、重要な情報を掴んだ。


 人面蜘蛛の動きは鈍くなっており、裂け女のような俊敏さはもはやなかった。


 依然として主脳は裂け女であるにもかかわらず、以前の裂け女は自分よりも速い攻撃さえ捉え、見事にこの剣を損傷させた。


 しかし今の人面蜘蛛は、凡人である太一の攻撃すら完全に防ぐことができず、剣を振る動きも無秩序だった。


 手足が増えたものの、怒りに支配されているために協調できず、むしろそれぞれが別々に動いており、攻撃のチャンスを作り出していた。


 休む間もなく、太一は再び人面蜘蛛に向かって突進した。


 今こそ、一気にこの怪物を討つ時だ。


 …………


「ハァ...ハァ...」


 剣身にはすでに亀裂が走り、光も失われていた。


 太一は汗だくで荒い息をつき、全身が疲労で激しく震えていた。どれほどの時間、持ちこたえられるかも分からなかった。


『一つの目、一つの耳、十二本の手、数えきれない顔。もうほとんど限界だ……』


 かつて裂け女だった四肢は今や二本しか残っておらず、内臓が変化した手足も半分に切り落とされていた。左側の手足は、丸ごと削がれたか、肘だけが地面に残ってかすかに動いていた。


 元の顔はさらに醜悪な姿に変わっていた。下顎はほんの皮一枚でぶら下がり、右側の顔面は血肉の塊に成り果て、顔を斜めに走る深い傷が右目をえぐり、鼻梁を切断していた。唯一、左目だけが運よく空中に浮いているような状態だった。


 しかし、太一の状態も大差はなかった。左腰に大きな貫通傷、全身は血まみれで埃に覆われ、元から裂けていた口の傷も治ることなく、新たな無数の引っ掻き傷が加わっていた。


 どれほどの肉が、切断された腕の爪や、あの怪物たちの牙に残っているのだろう?


 どちらがより恐ろしいかと言えば、それは間違いなく千手人面蜘蛛だ。


 だが、どちらがより人間に近いかと言えば、どちらも同じくらいかもしれない。


「こんなに時間が経っても、まだあいつらは来ないか……お前を放置して死なせるつもりかもな。」


 また声が脳内に響いたが、剣身にはその姿が見えなかった。


 声の意味を考える間もなく、次の指示が下された。


「もうすぐ零時になる。そうなったら陰気が増し、私たちは死ぬしかない。私が奴を引き止める間に、お前はもっと力を引き出すことに集中しろ。」


「それで結果が出なかったら、逃げろ。ここを抜け出せるかどうかは分からないがな。」


 太一が返事をする前に、短剣が手から離れ、人の姿に戻り、再び新しい手足を生やしている人面蜘蛛に向かって飛んでいった。


 二人が再び戦い始めるのを見ながら、太一は焦りを感じつつも成す術がなかった。彼は目を閉じ、初めて本気でその力を感じ取ろうとした。


 眉間から暖かい流れが生まれ、鼓動と共に四肢と心臓へ広がっていき、体にエネルギーを与え、同時に傷を癒していった。


 太一の心は次第に落ち着きを取り戻し、まるで母親の声が耳元で囁いているように、焦りと不安を和らげていく。


 さっき鐘を打ち鳴らし、剣を振るったのも、この力が体内を巡る道筋をイメージし、それを導くことで、腕を通じて鐘や剣に伝えることができた。


 だが、それでもまだ足りない!


 たとえ体の回復を諦め、この力を全て集中させて一撃で主脳を粉砕したとして、それで本当に奴を止められるのか?


 そもそも、この力があったからこそ、あの無数の目に見られながらもかろうじて動くことができたのだ。この力を失えば、結局のところ、全てが無駄に終わるだけかもしれない。


 考えれば考えるほど、太一の焦りは増していく。もう思考を投げ出し、そのまま死闘に突入したい気分だった。


 そんな太一の焦りを感じ取ったかのように、その力は逆に穏やかになり、まるで彼を慰めているかのようだった。


 戦いの音が遠ざかり、太一の魂は体から抜け出すような感覚に包まれた。


 柔らかな風が吹き抜け、女性の囁きが聞こえた。


「……栄華も、非凡も望まない。」


 ……


「ただ、災いもなく、平穏に一生を見守れたら……」


 それは、かつて逝った母親の声だった。


「母さん……」心の奥底で何かが触れられ、太一の頬を涙が静かに伝い落ちた。眉間からは微かな光が溢れ出した。


「ガシャッ!」


 割れる音が響き、短剣が巨大な刃に打ち付けられ、地面に突き刺さった。


 太一が目を開けると、お嬢様が彼に微笑みかけ、その光が消えていくのが見えた。


「ハハハ!」不気味な笑い声が、無数の口から響き渡った。


 同時に、切断された手足の残骸から血が沸き立ち、新たな手足が次々と現れ、新しい顔がいくつも浮かび上がった。


 零時は訪れた。血の霧に包まれた怪物は、新たな獲物に目を向けた。


 しかし、太一は動じず、ただ一歩一歩、獲物に向かって歩みを進め、怪物が理解できない言葉を口にした。


「非凡を超えなければ、今を守ることはできない。」 「苦海を渡らなければ、未来を見ることもできない。」


 言い終えると、喜びに満ちた表情で呟いた。宙に浮かぶ輝く星々は急速に回転し、これまでにないほどの光を放ち始めた。


 太一は両腕を広げ、宙に浮かび、光に包まれ、まるで天から降臨した神のようだった。


 眉間から一筋の白い光が放たれ、それは怪物の体内へと射し込んだ。


 千手人面蜘蛛の体内からは業火が噴き出し、血の霧は油煙のように燃え広がった。


 まさに、


 怒りに燃え盛る。


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