魔導書と図書館
魔導書と図書館
夏期休暇が終わったとはいえ、まだまだ残暑の厳しい季節。
昨日の帰りに設置したあれが機能していると良いのだけど・・・
実験室に向かうと、早朝だというのに人混みが出来ている。
「ビオレータさん、大変ですわ!
実験室から煙が・・・」
フレイアさんが登校してきた私を見つけて声をかけてきた。
「ん? 煙?」
私達の実験室から白い煙・・・いや、冷気が出ていた。
ちょっと機能し過ぎた様だ。
「あれは大丈夫ですよ、煙ではなく冷気ですから!」
「・・・冷気、ですか?」
「冬の寒い時季に息を吐くと、白い息が出ますよね?
あれの逆です。」
「なるほど、暖かい空気に冷気が触れて煙の様なものが発生していると?」
「そうです、私が昨日の帰りに部屋を冷やす様に設置した物が期待以上に冷やしてしまった様です。
申し訳有りません。」
「何を為さったのですか?」
「見てもらった方が説明しやすいですね。」
部屋を開けると、冷気が部屋から飛び出し廊下を這って冷して行く、部屋の中も暖かい空気が入り込み白くなる。
「空気が落ち着くまで少し待ちましょう!」
「はい、しかし、涼しいと言うより・・・少し寒いですね。」
「室温がマイナス5度ですね、もう少し上がったら、冷気が逃げない様に部屋を締め切りましょう。
では、靄も取れましたし説明します。
これ、ただの四角い鉄の箱ですが、昨日の帰りに液体化した窒素を入れて置きました。
液体化すると体積が膨張するのでこの管から外に逃がしています。
それが部屋の空気を冷して、朝には涼しくなるはずでしたが、ちょっと冷えすぎた様です。
この時間からは、周囲で固まっている食塩水を利用して風を循環させる予定でした。」
「ちょっとじゃないです・・・、で、その液体化した窒素は何度くらいなのでしょう?」
「だいたいですが、マイナス270度くらいです。」
「・・・」
講義が始まる頃には、室温も20度前後になって快適温度であった。
「涼しくはなりましたが、毎朝冷気を放出して騒ぎを起こすわけには参りませんわね・・・」
「明日からはもう少し凝固点の高いもので試します。」
「本当に大丈夫なのですか?」
「はい、基本的に今使っている食塩水を凍結させるだけですから、かなり高い温度になります。」
「この食塩水って何度で凍るのですか?」
「ん?、食塩水の塩分は飽和状態に近いですから、だいたいマイナス20度で固まります。」
フレイアさんが、あわてて食塩水の温度を測る。
「マイナス17度・・・、因みに凍結させるのに使用するものは?」
「大丈夫ですよ、二酸化炭素でだいたいマイナス80度程度ですから!」
「・・・、他に方法は御座いませんか?」
「有りますけど、・・・面倒ですよ!」
「因みにどんなに方法ですか?」
「この食塩水に直接氷を大量に叩き込みます。」
「そっちにして下さいまし!」
午後にカタリーヌ先生とシルフィーが実験室にやって来た。
「これから図書館の見学に回りますが、順番はビオレータさんからで良いですか?」
「私の図書館は改築中なのですが・・・」
「へ?、改築って言うのはどういうことでしょうか?」
「先日話した通り、引き継ぎ期間が終わり鍵を受け取ると、自由に改築やリフォームが出来るのです。」
「なるほど、では私の図書館がデフォルトと言うことで先に見学しましょうか?
次にビオレータさんとしましょう。」
カタリーヌ先生はポケットからアパートの鍵に似た鍵を取り出して、空間に差し込む様にしてゲートを開いた。
ゲートを抜けると、初期の私の図書館と同じ様な建物があった。
「カタリーヌ先生は鍵をお持ちで無かったのでは?」
「フレイアさん、これは空間の鍵で図書館の鍵では無いのです。」
話しをしていると、男女二人が現れた。
「お久しぶりです、賢者アルヴィース様!」
「カタリーヌよ、本日より此方の鍵を使いなさい。」
隣にいた女性から鍵を受け取り、カタリーヌ先生へと渡す。
「ビオレータより話しは聞いてるか?
