第33話 呼び出し
続けて藍沢さんから、スマホにメッセージが届く。
『通路の方見て!』
そのメッセージに驚いて顔を上げると、通路の所でこちらに向かって手招きする藍沢さんの姿があった。
つまり、あとは直接話でケリを付けようということだろう……。
「ご、ごめん、俺ちょっとトイレ行ってくるよ」
だから俺は、それに従って慌てて席を立ち上がった。
正直、この状態で藍沢さんに会うのも気が重いのだが、それでも藍沢さんの考えのとおり、直接二人きりで話した方が良いように思えた。
◇
「桐生くん、どういうこと?」
待っていた藍沢さんに、俺は人気のない奥の通路へと連れていかれる。
そして、二人きりで向かい合う形で問い詰められる。
ただそれは、俺が今ここにいる理由を聞いているのだろうか、それとも、今一緒にいる三人についてだろうか――いや、きっとその両方だろう。
だから俺は、答えられないことは伏せつつ、その質問に答えるしかなかった。
「あー、なんていうか、その……オフ会的な?」
「オ、オフ会!?」
「そ、そう! 前に一緒にやったFPSゲームのオフ会!」
うん、我ながら苦しいな……。
ただ、今の俺に言えるのはもうそれしかなかった。
クリスはともかく、紅羽と穂香の二人は同じFPSゲームをやっているし、FIVE ELEMENTSだってある意味ネット上で活動しているわけだから、別にこれは嘘ではない……はずだ。
「あんな美人が、FPSってやるものなの?」
しかし、そう言って疑っている様子の藍沢さん。
その客観的意見は、イメージ的には間違っていないのかもしれない。
俺から見ても、三人ともゲームをやってそうには見えないからだ。
でも、それを言うなら俺にだって言いたいことがある。
「いや、それを言うなら藍沢さんだってやってるでしょ?」
「え?」
「俺は藍沢さんも、三人に負けないぐらい美人だって思ってるから」
決してこれは、この場を逃れたいからではない。
それを言うなら藍沢さんだって同じだよと、俺は素直に思っているままを答えた。
すると藍沢さんの頬が、見る見るうちに赤く染まっていくのが分かった。
「……バカ。そ、それ言われたらもう何も言えないし……」
「あ、ご、ごめん……」
「……もう、オフ会なのは分かったよ。それじゃあ、なんでここにいるの?」
どうやら、オフ会だというのは飲み込んで貰えたようだ。
だから次の問題である、どうしてこのお店にいるのかについて聞いてくる。
だが、これには元々明確な理由がある。
「いや、それは俺も止めようと思ったんだけどさ、あのハーフの子いるでしょ? 彼女が、どうしても今日ここに来たいって煩くて……」
そう、全てはクリスのごり押しが理由なのだ。
まぁ、クリスだけでなく他の二人もだけど、ここはややこしくなるからクリス一人のせいにしておこう――。
「ど、どうしてそんな話になるわけ?」
「あー、その、あいつイラストを描いてるんだけど、今日はその資料にメイドさんを知りたかったらしくてさ」
「そ、そう……」
藍沢さんの質問に対して、俺が即答できていることが良かったのだろうか。
徐々に藍沢さんもトーンダウンしていく。
だから俺も、一つ質問してみることにした。
「でも、まさか今日藍沢さんがいるとは思わなかったよ。夜のFIVE ELEMENTSのオフコラボ配信見るから、シフト変わって貰ったって言ってたから」
「あ、それはそのとおりだよ。昼と夜のシフト変わって貰ったから」
あ、なるほど……。
その返事に、俺は自分の間抜けさを痛感した……。
「それで桐生くんは、あの三人のこと、その、どう思ってるの……?」
「え、どうって……?」
「ね、狙ってる子とかいるの!?」
意味が分かっていない俺に、思い切った様子で尋ねてくる藍沢さん。
そのダイレクトな言葉で、ようやく何を聞いてきているのか分かった俺は、慌ててそれを否定する。
「ないない! 本当にただの友達だから!」
「ほ、本当!?」
「本当です! 何より、俺以上に他の三人の方が、俺なんかを相手に絶対ないと思うよ!」
言っててちょっと虚しくなるが、今言ったとおりなのだ。
俺はもちろん、他の三人が俺のことをそんな目で見るなんてあり得ない。
何故なら俺達は、FIVE ELEMENTSの仲間なのだから。
「そんなことはないと思うけど、桐生くんって自己評価低めだよね……」
「え? そ、そうかな?」
「うん、まぁ分かったよ。桐生くんが嘘言ってる感じもしないし、この場はとりあえず信用します」
「あ、ありがとう……」
そんなわけで、色々と藍沢さんの疑いは晴れたようだった。
「じゃ、じゃあそろそろ席に戻らないと、変に思われちゃうから」
「あ、ああ、うん」
こうして、藍沢さんに呼び出された時はドキッとしたものの、無事難なく話を終えられそうだった。
しかし――、
「ま、待って桐生くん!」
急に呼び止めてくる藍沢さん。
まだ何かありますでしょうかと、俺は恐る恐る振り返る――。
「その……ど、どうかな?」
「どうかなって?」
「だから、この……衣装……」
そう言って藍沢さんは、恥ずかしそうに頬を赤らめながら、自分のスカートの裾を指でちょこんと摘まむ。
その改めて見るメイド服姿に、可愛い仕草。
俺の頬は徐々に熱くなっていくとともに、自然とその姿に見惚れてしまっていた――。
大学では、一番の美人として名高い藍沢さん。
だけど今は、そのモデルのような体系にフリフリのメイド服はとても良く似合っており、正直他のメイドさんが霞んで見えてしまうほど完璧に可愛かった。
「……す、すごく可愛いと思います」
「そ、そっか……なら、良かったです……」
何とも言えない間が生まれるも、俺は今度こそ席へと戻る。
――さ、さっきのは、何だったんだ!?
あり得ないほどの破壊力だった――。
その結果、俺の頭の中はしばらく藍沢さんのことでいっぱいになってしまったのであった――。
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