第76話 正体
~梨々花視点~
アーサー様の配信が終わった。
今日も面白くて、配信を見ていた二時間ちょっと、あっという間に過ぎ去って行ってしまった。
「……わたしも、いつか凸する日がくるのなぁ」
もうじきデビューを控えた今、それより先の自分がどうなっているのかなんて全く想像も付かなかった。
でもその未来は、近い将来確実に訪れるわけで、わたしはその時の自分がどうなっているのか楽しみであり、同時に不安でもあった――。
今日も配信では、沢山の人が凸にきていた。
凸にきたどのライバーも、アーサー様のことを慕っていることが伝わってきた。
それがわたしにとっても、これまでずっと微笑ましく思えていた。
でも、何故だろう――。
今日の配信に対して……ううん、これは今だけじゃない、もうちょっと前からだろう。
わたしはアーサー様の配信を楽しみつつも、どこかモヤモヤとしている自分もいるのであった。
このモヤモヤとした感情の正体は、自分でもよく分からなかった。
それでも、アーサー様が他の女性ライバーと仲良くしているところを見る度、このモヤモヤとした感情は必ず込み上げてくる。
デビューが決まった時から――?
でもそれが理由だとするなら、こんな感情を抱いてしまう理由は何? やっぱり分からない――。
ずっと大好きなFIVE ELEMENTS。
その大好きの気持ちは、今も何一つ変わってなどいない。
それなのにわたしは、いつからかこの理由の分からないモヤモヤとした感情を抱いてしまうようになってしまっていた……。
ピコン――。
スマホの通知音が鳴る。
わたしはスマホを手にして、送られてきたメッセージを確認する。
『あと少しの辛抱だね。頑張ってね』
それは、彰からのメッセージだった。
今のわたしにとって、最も身近な存在。
そして最近では、お互いに下の名前で呼び合うようにもなった、今わたしが気になっている相手――。
そんな彰からメッセージが返ってくるだけで、わたしは心が躍るように嬉しさが込み上げてくる。
こんな感情、これまでの人生において一度も抱いたことなんてなかった。
人から好意を一方的に向けられることは、これまでに何度もあった。
でもこうして、自分が好意を抱く側に回るというのはこれが初めてだった。
そんな初めての経験で、わたしは分かったことが沢山ある。
こうしてただメッセージのやり取りをしているだけでも、こんなにも嬉しくなってしまうというのもその一つだと言えるだろう。
気になっている相手と、繋がっていられるという安心感――。
それが得られるだけで、こんなにも嬉しいものだとは思いもしなかった。
わたしは最初、そんな彰の中にアーサー様を見ていた。
でも最近では、アーサー様の中に彰を見ている自分がいる――。
――そっか、だからわたし……。
そこまで考えが至った時、何故わたしはアーサー様の配信を見て、モヤモヤとした感情を抱いてしまうのかその理由に気付く――。
――嫉妬、してたんだ……。
わたしはアーサー様の中に、彰を見ている――。
だからこそ、アーサー様が他の誰かと仲良くしている姿を見て、取られてしまったような焦る気持ちを勝手に抱いてしまっているのだと……。
そしてこの感情は、何もアーサー様の配信だけではなかった。
現実でも同じだったのだ。
メイド喫茶にオフ会でやってきた時、そして、この間の街でバッタリ偶然出会った時――。
その両方で、彰の側には他の女性がいた。
それを目の当たりにしたわたしは、胸にチクリとした痛みを感じたことを覚えている。
なんなら今だってそうだ。思い出すだけでチクリと痛みが走る――。
全員、綺麗な子達だった。
そんな、綺麗な子に囲まれている彰の姿を思い浮かべるだけで、何だか遠い存在のようにすら感じられてきてしまう……。
「これが、恋ってやつなのかな……ちょっと、辛いかも……」
あの中の誰かと、彰が付き合っているわけではないのは分かっている。
そのうえで、一番彰の近くにいるのは自分だとも思っている。
でも、この先もずっとそうなの――?
そんな不安だけは、決して拭い去ることはできなかった。
そして脳内では、アーサー様と女性メンバー達の姿が、そのまま彰と一緒にいた子達にスライドして置き換わっていく。
それはどこまでも自然に思えて、わたしの中のアーサー様と彰の存在が重なり合っていく――。
――彰が、アーサー様……。
実はこれまでも、何度か過ったことのあるその考え――。
でも、いくらなんでもそんな偶然あるはずがないと、わたしはこれまでずっと否定し続けてきた。
しかし、日に日に重なっていくアーサー様と彰の存在――。
ただのファンの妄想と言えば、それまでだろう。
それでもわたしは、もう彰の中にアーサー様を見てしまっているし、アーサー様の中に彰を見てしまっているのだ。
わたしは、手にしたスマホで文字を打ち込む――。
『ねぇ、彰って』
そこまで文字を打ったところで、わたしの指はピタリと止まる。
――これを聞いて、どうするの?
自問自答が生まれる。
これより先の言葉を、こんな簡単に聞いてしまって本当にいいのだろうかと、自分の中で葛藤が生まれる――。
そしてわたしの出した答えは、まだ何も聞かないだった。
どうせ聞いても答えてくれないだろうし、きっと遠からず分かることだろうから――。
でも、もしそうだとしたら……わたしはどうするのだろう……?
わたしの中の、好きと好きが重なり合っていく――。
「そんなの……絶対無理だよ……」
一気に込み上げてくる感情により、わたしの胸はすぐに張り裂けそうになってしまうのであった――。
さぁ、運命のデビューライブへいきましょうか――。




