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二日

僕の彼女は病院のベッドで目を覚ました。彼女は泣きながら「ごめんね…。」と謝ってきた。僕は声を出そうにも出てこない。何か栓をしているように喉でつっかえ、溜まって息ができない、涙もせき止められる。幸福感、安心感が全く湧かない。焦燥感、不安感、不快感が一気に襲ってくる。身体が動かない。抱きしめたい。逃げられてしまう。届かない。まだ行かないで。何故か分からないがそんな言葉が出てくる。伝えたい言葉は出てきても届かない。喉に溜まっていく。

「ユイカ!!」

決壊してしまった。同時に見ていた世界の終わりを迎えた。目から液化した思い出が溢れていた。彼女が好きなぬいぐるみは糸1本で顔と体が繋がっていた。僕は外に出れる身支度をして彼女の元へ向かう。

看護師に面会に来たと言ったが時間外と言われてしまった。僕は時間になるまで待ち続ける。ずっと、ずっと、ずっと…。

昼過ぎついに時間になった。何かに引っ張られるように彼女の元へと向かった。やはり何も変わってなかった。1日経てばなにか変わってるかもしれない、奇跡が起こっているかもしれない、そんな虚しい妄想は妄想に過ぎなかった。収束しきった確率なのかもしれない、何も覆らない、全ては夢物語に過ぎない。明日というものに期待したとて何も変わらない。明日は結局今日の延長線、地続きの今日に過ぎない、人間が勝手に引いた境界線だった。そんなものに期待した僕は浅はかだった。

「ごめんな…。」

かけるべき言葉が思いつかなかった。僕の語彙は海の底へと沈んで行ったようだった。何も出来なかったんだ。彼女は静かに寝ていた。そのままどこかに行ってしまいそうで怖かった。僕は寝ている彼女に今までの思い出話をしていた。一緒に話をするために起きてくれないか、そんな淡い期待を抱いて。2人で色んなところにデートに行ったこと。お家デートで2人きりの時にたくさん甘やかしてくれたこと。去年の夏に見た花火がとても綺麗だったこと。誕生日を一緒に祝ったこと。次々と色んな話が出てきた。滝のように溢れて思い出話は止まることがなかった。だけど目を覚ましてくれることは無かった。1日2日でそんなすぐに目を覚ますことはそうそう無いことをわかっていたが。

いつの間にか面会時間も終わってしまっていた。僕は帰路を辿る。さまざまな車が信号を通っていく。吐き気が込み上げてくる。動悸がする。辛い。何も出来ない。頭の中で反復する否定語。吐き気はいっそう強くなった。無理やり動かした体は悲鳴をあげていた。家に着いた途端、無気力に苛まれてそのまま体に力が入らず、倒れ込み、暗い世界へと引き込まれてしまった。その時のぬいぐるみは最後の1本の糸も切れかけていた。僕には直せるほどの力はない。そんな器用では無いから。

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