鍵の所有者となった者は、図書館の改築・増改築・リフォームを自由に行う事が出来る。
更に、増書も廃書も任される。」
「廃書・・・?」
「絶対に他人には知られてはならない内容の書籍を廃書する歴代賢者もいた。
ビオレータはどうしておる?」
「私は禁書庫を造りました。
それを別のルートで知り得た者が悪意ある者の場合、対処法を記す為に残しています。」
「確かに、お主の禁書庫にある中には、自然界に普通に存在する物が有るからのう。
ラジウムはもう見つかっておるのであろう?」
「温泉ですねぇ~、人体には害が無いですが放射線と言う事で今はまだ禁書庫です。」
「アルヴィース様、ラジウムとは」
「それに関する書籍をわしは廃書にした。 わしの時代には早すぎたし、最初に発見したのがウラニウムであったからな!」
「いきなりウランですか?
ヤバイですね!」
「そうじゃ! あれは現代でもまだ早すぎる。
ビオレータよ、注意して扱え!」
「御意」
「ビオレータさん、そんなに危険なのですか?」
「はい、ウランを悪用されるとその土地は、一定期間生物がまともに生存出来なくなると思って下さい!」
「では、図書館の内部を案内するかのぉ」
「そうでした、見学です!」
図書館に入り、アルヴィースが説明していく、
「まず、この図書館は賢者の図書館じゃ、歴代賢者の叡智が納められておる。
蔵書数は約10万冊じゃな!
棚は年代別に納めており、分類はしておらん。
ビオレータの初期の図書館はこれの複製じゃ、ミーミル様に頼まれて造った。」
「質問ですが、話に聞くと普通は称号と共に図書館の閲覧が可能になるそうですが、私は何故称号がないのでしょう?」
「お主の場合は特殊じゃ、ミーミル様はお主を大賢者に推薦したが、ヘルメス様は大錬金術師に推した。 そこにウラヌス様・ジズ様・ポセイドン様が創造の女神に推しとる。
所謂、神による称号の名付け争いじゃな!」
「ちょちょちょっと、何ですかそれ・・・?」
「ミーミル様とヘルメス様はわかりますが、何故ウラヌス様とジズ様にポセイドン様なのですか?」
「ウラヌス様は、お主、人工衛星を打ち上げたであろう?
ジズ様は、パラグライダーと飛行艇じゃな!
ポセイドン様は潜水艦と海賊討伐じゃ!」
「アルヴィース様、聞き覚えの無い言葉が出てきましたが・・・」
「この者の図書館に写真があるので見せて貰うがよい!」
「わかりました。 ビオレータさん、ちゃんと説明して下さいね!」
「・・・」
「何故応えないのですかぁ~?」
アルヴィースによる図書館の案内は続く、
「そもそも図書館とは、魔導師になった者の知識が納められており、それに触れる権利を有した者が魔導師見習である。」
「やはり、ビオレータさんの仮説通り図書館の鍵を持つことが、私達が言う魔導書との契約なのですね?」
「その通り、よってお主等は既に魔導師である。
ただ、聖女の魔導師は少なく蔵書も少ない、これから増やして欲しい。
あと、レーバテインの管理者が魔導師になるのは初じゃ、蔵書はビオレータの図書館から複製せよ!」
「ビオレータさんの図書館は、そんなに蔵書が有るのですか?」
「そうじゃ、お主の図書館にはどの程度ある?」
「小さい時に見ていた絵本とかも加えましたからねぇ~、だいたい150万冊くらいです。」
「「「・・・」」」
「まさに、叡智の源じゃの!
聖女フレイアには、特にこ奴の図書館にある医学書を増刷して欲しい。」
「医学書・・・ですか?」
「治癒術や回復術に精通しておる書物じゃ、大変役にたつ!」
「仰せのままに!」
「ハイエルフのシルフィーは、・・・あれは図書館ではなく、保管倉庫の意味合いが強い。
まだ先の話だが、神剣アルテミ・神殺しミスティルティン・神杖アスクレピオス・神剣レーバテインは、所有者が亡くなれば存在を隠さねばならん!
その他の神器も含め、ハイエルフとして選ばれたと思うてくれ。」
「分かりました!」
カタリーヌ先生の図書館を見学したあと、アルヴィース様と分かれて私の図書館に移動する事になった。




