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酔える近衛、焦るルーズベルトを走らす

 フィリピン攻略から始まった太平洋戦争はしばしの準備期間を経て、1942年に入ると米太平洋艦隊も活動を開始したとの情報が寄せられるようになる。


 これに対し、海軍は既存の作戦計画に則りマリアナ海域での迎撃を主とした行動を開始するが、近衛は「まず狙われるのは帝都である。4月までにまずは帝都空襲が行われる」と主張し、その対策として横須賀に就役したばかりの大龍、翔龍の二隻を配備することを主張した。更に帝都防空強化として陸軍航空隊を中心に関東一円に部隊を集め、海軍陸攻隊の一部を哨戒任務の為に呼び寄せたりもした。

 多くの陸海軍将校は近衛の発言と行動を「臆病風に吹かれたお公家さん」と嘲笑していたが、1月17日、東北沖の哨戒線に米空母部隊らしき部隊が引っ掛かる。すでに主力艦隊がハワイを発ったとの情報がある中での発見であり、実際に近衛の予測通りに帝都奇襲を企てている事に将校たちは戦慄したという。


 報を受けてすぐに横須賀では機動部隊の出撃準備が始まり、敵艦隊捜索のために陸海軍の航空隊が荒ただしく離陸していった。

 米側は哨戒線の存在は想定内であり、奇襲が強襲になっても攻撃を作戦を完遂する事を選び前進を続けた。

 米艦隊が日本本土を艦載機の行動圏に捉えたのは翌日の事であり、日の出と共に攻撃隊の発艦を開始している。140機に上る攻撃隊を待ち受ける日本本土の部隊は多くが九七戦や九六艦戦であったため、新型機で固めた米艦載機に対して後れを取り、完全阻止は果たせず、帝都空襲を許してしまう。

 幸いにも空母部隊は出港済みであり、攻撃を回避しているが、第二波攻撃隊98機のうち30機近くが横須賀へ向かい、工廠設備や建造中であった艦艇に損害が出てしまう。

 完全に強襲となってしまった米飛行隊も40機の損害を出している。


 この時日本側は引き上げる艦載機を追跡しており、米空母の位置を捕捉し、陸攻隊や陸軍重爆隊による攻撃を敢行、逃走を妨害したうえで、大龍、翔龍による攻撃の機会を与えることに成功し、ヨークタウン級三隻で編成されていた米機動部隊の内、ヨークタウンを撃沈、ホーネットを大破。エンタープライズの飛行甲板も破壊する事に成功した。こうして無傷の完勝に沸き立つ事しばし、主力戦艦艦隊同士が会敵し、艦隊に随伴した蒼龍、飛龍所属飛行隊によってレキシントンを大破させている。

 しかし戦艦同士による砲戦が生起すると、その趨勢は逆転し、日本側は陸奥、霧島、比叡、山城が沈没してしまう。ただ、米艦隊は護衛の空母を失ったところへ来襲した陸攻隊によってなすすべなく全艦撃沈という憂き目に遭っているので、必ずしも日本側の敗北ではない。が、無事な戦艦は一隻も無く、戦艦同士の砲戦が如何に苛酷かを知らしめることになった。


 この二つの海戦によって米側は太平洋艦隊の多くを失い、開戦ひと月にして劣勢に立たされることとなった。


 ただし、日本側もすべてがうまく行った訳ではない。米太平洋艦隊の動きを察知して蒼龍、飛龍を切り離したフィリピン攻略部隊は主力艦隊と別れてフィリピンを目指していた巡洋艦艦隊と遭遇し、赤城が大破、加賀も被弾する大損害を被ることとなってしまった。攻略艦隊は攻撃の可能性をフィリピンからのみと考えていた為、米巡洋艦艦隊の出現は全く予期せぬ遭遇となり、対応が後手に回った結果の大損害であった。


 こうして海戦においては日本側の二勝一敗の形となり、フィリピンの陥落は確実となる。


 もし、近衛が帝都空襲を予見していなければ、横須賀に大龍、翔龍は残っておらず、関東に警戒網を敷く事も出来ていなかったとされる。そうであれば、空母部隊による奇襲は成功し、無傷で逃げおおせていたかもしれない。が、結果は空母部隊による一隻撃沈、そして大破したホーネットも後に潜水艦により撃沈され、エンタープライズを残すのみとなっている。


 ただ、主力艦隊にはその逆の悲劇が待ち受けており、損傷し速度が低下していた扶桑が米潜水艦によって撃沈されている。金剛も雷撃を受けたが、こちらは不発となり難を逃れることとなった。

 フィリピン攻略部隊は損傷した赤城、加賀を本土へ回航しようとしたが、赤城は途中で機関故障を起こし、雷撃処分を選択する事となり、国内報道は日本海海戦以来の大勝利と言う報が流れたものの、ひと月もすると損害状況の噂が何処からともなく広まり出し、戦果報道に対する不信感が募るという結果までもたらしてしまう。

 そうした状況を受け、周りが止めるのも聞かずに戦艦や空母の損害について近衛が正直に公表した事は、今でも戦時情報統制の在り方について大きな議論を巻き起こし続けている。


 この時の演説は「臣民演説」と呼ばれ、「ジーク臣民」なる謎のフレーズでも知られており、後にロボットアニメにおいて利用された際には、声優の熱演もあって近衛以上の演説とまで云われているのは有名である。


 さて、この演説においてバカ正直な近衛による被害公表が行われたが、それとは別の評価を受ける部分もある。

 彼は演説の中で戦艦の大損害を嘆き、戦力強化の為に大和型戦艦なる物を推進すると述べた。しかし、日本にはその様な戦艦は無い。彼は続けてそれが7万トンにもなる巨艦であり、主砲は46センチだと嘯いた。

 果たしてそれは何であるか。実は、近衛が建造中止に追い込んだ戦艦計画である。海軍将校には、何を今さらという反感が芽生えた事だろう。


 が、これは思わぬ効果を生み出していたことが戦後判明している。なんと、米国は建造計画を大幅に見直し、アイオワ級戦艦の建造を4隻で中止する代わりに、18インチ砲へ換装したモンタナ級戦艦の建造を開始したのである。その建造を優先するため、エセックス級空母の建造すら削減したほどに。


 では、日本は本当に大和型戦艦なる巨艦を建造したかと云うと、近衛は損失した戦艦の修理すら後回しにし、空母や駆逐艦を優先している。この事から、三国志の故事を捩り「酔える近衛、焦るルーズベルトを走らす」などの笑い話が生まれる事になった。


 もちろん、当の米海軍は真剣だったのは間違いないが。

 

不幸な姉「不良信管が作動するなんて•••」


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