第19話 面接
週末がやってきた。
つまりは、藍沢さんのVtuberオーディション当日である。
俺は藍沢さんに秘密で、今回のオーディションについて調べてみた。
FIVE ELEMENTSの妹分アイドルグループ『DEVIL's LIP』のオーディション。
コンセプトは、五人の悪魔っ子による新生アイドルグループなのだそうだ。
この世界へやってきた紅カノンに仕える悪魔達が、カノンの命令によりアイドルをすることになってしまった五人。
既にそれぞれのキャラデザやLIVE 2Dは用意されており、要するにすぐにでも配信を始められる準備が整っているらしい。
今回は女性オンリーのグループということもあり、運営もよりアイドル性を高めたグループにしたいと力を入れているようだ。
そのため、起用されているイラストレーターやLIVE 2Dの作成者は、そのどれもがこの界隈では有名な顔ぶれが揃っていた。
そんな、これから始動するDEVIL's LIPに魂を吹き込むための今回のオーディション。
どうやら千人近くの応募があり、今回のオーディションはその中から選ばれた五十人を面接形式で選別するようだ。
つまりは、けろっと藍沢さんは面接まで進んだと喜んでいたのだが、実はその時点で全体の五パーセントぐらいの狭き門をくぐり抜けていたことになる。
まだ配信経験もない藍沢さんだけど、恐らく既に配信経験のある人達の応募がほとんどであろう中、一体どんなボイスを送って審査を突破したのか物凄く気になってくる――。
とまぁ、そんな今回のオーディション。
面接の五十人に残れただけでも凄いのだが、ここから更に十人に一人の狭き門が待っているのだ。
そんな、ほんの一握りしか通過できない今回のオーディションに、俺はこれからできる後輩が楽しみな反面、藍沢さんが無事通過できるかどうか心配で仕方ないのであった――。
◇
「次の方、どうぞー」
わたしの名前は、早瀬瞳。
普段は、FIVE ELEMENTSの飛竜アーサーと鬼龍院ハヤトのマネージャーをしており、現在はそのFIVE ELEMENTSの妹分であるDEVIL’s LIPの面接を行っている。
何故かと言えば、それはわたしが今後デビューするDEVIL's LIPの一人のマネージャーも務めなければならないからだ。
正直に言えば、今でも二人のマネージャーをしているのだから余裕はない。
それでも、こうして引き受けた理由はたった一つ。この仕事にやりがいを感じているからだ。
Vtuberという、まだ成長段階と言える新たなコンテンツ。
けれど、よりファンとの距離感が近く、生身でないが故の魅力溢れるこのVtuberというコンテンツが、わたしは単純に好きなのだ。
だからこそ、いつも配信などを頑張っているVtuberタレントのことを裏で支えながら、一緒に同じ目標に向かって取り組んでいけるこの仕事は、まさに天職と呼べるほどやりがいを感じられるのであった。
そして今回は、今後わが社の命運を分けると言っても過言ではない、妹分アイドルグループのメンバーオーディションなのだ。
マネージャー代表で選ばれたわたしの他には、企画部長に営業部長。
更には、FIVE ELEMENTSを生み出した社長までもが同席しており、それだけ今回のオーディションには会社を上げて力を入れていることが窺えた。
――でも、ここまでは正直難しいわね……。
既に十人ほど面接を終えているのだが、正直に言ってしまえばどの子も可もなく不可もなくだった。
誰を選んでも上手くやってくれるだろう。
でも、それだけなのだ。
元々FIVE ELEMENTSという、強烈な個性の塊をプロデュースしてきたわが社にとって、その可もなく不可もなくぐらいの印象では無個性と変わりがなく感じられてしまうのだ。
そう感じているのは、どうやらわたしだけではないようだ。
社長の苦笑いが、全てを表していた。
そして、少し重たい空気の中、次の面接者がやってくる。
「し、失礼しますっ!」
他の子に比べ、一段と大きな声と共に入ってきた一人の女の子。
その子を一目見て感じた印象は、何て言うか今時の女の子だった。
金色に染めた髪に、今日の為に選んできたのであろう流行のデザインをしたトップスにスカート。
ちなみに今回の面接だけれど、その子の人となりも知りたいという理由で、必ず私服で来るようにオーダーをしているのだ。
そういう意味では、彼女の色というのは他の子より分かりやすかった。
――ギャルっぽいキャラなら、ちょうどいいかも。
だからわたしは、彼女を見てまずはそんなことを考える。
これまでの子に比べ、色がハッキリとしている分、ビジョンが思い浮かびやすかったのだ。
でもそれは、第一印象からの判断に過ぎない。
Vtuberとは、生身で売り出すものではないのだ。重要なのは、外見ではなく内面――。
――それにしてもこの子、Vtuberとは言わずに、普通にアイドルとかで売り出しても通用しそうね。
同性のわたしから見ても、物凄い美少女なのだ。
そんな美少女が、何故このオーディションに受けにきたのか、そんなこともちょっと気になってしまうのであった。
「は、はじめましてっ! あ、藍沢梨々花と申しますっ!」
「はい、よろしくお願いします。そんなに緊張しなくても大丈夫だからね」
「ひゃい!」
「あはは。じゃあまずは、我々の方も自己紹介させてもらうね。私が社長の――」
こうして社長から順に、こちらも自己紹介する。
すると彼女は、この場に偉い人が集まっていることに、分かりやすく目を泳がせていた。
そんな反応は初々しくて、彼女には申し訳ないけれどちょっと笑えてきてしまう。
――でも、こうして自然と周りを和ませられるっていうのは、良い素質よね。
「えっと、あなたの送ってくれたのは――あー、君が」
そして資料に目を落とした社長が、何かに納得する。
今回面接へ進んだ人達のボイスデータは、今回面接を担当する人達には事前に共有されており、そのボイスは全てチェックして今日に臨んでいる。
だからわたしも、事前に合いそうなボイスをいくつかチョイスしていたのだが、資料を見てわたしは社長と同じく納得する。
――あー、この子、このボイスの子だったのね。
資料には、手書きで書かれた二重丸。
そう、わたしが事前にチェックした中では、この子のボイスには一番可能性を感じたのである。
そしてそれは、わたしに限らず他の方々も何かしら評価をしていたようで、わたし達はアイコンタクトを交わして微笑み合う。
「では、面接を始めさせていただきます。まず初めに――」
こうして、彼女に対して面接が行われることとなった。
面接する側の全員が、同じ確信を抱きながら――。
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