杖を造ろう
杖を造ろう
食事の鐘が鳴り、フレイアさん、シルフィーさんの三人で食堂に向かう。
あまりの衝撃的な話に、トレイをテーブルに置き椅子に座るまで三人とも無言であった。
最初に沈黙を破ったのは、散歩から帰ってきたミスティルティンであった。
「たっだいまぁ~~! ビオレータ、あたいの苺ある?」
「ちゃんと取って置きましたよ!」
「「クスクス」」
フレイアさんとシルフィーさんが思わず笑う、ミスティルティンが苺をカブリ、ほのぼのとした空気が流れ出す。
「カタリーヌ先生の話、驚きましたわね!」
「私は、ビオレータさんの話が衝撃でした」
「私、かなりやらかしちゃってるのかな?」
「悪いことをしているのでは有りませんし、気に病む事は有りません!
わたくし達も、何れはなにがしと契約を成立させなければなりませんし!」
「私はエルフなので、ビオレータさんと同じ精霊契約を狙っています」
「でも、媒介による契約なら、良い素材を集めて魔術具作成で合体させれば出来そうですよね?」
「カタリーヌ先生の杖、ですわね?
問題はあの金剛石ですわ、あの大きさは中々見つかりません!」
「そうですか? 家にゴロゴロしてますよ」
「「・・・・・」」
二人ともフリーズしちゃった、またやらかしたかな?
「ビオレータさん、あんな大きな金剛石がゴロゴロしていましたら、貧乏子爵領では有りませんわよ!」
シルフィーも頷いている。
しかし、金剛石は比較的簡単に造れるのだ!
空気中の二酸化炭素をかき集めて、分子構造操作して、小さめだけど此で良いか!
「そうかな?」
「コロコロ」
「「・・・・・」」
二人ともフリーズした後、フレイアさんが慎重に転がった物を摘まんで確認する。
「何処から出しましたの?」
迫力が凄い・・・
よし、誤魔化そう!
「何処からでしょう?」
「鑑定しましたが確かに本物です、しかも直前の魔法行使の兆候、しかしビオレータさんは何も触媒や素材はお持ちしていませんでした。
何の対価もなく行使出来るなら、此はもうカタストロフです!」
いつの間にか、フレイアさんは立ち上がり熱弁を奮っていた。
「フレイアさん、落ち着いて、周り、見てます」
シルフィーが小声で指摘して着席を施すと、フレイアさんは周りを見渡して真っ赤な顔で座り直した。
「ん~~と、フレイアさん、実は素材は見えないだけで存在しました。
これは錬金の一つで物質変換になります。
このスキルの習熟をする為に、私は錬金学科を受験したのです。」
「どういう事ですの?」
フレイアさんとシルフィーさんが真剣な顔で聞き入る。
「私の領地は大半が密林地帯か乾燥地帯で、土地も痩せ農業には適しません」
「そうですね、エプタ領での農業改革は至難の技でしょう」
「そこで目を付けたのが鉱業です。
調査の結果、錫・鉄と少量の銅ですが、一番の埋蔵量を誇るのがボーキサイトです!」
「・・・?、ボーキサイトとは何ですか?」
フレイアはシルフィーと顔を見合せ首を傾げる。
「端的にいいますと、ルビーとサファイアの素材です。」
「「えっ?」」
「ちょと待って下さい!
ビオレータさんの領地は、金剛石にルビー・サファイアと宝石の宝庫ではありませんか、何故に貧乏子爵なのですか?」
「あ、失礼しました。
前提条件を付け忘れていました、私の手が加わってです。
その為、領地の外には持ち出し禁止です。(国外には輸出していますけど!)」
「なるほど、合点がいきました。
ビオレータさんだけが造れても意味がないですもんね!」
私は頷く
「どういう意味ですか?」
「ビオレータさんは、鉱業を領地の産業として発展させたいのです。
それなのにビオレータさんだけにしか造れないのでは意味がありませんし、大量生産して市場を荒らしても損をするだけです。」
「あ、なるほど!」
「ではなぜ、いまそのスキルをわたくし達に披露したのでしょう?」
フレイアさんは首を傾げて質問をする。
「カタリーヌ先生の金剛石は、親友から格安で購入したそうです。
実はあれ、見覚えが有るんですよ!」
「なるほど、お友だち格安でですね!」
私とフレイアさんは、お互いにニコニコしながら頷いていると、シルフィーが訝しげな顔で睨み「二人だけで納得しないで下さい!」と拗ねていた。