第46話 学食
次の日。
俺はいつもどおり大学へやってきて、そしてまたいつも通り講義を受けている。
隣には、今日も藍沢さんの姿。
昨日は一緒に映画を観に行ったわけだけれど、昨日の今日で何か変わるわけでもなく、簡単に言えば俺達は相変わらずの仲良しっぷりだった。
そして、午前最後の講義が終わって昼休みの時間となる。
この昼休みだけは、藍沢さんは女友達のみんなと一緒に昼を済ませているため、俺はいつもどおり一人で昼食を済ませるためいつもの学食へと向かうことにした。
ギュッ――。
しかし、そんな俺のTシャツを突然後ろから掴まれる。
驚いた俺が振り返ると、それは他でもない藍沢さんの仕業だった。
「あ、藍沢さんっ!?」
「待って! わ、わたしも一緒に行く!」
「えぇ!?」
一緒に行くって、どこに!?
「それじゃ梨々花ー、わたしら行くねー」
すると、今度はいつも藍沢さんとご飯を食べているみんながこちらへ声をかけてくる。
その表情は全てを分かっているようで、何やら含みを帯びている感じだった。
そして藍沢さんも、彼女達に手を振って応じており、どうやら藍沢さんも今日は彼女達と一緒にお昼を過ごすわけではなさそうだった。
「じゃ、行こっか桐生くん!」
「い、行こうってどこに?」
「そりゃもちろん、お昼だよ」
満面の笑みを浮かべながら、さも当然のように答える藍沢さん。
そんな俺達のやり取りは周囲にも聞こえていたようで、教室に残っていた人達が驚いてこっちを見てきている。
「え? でも、いつもさっきのみんなと……」
「いいの! さ、行くよ!」
そう言って、今度は俺の背中を押してくる藍沢さん。
こうして俺は流されるまま、今日は藍沢さんと一緒に昼食を取ることとなったのであった。
◇
「わたしここの学食初めてきたー! 桐生くんのオススメはどれかなー?」
メニューを眺めながら、藍沢さんが楽しそうに話しかけてくる。
普段この学食へは来ることのない藍沢さんは、当然のように周囲の注目を集めていた。
なんなら学食のおばちゃんまでも、そんな藍沢さんの姿を物珍しそうに見ているほど、この場において目立った特別な存在なのであった。
「あー、えっと、ここのカレーとか美味しいかな」
「ふーん、それで桐生くんはどれにするの?」
「俺はそうだなぁ……今日は豚の生姜焼き定食にしようかなぁ」
そう言って俺は、食券機にある豚の生姜焼き定食のボタンを押した。
ちなみに、さも今決めたみたいに言ったけどそれは嘘だ。
俺は今日の朝から、ここの豚の生姜焼きを食べると決めていたのである。
なんなら、これを食べるために今日ここへ来たと言っても過言ではない。
ここの生姜焼きは、リーズナブルながらも結構肉厚で、なにより生姜の効いたここの味付けは最高なのだ。
すると藍沢さんも、俺を真似て隣の食券機へお金を投入する。
「なるほど、じゃあわたしもそれにするー!」
そして藍沢さんも、俺と同じ豚の生姜焼き定食の食券ボタンを押すのであった。
「えへへ、これでお揃い!」
食券を俺に見せながら、嬉しそうに微笑む藍沢さん。
そんな仕草も表情も可愛くて、俺の鼓動はどんどん早まっていく――。
「桐生くん?」
「ああ、ごめん! じゃ、並ぼうか!」
気を取り直して食堂の列に並ぶと、無事食堂のおばちゃんから豚の生姜焼き定食を受け取った。
そして空いているテーブル席に向かい合わせに腰掛けると、今日は一人ではなく本当に藍沢さんと一緒に昼食を取ることとなった。
「うん! 美味しいね! これ本当に学食?」
「でしょ? 他のはイマイチなのもあるんだけど、これとカレーと、あとナポリタンは異様に美味しいんだよね」
「えー、だったらみんなにも教えてあげないとだね!」
驚きながら、美味しそうに豚の生姜焼きを口へと運ぶ藍沢さん。
そんな楽しそうに食事する姿も可愛くて、やはりここでも周囲の注目を集めているのであった。
そして――。
「あれー? 君たしか一年の子だよね?」
こちらを見ていた野次馬の一組がこちらへやってきたかと思うと、いきなり藍沢さんに声をかけてきたのである。
上級生であろう男三人組で、同性である俺から見てもイケメンだと思える人達。
その中の一人が、爽やかスマイルを浮かべながら学内だというのに堂々と声をかけてきたのである。
しかも、向かいの席には俺がいるというのに、かなり図太い神経をしているようだ。
藍沢さんも困っているに違いない。
それに、一応今は俺が藍沢さんと連れ添っているのだ。
だからここは、男として言うべきことはしっかりと言うべきだろうと思い立ち上がったその時だった――。
「あ、そうだ! 桐生くん! この間の映画楽しかったね!」
「え? あぁ、うん」
「また絶対《《一緒に》》行こうね!」
「うん、こちらこそ?」
声をかけてきた三人組など、全く視界に入れない藍沢さん。
しかし、『一緒に』という言葉を強調した喋り方で、明らかに藍沢さんは三人をけん制しているのであった。
「あの、ちょっと……」
たじろぎつつも、再び声をかけてくる男。
しかし、その言葉すらも全く取り合おうとしない藍沢さんに、さすがの図太さもポッキリと折れてしまったようだ。
はっきりと態度で示す藍沢さんを諦めて、恥ずかしそうに食堂から足早に去って行く。
「……ふぅ、ごめんね桐生くん。こういうのたまにあるんだよね」
「ああ、いや、無事なら何も……」
こうして、助けようと思ったものの、自分で全て何とかしてしまった藍沢さん。
どうやら今回に限らず、さっきみたいに声をかけられることがあるようだ。
それもそのはず、藍沢さんはこの大学でも一番の美女。
今も周囲の視線を集めてしまっているように、この大学内では有名人なのだ。
そんな藍沢さんと俺は、今こうして二人一緒に昼食を取っているのだから、これがどういうことか俺も本質的に理解するのであった。
「……にしても、ここでも見て来てるなぁ」
「え?」
「ああ、ううん。こっちの話だよあははー」
笑って誤魔化す藍沢さん。
しかし、さっきはあれだけ無視を決め込んでいたのに、どうして周囲を警戒していたのか謎だった――。
まぁそれでも、おかげでそれ以降は誰も近付いてくる人が現れることなく、楽しく昼食を済ますことができたのであった。
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