表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/147

現状、完全に手段と目的が入れ替わっている

 焦ってはいけないと解ってはいるが。

 それでもモヤモヤとしてしまうのが、人情というものだろう。

 現状の私は、何もしていないのだから。

 

 ……そもそもとして、私の絶対目標って『イスラの破滅回避』なんだよね?

 

 早朝の天蓋の中で、グルグルと足首を揉み解しながら、まったりと自分の心を整理する。

 なにもできていない現状に焦りはするが、焦って少し運動をしたら即膝を痛めた。

 あれは焦ってもなにもいいことはない、とよく解る出来事だった。

 しっかり懲りたので、次にスクワットにチャレンジするのは、体重が二桁になってからだ。

 それまでは、散歩と食事制限とはいえない食事制限、それから天蓋の中でのストレッチを続けるしかない。

 

 ……イスラが優先で、ダイエットは二の次……や、もしかして、三の次ぐらい?

 

 絶対に譲れないものはイスラだが、イスラの破滅にはこの国の瓦解がセットでついてくる。

 国が崩壊すれば、そこで生きる民が困ってしまうので、一国の姫としては、自分の身よりも民を優先するべきだろう。

 いや、優先順位で言ったらイスラという個人よりも、民という大勢を優先するべきなのだが。

 そこは私はカーネリアではなく白雪 姫子なので、仕方がない。

 イスラとセットで民のことも考えるので、優先順位の一番がイスラなことは見逃してほしい。

 名前の前後など、大きいが、些細な差だ。

 

 左右の足首を回し終わり、膝を伸ばして足を開く。

 筋が痛み、膝が曲がってくる限界まで開いたら、その姿勢のまま頭の中で数をかぞえる。

 毎日少しずつだか、この足の開く角度が広くなっている気がした。

 バレリーナのように180度開けるまで目指すつもりはないが、硬かった体が動くようになっていくのは素直に嬉しい。

 

 ……ってか、ダイエットは手段であって、目的じゃないはずなんだけど……?

 

 私の目標は、イスラの破滅回避である。

 これは何度だって言う。

 目標はイスラの破滅回避、欲を出せば幸せになってほしい、だ。

 私の減量ダイエットではない。

 

 しかし、イスラの破滅回避のために動こうと思えば、この太すぎる体が邪魔になる。

 イスラのために暗躍したくとも、この太った体では歩き回ることすら困難なのだ。

 

 ……現状、完全に手段と目的が入れ替わっている。

 

 それも、悪い方向に。


 破滅回避の方法を知りたい、と情報を求めてイスラに学を授けてもらっている。

 この現状は、父アゲートに知られれば、イスラの首を絞めることになるだろう。

 

 そして、手段の一つである減量も、遅々として進んでいない。

 運動をするためにも、まずある程度体重を落す必要があるという現状は、本当に忍耐が必要だった。

 焦って運動をすれば、すぐに足腰を痛めて動けなくなるのだから。







 ……『姫』ってなんだろう?

 

 風呂上りに奥宮の外周を散歩しながら、ぼんやりと考える。

 一国の姫でありながら、本当に何も知らないカーネリアの現状は、改めて考えても恐ろしい。

 

 知らないことは幸せであり、恐怖だ。

 

 私が以前のカーネリアのままであれば、ある日突然終わりが来たのだろう。

 父が叛乱を起こされて、斬首される。

 暴君が溺愛していた姫が、叛乱を起こした民に見逃されるはずもないので、ゲームの中のカーネリアも父と同じ運命を辿ったはずだ。

 ある日突然、何が起こったのか、何が起こっているのかも理解できず、知らされず、父王の隣で首を刎ねられる。

 

 ……や? でも、ゲームのカーネリアって、どうして出てこなかったの?

 

 父アゲートは、年齢制限ゲー特有のネタキャラ枠の外見をしていた。

 私自身、ネタキャラ枠に分類されるであろう雪妖精だるま体型だ。

 それまでの行いが自分に返り、嘲笑されながら無様に死ぬ姿が、これほど似合うキャラもいないだろう。

 モブだから画面に出てこなかった、と言うには、カーネリアの体は太すぎる。

 これだけ太った姫ならば、ネタとして登場させない手はないと思うのだ。

 

 ……出てこなかったのなら、居なかったとも考えられる。

 

 やはり、ここは『ごっど★うぉーず』というゲームの設定と酷似した世界なだけで、別の世界なのだろうか。

 それならば、ゲームにカーネリアが存在せず、私がここにいる説明もつく気がする。

 破滅回避の参考資料としている『ごっど★うぉーず』はただの物語で、物語ゲームを参考にしても破滅回避はできない可能性が出てきてしまうが。

 

 ……や、ゲームのカーネリアのことなんて、どうでもいいや。大切なのは、イスラの破滅回避。これだけだよ。

 

 イスラは、ゲームでは国に殉じる。

 それなら話は簡単だ。

 国を崩壊させなければいい。

 これだけだ。

 

 ……いや、それが一番難しいんだろうけど。

 

 民が叛乱を起こして国が終わるのだから、叛乱を起こさせなければいい。

 それは判る。

 つまりは、王アゲートが民からの信頼を失わないように、あるいは信頼を取り戻すようにすればいい。

 そのはずだ。

 そのはずなのだが、その結果を導き出すための工程が、カーネリアの知識の中にも、白雪 姫子の知識の中にもなかった。

 当然だ。

 カーネリアは為政者の側に立つものとしての教育を受けていないし、白雪 姫子は日本の義務教育は修了しているが、統治する立場の教育など受けたことはない。

 今の私は人間二人分の人生を知っているはずなのだが、カーネリアの人生はまだたった十四年で、ほとんどの時間を軟禁されていた。

 白雪 姫子の人生はカーネリアよりも長いが、イスラと『ごっど★うぉーず』というゲームに対する思い入れは強く残っているが、その他の記憶は曖昧なところが多い。

 二人分の人生の蓄積があるはずなのだが、実質成人した覚えがある、という程度の自負と、カーネリアとしての少ない記憶しかなかった。

 

 ……今の私って、『解らないところが判らない』状態だよね。

 

 理解できない、と判断するためにも、判断できるだけの知識が必要だ。

 その知識の蓄えがカーネリアにはなにもなく、白雪 姫子にもゲーム知識しかない。

 そして、頼りのゲーム知識も、ゲーム本編で語られる程度に省略されたものだけだ。

 

 『辺境の村で叛乱のきっかけとなる事件が起こった』と、一行テキストを表示するだけでゲームではプレイヤーへの説明が完了する。

 ところが、実際にその地に生きてみると、こんな一行の説明では、どこで何が起こったのか、まるで理解することができなかった。

 まず、『辺境』だけではどこの地域を指しているのかが判らない。

 『北の』辺境、『国境付近の』辺境、と方角が付けばある程度情報を絞れるが、その方角にある辺境の村は、もちろん一つではない。

 そもそもとして、何を指して『辺境の村』と『辺境ではない村』をわけるのか。

 

 ……でも、イスラは何か知っていそうだったよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