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マタイの探し人 3

「時が戻る……つまり、ループものとか、逆行もの……?」


「なんだそりゃ?」


「地球で生きた記憶があるのなら、知らない? ネット小説で流行ってた設定なんだけど……」


 厳密には違う物なのかもしれないが、大雑把には同じものだろう、とループものと逆行ものについてマタイに説明する。

 マタイの地球での前世は日本人だったらしいのだが、親の教育方針でアニメや漫画には触れられない幼少期を送ったようだ。

 成人してからも興味を持つことなく過ごしたらしい。

 そんな日本人がいるのか、と少しどころではなく驚いた。

 

「姫さんの説明でいくと……今の状況は『ループもの』か」


 それはそれで、時間が有り余っていていいな、とマタイはニヤリと笑う。

 無表情の時間は終わったらしい。

 時間なんて、あればあるほどいい。

 世界中を探し回れる、と。

 

「マタイって、なにか探しものをしているの?」


「おうよ! いわゆる『運命の女』を捜しているな」


「……なんだか、似合わない単語が出てきた」


 ケロッと語られているし、マタイも笑っているのだが、目が本気だ。

 マタイは本気で、その『運命の女』を探しているのだろう。

 普段の振る舞いから、これっぽっちも似合わない単語なのだが。

 

「でも、マタイが旅の傭兵だった、って理由は判ったかも。人を探しているから、いろいろな国を旅していたんだね」


 人探しが目的なら、なぜこの国で飛竜騎士をやっているのか、と聞いてみたところ、巻き戻る前にこの国の噂を聞いたらしい。

 竜と常緑の国イウシィには、神童と呼ばれる姫がいる、と。

 

「まあ、実際の『神童』サマに会ってみたら……」


 と言葉を区切り、マタイの顔から表情がまた消える。

 この無表情かおは、何が言いたいのか判った。

 先ほど見せた真面目な話をする時の真顔ではない。

 呆れを通り越した素面というやつだ。

 

「わざわざ就職までして近づいた『神童』がこれで、申し訳なかったデスネ」


 人違いそれは私のせいじゃないだろう、とは思うのだが。

 一応は私も『神童』と呼ばれていた過去があるらしいので、詫びておく。

 残念だったね、と。

 

「マタイの探し人って、神童かと思うぐらい頭がいいの?」


「本人は『勉強のできるお莫迦』タイプだな」


 日本では本にかじりついていた、と続いた言葉に違和感を覚えて眉を寄せる。

 今はマタイの『運命の女』の話をしていたはずなのだが、いつの間にか前世にほんの話をされていた。

 

「……マタイ? その『運命』さんって、日本にいたの?」


「日本にいたっていうか、その前からの付き合いだな」


「……ああ、あの! あれだ。あれですね。来世でも結婚しよう、みたいな……?」


 そんな約束をした二人なのだろう、と好意的に受け止めようとしたのだが。

 私が一人で勝手に納得しようと合わせた辻褄を、マタイは粉微塵に打ち砕いてきた。

 

「いや、あれと恋人や夫婦であったことは一度もない」


 転生するたび同じ世に生れ落ちはするが、結ばれたことは一度もないらしい。

 そんな女性を『運命の女』と呼び、ループする今世を逆に利用して世界中を探し回っている――

 

「それ、控えめに言って、ストーカーって……言うと思うのデスガ……?」


 夜道の待ち伏せ男が、ほんの少しだけ可愛らしく感じた。

 待ち伏せどころか、転生先まで追いかけてくる付き纏い行為など、普通に考えなくとも怖い。

 怖すぎる。

 

 ……え? 大丈夫? あの犯人おとこ、ちゃんと死んだ? 付いてきてないよね??

 

 転生先まで追いかけてくることを考えれば、祈るべきは白雪 姫子を殺した犯人の長寿であろう。

 被害者が加害者の長寿を祈るというのも、おかしな話だったが。

 あの男に今世でも付き纏われるぐらいなら、前世で長く生き、できるだけカーネリアに近づいてほしくない。

 

 ……あれ? でも……?

