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『美しさ』より『体重』と『健康』が目標

 食べる量を減らすことには成功したが、食事として目の前に出される量は変わらない。

 急に減らしたら体調不良を心配されるので、まだしばらくはこの量だろう。

 

 多すぎる量は、侍女たちとイスラに分けることで食べた振り続けている。

 肉そのままより、オーチルとして生地オーチルで包んでしまった方が持ちやすい、とイスラが言ったので生地パンを増やしてくれるよう厨房に注文を出したら、これはあっさりと要求が通った。

 相変わらず、食事の量を減らすことには抵抗があるが、増やすことには即対応される。

 

 ……白い小麦粉が高価なものだとは思わなかった。

 

 生地を増やした時にイスラが解説してくれたのだが、白雪 姫子としては『普通の小麦粉』と認識される白い小麦粉は、この世界では稀少な品だったらしい。

 日本では『自然派食品』だとか、『栄養がある』だとか有り難がられていた少し高価な茶色の小麦粉は、逆にこの世界では一般的な小麦粉なのだとか。

 そして廉価版というべきか小麦粉の他に、トウモロコシの粉で作った生地オーチルもあるようだ。

 興味があったので用意してもらったこともあるが、これが出てきたのはその一度だけだった。

 廉価版というのは白雪 姫子の感覚なだけで、王城ここでは庶民以下の貧民や奴隷が食べるもの、という扱いだったようだ。

 

 ……美味しければ、それでいいと思うんだけどね。

 

 どうやら、茹でてそのまま食べて美味しいトウモロコシはなさそうである。

 そのまま料理に使うことはほぼないようで、粉にして主食として食べることが多いようだ。

 

 一日に二度ある風呂の時間は、そのままだ。

 イスラに臭いデブだと思われることだけは避けたいので、これは仕方がない。

 ただ、香油などを塗りこむマッサージは一度だけにした。

 気持ちのいい至福の時間ではあるのだが、施術中の私は何もしていない。

 まったく動かずにうとうと至福の時間に浸っているよりも、今は少しでも動いて体重を減らしたいのだ。

 

 バタ足にも慣れてきたので、違う運動を取り入れる。

 浴槽の中で水の抵抗を意識しながら足を大きく、ゆっくりと開いて、またゆっくりと閉じる。

 全裸のデブがM字開脚をしている――絵面を想像するといろいろ辛いものがあるが、誰にも――世話係の侍女はたしかに側にいるが――見せない姿なので、よしとする。

 女性の美しさは、見えない場所での努力で作られているものだ。

 

 ……いや、今の私は『美しさ』より『体重』と『健康』が目標なんだけど。

 

 あとは、いざという時に動けるよう、少しでも体積を減らすことだろうか。

 とにかく、どれほど無様で見難かろうとも、地味に努力を続けていくしかない。

 

 風呂から上がってサッパリすると、涼みがてら散歩に出かける。

 以前のカーネリアは、この時間にイスラの姿を覗きに兵舎や訓練所へと顔を出していた。

 

 ……お父さまも、途中まではちゃんとカーネリアを軟禁できていたんだけどね?

 

 飛竜騎士として頭角を現したイスラが、父王アゲートは嬉しかったらしい。

 アゲートはイスラを自分の持ち物としてカーネリアに自慢し、結果、イスラの顔にひと目惚れしたカーネリアは奥宮から出るようになった。

 お気に入りの飛竜騎士も、娘が夢中になれば気に入らないものに成り下がるというのだから、父親というものはどうしようもない。

 

 ……冷静に振り返ると、結構簡単に軟禁生活終わったよね?

 

 カーネリアが父親の命じた軟禁生活を素直に受け入れたのは、子どもだったからだろう。

 世間を知らない、親の影響が絶対、しかもその親が王である、というさまざまな条件が重なり、カーネリアは軟禁生活を受け入れた。

 それがおかしい、奥宮から出たいとは、欠片も考えなかったのだ。

 

 そんなカーネリアを変えたのは、イスラの美貌だった。

 あの顔が見たい、と父親にせがみ、王城から出てはいけない、というそれまで奥宮に限定されていた行動範囲を広げさせることに成功している。

 

 この太りすぎたカーネリアが今も自分の足で歩けているのは、間違いなくイスラのおかげだろう。

 イスラを追いかけるために、日々少しでも歩いていたおかげで、かろうじて一人で歩けるだけの筋力が残っていてくれた。

 

 ……イスラは私の恩人だね。

 

 推しとは別の感情で、恩人へとこっそり感謝を捧げ――たら髪がふわりと緑に輝く。

 近頃私の銀髪は緑がかった艶が出ていることが多い。

 イスラにはあまり神へ祈らないように、と注意されているが、白雪姫子こちらは推しは宗教のオタクだ。

 イスラに祈らず日々を過ごせるわけがない。







 今日の目的地は、王城の端にある竜舎だ。

 兵舎や訓練所あたりまでなら侍女も喜んでついてくるのだが、馬房や竜舎はやんわりと断られることが多い。

 兵舎や訓練所には嫁ぎ先候補になる若い男がいるが、馬房や竜舎には世話をする男がいることにはいるが、それ以上に獣臭い。

 自身に臭いが移ることを嫌がって、若い娘は近づきたがらないのだ。

 

 ……ジェリーはどこでも喜んで付き合ってくれるけどねー。

 

 ジェリーの意外に高かった忠誠心はカーネリアに向けられたものではあるのだが。

 今は私がカーネリアなので、その忠誠心をありがたく利用させていただく。

 

「……あ、マタイだ」


 扉代わりの巨大な柵を越えて竜舎に入る。

 誰に声をかけたらいいのか、と周囲を見渡したら、鈍色にびいろの鎧を身に纏ったマタイの姿を見つけた。

 飛竜の側にはいないので、これから飛竜の世話をするか、世話をしてきたか、というタイミングだったのだろう。

 つまりは、私が話しかけても大丈夫そうな相手だ。

 そう判断して呼びかけると、マタイは心底不思議そうな顔をした。

 

「どうした、姫さん。ここにゃ、お目当てのイスラは来てないぜ」


「今日は別のお目当てがあって来たのよ」


「別のぉ?」


 私だって、別に毎日、毎日イスラを追いかけているわけでは――と考えて、以前のカーネリアはそうだったな、と思いだす。

 カーネリアの外出理由は、100%イスラだ。

 イスラが居そうにない場所に私が顔を出すはずがない、というマタイの判断は間違ってはいない。

 

「イスラに教えてもらったの。竜舎には幼竜の体重を量る道具があるって」


「そりゃ、そんな道具もあるけどよ……」


 いったいなんに使うのか、と問われれば、体重を測る道具の使い道など、一つしかない。

 体重を量るのだ。

 推定甘く見積もって100キロの、カーネリアの体重を。

 昔、レコーディング? ダイエットとかいうものがありましたよね。

 やり方は簡単。

 毎日体重を記録するだけ。

 仕組みとしては、「日々体重を記録し、数字を目にし、意識することで、過食を控えられる」とかなんとか、曖昧で確実性のない……運動しよう。そうしよう。

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