第132話 別荘に到着
「ここだよ」
そう言ってハヤトが駐車したのは、とある別荘の駐車場だった。
今ではもう慣れてきたものの、高級スポーツカーの乗り心地は物凄くて、何て言うかここへ来るまでが一つのアトラクションのようだった。
まぁそんな話は置いておいて、連れられてきた別荘も凄かった。
海にほど近いところに建てられた、所謂アーバンチックな外観。
思っていたよりも大きく、人数は多いものの確かにここなら十分だろうと思えた。
普段は予約制での貸し出しもしているとのことで、別荘自体にもプールが備わっており、何だかセレブ向けを思わせるほど豪華な別荘だった……。
「す、すごいな……」
「あはは、まぁ高かったからね」
「そんなレベルじゃないだろ……?」
「でも、貸し出しである程度は回収できてるし、こうしてみんなで過ごすキッカケにもなってるんだから安いものだよ」
そう言ってハヤトは笑うが、そういうレベルには到底思えなかった……。
そんなハヤトの計り知れなさを感じつつも、車から降りた俺達は荷物を中へと運び込む。
そうこうしていると、俺達から少し遅れて他の三台も到着し、みんなも車から降りてきた。
「え、すごっ!?」
「ここですか!?」
主にDEVIL's LIPの面々、そしてマネージャーさん達が別荘を見て驚いていた。
そんな、俺と同じ庶民感覚の反応に、勝手にほっとしている自分がいた。
みんなで車から荷物を下ろすと、そのまま別荘の中へと入っていく。
二階建てで、中は広いリビングといくつかの個室。
そして、リビングの大きな窓の向こうには、備え付けのプールが見え、更にその奥には海辺が広がり、そのままその海辺へと向かえるような作りになっていた。
その広がる光景を前に、みんなうわぁと声を漏らしていた。
それぐらい、開放感に溢れたこの別荘はワクワクしてくるものがあった。
「部屋にはベッドが用意されているから、自由に使ってね。男子部屋は、一階の一番右の部屋でよろしくね」
慣れた様子で、道中スーパーに寄ってみんなで買ってきた食材や飲み物を冷蔵庫へしまいながら、ハヤトがみんなへ伝える。
それぞれ荷物もあるため、その言葉に応じて女性陣は楽しそうに部屋ごとに分かれて行った。
「しかし、マジで広いのな」
俺もハヤトを手伝いながら、率直な感想を伝える。
「そうだね、結構人気なんだよ」
「そりゃそうだろうな」
「本当は予約も難しいんだけどね、今日のために空けておいたんだ」
どうやらハヤトは、もっと早い段階から今日のことを考えてくれていたようだ。
その気持ちが嬉しくて、改めて今日という場を作ってくれたハヤトに感謝を伝える。
そうこうしていると、みんなも再びリビングへと集まってきたため、そのまま手分けをしながら早速BBQの準備をすることとなった。
BBQは、リビングから出たプール脇に焼き台が設置されており、どうやら炭も備え付けで用意してくれているようだった。
普段は管理会社に任せているとのことで、基本的に食材のみ用意すれば十分なのだそうだ。
そんなわけで、ここは俺とハヤトの男二人で火起こしを担当することにした。
外は最高の快晴で、海から流れてくる潮風と聞こえてくる波音が心地いい――。
この開放感は、控えめに言って最高の一言だった。
「ねぇ、せっかくだから着替えたくない?」
「それ、言おうと思った。ねぇ、いいですよね?」
「そうね、せっかくこんなに開放的なんだしね」
カノンとアユムが、マネージャーの早瀬さんの許可を窺う。
それを受けて早瀬さんは、OKを出しながらハヤトにアイコンタクトを送ってくる。
もちろんハヤトもOKすると、手分けしてあっという間に食材の準備を終えた女性陣は再び部屋へと戻って行くのであった。
「着替えるって、そういうことだよな……」
「あはは、そうだね! 何だか、ファンのみんなには悪いことをしている気分になってくるね」
唯一の男仲間であるハヤトは、さほど気にする素振りも見せずに笑う。
そんなハヤトを前に、俺はこれが経験の差なのかと痛感しながらも、ただドキドキを隠しながら火と向き合うしかなかった――。
「二人とも、お待たせ!」
そして最初にやってきたのは、FIVE ELEMENTSのメンバーだった。
カノン、アユム、そしてネクロの三人が、それぞれ水着姿になって戻ってきたのである。
カノンは黒のビキニで、上から薄手の白のパーカーを羽織っている。
元々優れたスタイルも相まって、それだけでまるでグラビアの撮影を思わせる完璧さがあった。
そしてアユムは、同じく白のビキニタイプの水着を着ており、その上からクリーム色のTシャツを着ていた。
何て言うか、それでも元々大きい胸が強調されているというか、Tシャツから少し透けているというか、完全に目のやり場に困ってしまうような破壊力があった……。
最後にネクロだが、こちらはビキニではなくワンピースタイプの水着を着ており、それはそれでよく似合っていた。
ピンクをベースにしたチェックのデザインで、ネクロのイメージにはなかったもののしっくりくるような可愛さが合った。
陽射し除けに、カノンと同じく水色のパーカーを羽織りつつ大き目の麦わら帽子も被っており、少し恥ずかしそうにモジモジしているのはちょっと新鮮味があった。
「三人とも、よく似合ってるね」
そんな三人に向かって、ハヤトは笑ってそうお褒めの言葉を投げかける。
そのハヤトの言葉に、三人は嬉しそうに微笑んできた。
そして三人の次の注目は、当然俺へと向けられる。
三人とも、次は俺の感想を待ち侘びているのだろう。
だから俺も、ハヤトを見習って三人に声をかける。
「えーっと、その……三人とも、とても良いと思います……」
しかし、ハヤトのようにスマートに伝えるには、まだまだ経験値が足りなかった……。
それでも三人は、ハヤトの時と同じく……いや、何だったらさっきより嬉しそうに微笑みながら、三人で少しおかしそうに笑い合っているのであった。




