バカ王子
バカ王子
「本日は、水魔法の投擲実習の 予定でしたが、昨日ビオレータさんが、実習場を破壊してしまいましたので、暫くは座学になります」
私は、俯いて沈黙していた。
「すまぬが、座学の前に昨日の事について説明して貰いたい!」
マッティ殿下が、昨日の説明を求めてきた。
「では、昨日の報告から、城への報告書は既に提出済みです。
検証も片付き、実習場以外は問題なく学園運営が行われており、城からの連絡待ちです。」
マッティ殿下が訝しげな顔をし、カタリーヌ先生を睨みながら発言をする。
「そう言う事ではない!」
「では、どういう事でしょう?
まさか、他人の魔法研究の成果を公式の場ではない所で聞かせろとは言いませんよね?」
「・・・・・」
クラスメイトの何人かが顔を反らした。
別に理由を答えても良いが、詳しく説明しようとは思わない、それはクラスの大半が理解不能になるだろうからだ。
「あと、ついでなので話して置きましょう!
ビオレータさん、昨日の魔法を論文にして提出して下さい、昨日、検証で試してみましたが、あれは公で発表されるべきです。」
どうしましょう・・・、ニコニコしながらカタリーヌ先生が見てる。
顔は笑ってるみたいだけど、中身は笑ってない、断れない状態だよね?
「グループ論文で良いですか? 実験や検証も一人では難しいので・・・」
「構いませんよ、それでも十分に高評価は取れるはずですから」
「分かりました、実験室の利用許可が取れましたら、すぐに取りかかります」
「既に実験室の許可は取ってあります。
本日の講義終了後より第7実験室が使用可能です、宜しくね!
はい、講義を始めます」
講義終了後、第7実験室にて簡易的な実験用の器具や魔道具を作成する準備を行う。
グループメンバーは、
担当講師:カタリーヌ先生
プレゼンター:フレイア
論文作成:ビオレータ
実験者:シルフィー
実験者助手:アロン、ミスティルティン
である。
「ところでカタリーヌ先生、この方達は先生がお呼びになったのですか?」
カタリーヌ先生は肩を竦めて首を横にふる。
実験の準備をするにあたり、私個人の秘匿しなければいけないスキルとかを使用するのだが、それにミスティルティンにも手伝いを頼むため、知られると精霊契約も根掘り葉掘り聞かれそう。
「なんだ、私がいるのが迷惑か?」
こいつは馬鹿か?
取り巻き含めて10人もこんな狭い実験室に詰めかけるとか、迷惑じゃない方がおかしいだろ!
まあいい、多分あれだろ、昨日の魔法が新しい極大魔法か何かだと勘違いでもしてるんでしょう、説明してみるか、納得出来る頭脳があるか分からないけど・・・
「先ずは、常識から説明しましょう、実験室は実験を行う場所です。
時には火災になったり爆発したり、最悪、有毒な気体が発生したりと危険極まりない場所です、安全性を追求しないのは研究者失格です」
「うぅ・・・」
「また、マッティ殿下は多分勘違いをしている様ですので、私の一部個人情報を開示します。
私は、攻撃魔法を発動出来ませんし、昨日のは攻撃魔法に見せかけた物理攻撃です!」
「まさか、昨日のあれが魔法ではないというのか?」
私、カタリーヌ先生、フレイア、シルフィーが揃って首を縦にふる。
「そんなバカな、あれ程の爆発だぞ、信じられるか!」
「それが真実です!」
マッティ殿下は憤慨し、私の方に歩きだすと、間にフレイアさんが立つ!
「殿下、それを証明する為に論文提出をカタリーヌ先生が提案したのであって、本来ならビオレータさん個人の知識で自領の発展にのみ利用しても何ら問題はありませんよ!
寧ろ、殿下の現在の行為こそ咎められるものです」
「いくら婚約者でも不敬だ、フレイア嬢!」
今度はなんだ、宰相のところの出涸らしバカボンか・・・、イライラしてきた。
「何が不敬かも理解していないのか? 宰相家の出涸らし!
婚約者の至らない所を補い、たしなめ、修正するのは婚約者の務め、無能は黙ってろ!」
毒を吐いて睨み付けると、怯えた様に後退る。
やっと事態の収拾に動き出してくれるのか? カタリーヌ先生が殿下達の前に出て柔らかく微笑む。
「さすがは第一王子の同腹、性根も侍らす側近もそっくりですね!」
あわわわわ、トドメ刺しにきたよ、この人!
殿下は一瞬惚けたあと、振り返って歩きだすと「もうよい!」と言って出て行った。