 

 怖すぎる考えに陥りそうになり、強制的に思考の方向性を変える。

 我が国の『神童』と言えば、カーネリアの他にも心当たりがあった。

 

「……もしかして、セラフィナの方がマタイの探している『神童』って可能性は?」


 カーネリアが『神童』と呼ばれていたのは、父アゲートに奥宮へと軟禁される前のことだ。

 その頃であれば、妹のセラフィナも奥宮に居たはずである。

 四歳かそこらで自分で教師を捕まえて学びたがる女児など、実態は知りようもないが、『神童』に見えるのではないだろうか。


「セラフィナ? 誰だ?」


「わたくしの双子の妹。処刑されたってことになっているけど……」


 確認はできていないが、出奔して楽しく旅暮らしをしていると思われる。

 

「……たぶん、だけど? セラフィナなら、マタイの言った『時間が戻る』を自覚しているかも?」


 ゲームでチートキャラだったセラフィナは、そのチートっぷりにマタイが言い始めた『ループ』を付け加えることで説明がついてしまう。

 ループを自覚していれば、それぞれの時間で学ぶ師や武器を変えることができるからだ。

 

「もしかしたら……『ループ』を利用して武芸を極めようとしている疑惑が……」


 絶賛、私の中で大浮上中である。

 ゲームのチートキャラが現実になると、妙な具合に辻褄が合わされるらしい。

 

「それだな。武芸を極めようとか、頓珍漢なことを始めそうな奴ではある……」


 マタイの『運命』さんは、日本では図書館に通い詰めて知識を取り込み、次の転生先では魔法を極めていたのだとか。

 そして四度目の今世では武芸を極めようとしている疑惑が発生している。

 

 ……セラフィナ、魔法が使えた可能性があるのか。そりゃ、処刑された振りして逃げることぐらい、できるかもしれない。

 

 まだ確定情報ではないのだが。

 マタイの『運命の女』がセラフィナだった場合に、納得が行き過ぎるセラフィナのハイスペックっぷりだ。

 どう考えても、セラフィナの方が『神童』である。

 むしろ、セラフィナの『神童』という評価を、双子繋がりということでカーネリアと混同されてしまった可能性まである気がした。

 

「しかし、あれだ。王城ここにいないのか」


 手掛かりがゼロになった、とマタイは大きな手で顔を覆う。

 がっかりはしているようだが、肩は落ちていないので、まだ諦めてはいなさそうだ。

 

 ……微妙にストーカー疑惑があって、不安だけど?

 

 マタイのことは、数少ない軽口を話せる相手だと思ってる。

 落ち込んでいるのなら、その落ち込みを掬い上げられる可能性を知っているのなら、多少なりとも手を貸してやりたい。

 

「完全に手掛かりがゼロってわけじゃありませんよ?」


 セラフィナが本当に武を極めんとしているのなら、その行動を読むことぐらいはできる。

 武を極めたいというのなら、セラフィナが目指すのは師事するべき武の達人の下だ。

 

「名高い武人を探せば、そこに弟子入りしている可能性があるのでは……?」


 もしくは、ゲームの主人公プレイヤーキャラの側で待ち伏せる、という手がある。

 『ごっど★うぉーず』は暗躍する神の数だけ主人公がいたが、どの主人公でもセラフィナを仲間にすることはできる。

 つまり、主人公の前にセラフィナが現れるのだ。


「……一理ある、か? やっぱ姫さん、頭はいいだろ」


「本当に頭がよかったら、ループしてるとか、愉快な現象に気付くと思うんだけど……」


 と、そこまで言って、気が付いた。

 正妃エレスチャルがいつだったか、言っていたはずだ。

 なにやら意味深な話を始めたエレスチャルに私が混乱し始めると、「それを回避するために、貴女は『忘れる』のです」と。

 

 ……つまり、マタイの言う『時が戻る』は?

 

 がっつりカーネリアが関係している。

 そうでなければ神の視線を集めるカーネリアが『覚えていない』側のはずはないし、神々からの覚えがめでたいからこその忘却とくべつたいぐうなのだろう。

 

 ……待って? 時が戻って、もう何度も繰り返していて……カーネリアには『神童』って呼ばれていた頃の記憶がないって……?

 

 マタイが言うことには、時が戻るきっかけは謎だったが、戻った先はいつも同じマタイが十四歳の頃だ。

 今から十年前になる。

 今のカーネリアは十四歳だから、単純な計算で四歳の時だ。

 カーネリア四歳といえば、丁度『神童』と呼ばれていた時期で、父に軟禁され始めた時期でもある。

 

 ……とりあえず、破滅回避以上の面倒が待っていることが判った。

 

 もちろん、イスラの破滅回避は絶対目標である。

 ついでに叛乱が起こるのも避けたい。

 

 が、首尾よくこの二つを達成できたとしても、きっかけが判らない『ループ』が起こってしまったら、破滅回避も叛乱の回避もしくは平和的鎮圧も、ついでにカーネリアの減量もやり直しだ。

 

 ……まったく解決策が思い浮かばないんですけどっ!?

 というわけで、当の本人は無自覚なループものだったようです。

 いや、逆行? 逆行……なのか……? と実はループと逆行の違いがいまいち解っていない。

 逆行は逆に行くわけだから、やっぱりループ……?

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