第136話 マネージャー
暫くBBQを楽しむと、もう食事はいいのかみんなはそのまま海へ遊びに行ってしまった。
別荘を出てすぐのところにビーチが広がっているため、行き来は自由といった感じだ。
結果、別荘にはマネージャーさん達三人と俺とハヤトだけとなる。
ネクロも海なんて行きたくないと駄々をこねていたのだが、それを許さないアユムに手を引かれながら半ば強引に海へと連行されていった。
まぁここは、女性陣だけで楽しんで貰おうということで、残った俺が今何をしているのかといえば……大人の話し相手である。
「アーサーもさ、もうちょっと女心ってもんを学びなさい」
「あーそれ分かりますー、まぁそういうところもアーサーくんの魅力ではあるんですけどねぇー」
「そうですよ、大人にはいずれみんななるんですから。わたしはまだ、子供のままいて欲しいですよ」
早瀬さんの言葉に、他のマネージャーさん二人も笑って乗っかる。
三人とも昼間からワインを楽しんでおり、もう飲み始めて一時間以上経っているためすっかり酔いは回ってしまっている様子だった。
ちなみに早瀬さんは、黒に模様の入った水着を着ており、その腰には水色のパレオを巻いている。
黒髪のロングヘア―をアップに纏めており、普段のバリバリのキャリアウーマン感とは違う大人っぽい色気が感じられる。
他の二人にしても同じで、普段のマネージャーとして会う時とは異なり、今はオフの大人の色気みたいなものがしっかりと感じられた。
ちなみにハヤトはというと、洗い物をしてくるよと言って早々に中へと避難している。
つまりここには、酔った大人の女性三人に囲まれるシラフの男一人という、割と最悪な状況に陥っているのであった……。
「女心、ですか……」
「そうよ? この無自覚たらしめ」
「む、無自覚たらし!?」
「あら、自覚なかった?」
「あー、それ分かりますぅー」
「否定はできませんね」
早瀬さんの言う無自覚たらしというワードに、他の二人も笑って同意する。
つまり俺は、客観的に見てその無自覚たらしというやつなのだろう。
「……それ、悪い意味じゃないですよね?」
「んー、そうね。別に悪くはないけど、良くもないわよね」
「ど、どっちなんですか……」
「そうね、他の誰かじゃなくて、まずは自分自身がどうなりたいかを考えなさい」
「ど、どういう意味ですか?」
「ここから先は、自分で気付くべきことよ」
そう言って、ウインクをする早瀬さん。
よく分かっていないものの、早瀬さんがそう言うならきっとそういうことなのだろう。
信頼する早瀬さんの言葉だからこそ、ここは素直に受け止めることにした。
――自分自身がどうなりたいか、か。
もちろんそれは、異性との向き合い方の意味で言っているのだろう。
思えば、俺は確かにそういう面に関して疎い自覚はある。
これまで誰とも付き合ったことはないし、どうしたら良いのか分からないというのが大きい。
それでも、周りには女性が多いこともあり、自分の中でも整理しきれていない部分があるというのは確かなのだ。
Vtuberとしてだけではなく、同じ大学へ通うリリスに対してもそうだ。
同級生であり、仲間であり、そして親友でもあるリリス。
じゃあ、そんなリリスと今後どう在りたいのかと言えば――正直、自分でもよく分かっていない。
そういう自分の中の分かっていないことを、早瀬さんにはきっと見透かされてしまっているのだろう。
俺はリリスやみんなと、どう在りたいのか――。
それは、無意識に考えないように避けていたことなのかもしれない。
だからこそ、自分自身がどうなりたいのかという言葉は自分に刺さるものがあったのだと気付く。
もちろん、今すぐ答えなんて出ない。
ただ、これまでのように人と向き合うことだけでなく、これからは自分とも向き合ってみようと思える良いキッカケになった。
「あっれー? アーサーくん何か考え事かなー?」
「もう、やめないさいよ。良いじゃない青春って感じで」
「うふふ、どう? アーサーも一緒にワイン飲まない?」
「いや、自分まだ未成年ですよ!」
担当マネージャーが何を言ってるんだと思いながらも、この酔っ払い三人の相手をするのも悪くはなかった。
普段はマネージャーとして自分達の活動を支えてくれているからこそ、こうしてオフの場面で会話出来ることが素直に嬉しいのだ。
だから今日は、三人には沢山羽を伸ばして貰えたらいいなと思う。
「じゃあ、代わりに自分が皆さんのお酒を注ぎますよ」
「えー、いいのー?」
「あら、いいんですか?」
「はい、皆さんには日頃から沢山お世話になってますから。いつも俺達の活動を支えてくれて、本当にありがとうございます」
俺はそう笑いかけながら、三人の空いたワイングラスにワインを注ぐ。
「……やっぱりアーサーくんってさぁ」
「……ええ」
「ふふ、無自覚たらしよね」
マネージャーさん達三人は、顔を見合わせるとおかしそうに笑い合う。
どうやら俺は、無自覚たらしであることは決定事項なようだった。




