第134話 BBQスタート
水着に着替えた俺達は、再びみんなの元へと戻る。
着替えにはそれ程時間は掛かっていないけれどこの人数だ。
みんなで手分けして準備を進めてくれていたようで、もうあとは焼くだけといった感じだった。
「あ、来た来た! 始めよ!」
真っ先に気付いたリリスが、俺達を出迎えてくれる。
その言葉に応じて、全員の顔がこちらへと向けられる。
外には十人を超える女性達。
それが一斉にこっちを向いてくるというのは、仲間内とはいえ何とも言えない圧みたいなものを感じてしまう……。
すると、ツツツとリリスが俺の元へ寄ってきてそっと耳打ちをする。
「良かった、ちゃんとこの前買ったやつだねっ」
俺達だけにしか分からない、二人だけの秘密。
周囲にはみんながいる中で、そんな秘密の共有が嬉しいような、ドキドキするような、完全に意識してしまっている自分がいた。
悪戯にペロリと舌を出したリリスは、それから何事もなかったようにメンバーの輪へと加わっていく。
しかし俺は、確実にそんなリリスのことを意識してしまう。
「アーサー? どうかした?」
そんな俺に気付いたネクロが、不思議そうに近付いてくる。
みんなそれぞれ準備をしているが、やはりネクロは当然のように何もしていない。
駄目なのだが、何もしていないことに安心する自分がいた。
「いや、何でもないよ」
「そう? ぼーっとしてたから」
心配してくれているのだろうか。
思えばネクロと会うのは、この間熱を出した時以来だ。
すっかり元通りのようだが、元気かどうかというとネクロの絶好調自体よく分からないところがある。
「その後は体調どうだ?」
「見てのとおり、絶好調だよ」
俺の言葉に、ネクロは腕を曲げて力こぶと作りながら絶好調という。
しかし、白くて細いその綺麗な腕には、残念ながら全くこぶなんて全く出来てはいなかった。
そんな、相変わらず絶好調がよく分からないネクロだが、まぁ本人は楽しそうにしているしきっと大丈夫だろう。
「なになに、二人して」
「そうよ、混ぜなさいよ」
「ははは、じゃあ僕も」
そこへ、アユム、カノン、そしてハヤトの三人も集まってくる。
こうして意図せずFIVE ELEMENTS大集合なわけだが、今日はDEVIL's LIPのみんなと親睦を深めることが目的の一つ。
俺達だけで集まっていても仕方ないんだが……そう思っていると、こちらへ集まる視線。
振り向くとそれは、DEVIL's LIPのみんなから向けられたものだった。
向こうからしてみても同じなのだ。
いや、何なら向こうの方が、今日の親睦を深めるということを強く意識しているだろう。
だからこそ、近付きたいけれど近付けないでいるといった感じが伝わってくる。
それはリリスも同じで、大学ではあれだけ社交性の塊みたいな感じなのに、こんな風に控え目になってしまっているのはちょっと意外だった。
それぞれ繋がりのあるメンバーは出来ているが、互いに五人全員と打ち解け切れているわけではないのだ。
なんなら俺に至っては、リリス以外はほとんどまだ会話すらしたことがない。
そして、そんな俺達のことを離れた場所で、マネージャーさん達三人は楽しそうに眺めている。
先に自分達の分だけ焼いた肉を頬張りながら、三人とも今日は休日を楽しむ気満々といった感じだ。
そんなわけで、この微妙な空気。
一体どうしたものかと思っていると、やはりここでも最初に動くのはハヤトだった。
「じゃ、僕がどんどん焼いてっちゃうから、みんなとりあえずBBQを楽しもうよ」
まるで、この場の最適解のようなその一言。
全員頷くと、それぞれ食材を持って行ったりお皿を配ったり、グループ関係なく協力し合う。
そんなやり取りが、徐々にグループ間の緊張みたいなものを和らげていき打ち解けていく。
とは言いつつ、まぁ俺は男メンバーだし、ここは一旦ハヤトと一緒に焼きに徹しているわけだけれど、ゆくゆくはDEVIL's LIPの他のメンバーともコラボできたらいいなと思う。
「あ、あのぅ! アーサーさんっ!!」
「へっ?」
考え事をしていたところに、急に声をかけられる。
思わず変な声を発しつつ振り向くと、そこには鈴原レイア――ではなく、ミリアの姿があった。
鈴原レイアと言えば、元超が付く程の有名子役。
高視聴率を記録したドラマに何度も出演していた、奇跡の子と呼ばれたほどの可愛らしい女の子だ。
今ではすっかり成長してしまっているが、それでも面影も残っているというか、俺からしてみれば何度もテレビ越しに見ていた普通に有名人であり、美少女だった。
そんな彼女が、俺に対して緊張した様子で声をかけてきているのだ。
先輩ながらも、俺もどう反応していいのか分からなかった。
「そ、そのっ! わ、わたしアーサーさんに憧れて、この世界に来たんですっ!!」
「お、俺に!?」
「はいっ! デビュー配信から追ってます!!」
そ、そうだったのか……。
でもたしかに、以前配信でもそんなこと言ってたよな……。
俺からすれば、むしろミリアちゃんこそ有名人であって、そんな人から追ってますと言われることには違和感しかないのだが、そう言って貰えるのは素直に嬉しいことだった。
「そっか、ありがとう」
だから俺は、ひとまず感謝を伝える。
ファンは誰であろうと、全員大切だから。
「……うれしい」
「え?」
「わたし、今最高にうれしいですっ!!」
その結果、ミリアは感情を爆発させるように、物凄くオーバーに喜びを露わにするのであった。
それは、俺の抱いていた鈴原レイア像とは大きく異なるものの、彼女が本当に俺のファンであることだけはしっかりと伝わってくるのであった――。




