第131話 全員集合
「ごめんなさい! 遅れました!!」
駅の改札口から、梨々花が慌てて駆け寄ってくる。
本当に急いできたようで、少し息を切らせていた。
とは言っても、まだ集合時間前だ。
きっとDEVIL's LIPのみんなで早く来ようという話をしていたのだろう、梨々花にとってはそれでも遅刻ということなのだろう。
「忘れ物しちゃって、慌てて取りに帰って」
「それなら仕方ないよ」
「そう、仕方ない」
「大丈夫だよ」
「まぁ、そうね」
そんな梨々花に、レナ、ツクシ、アール、ミリアの四人が駆け寄る。
きっと四人とも、遅れていた梨々花のことを気にかけていたのだろう。
「みんな、ありがとう!」
そして梨々花ことリリスも、そんなみんなに向かって嬉しそうに微笑む。
前にこの五人に会ったのは、彼女達のデビューライブの日。
あの時に比べて、彼女達の結束力というか、繋がりはより強いものになっているように思えた。
それは他でもない、彼女達が向け合っている微笑みが全てを物語っていた。
「っていうか、え!? 何あの車!?」
そしてリリスは、停まっているハヤトのスポーツカーに気付いて驚く。
窓からのぞく顔がハヤトだと気が付くと、リリスは慌ててハヤトの元へと駆け寄る。
「え、うそ!? これ、ハヤトくんの車なんですか!?」
「うん、そうだよ」
「え、ウソ!! 凄い!!」
笑って答えるハヤトに、大はしゃぎするリリス。
その様子が、俺はちょっとだけ気になってしまう。
しかしリリスは、もう完全にハヤトの方に夢中だった。
「そんなに気になるなら、一回乗ってみる?」
「え、いいんですか!?」
「うん、どうぞ」
そんなハヤトの提案により、車の助手席の扉が軽く開けられる。
そのやり取りを見て、俺はやっぱり何だかモヤッとした気持ちを抱いてしまう。
なんだか、リリスが遠くに感じられるような、胸の中にはそんな複雑な感情が生まれていた……。
「ありがとうございます!」
「うん」
「……」
「……えっと、座らないの?」
「え? あの、運転席じゃなく?」
ハヤトの言葉に、きょとんとした表情で答えるリリス。
その言葉に、ハヤトも予想外だったようで少し驚いていた。
「あ、運転席が良かった?」
「はいっ! わたし、実はミッションの免許持ってるんですよ! 春休みに合宿行って取ってきたんです!!」
「なるほど、だからこの車に興味あったんだ」
「はいっ!! マジかっけーです憧れです!!」
そう言ってリリスは、その瞳をキラキラと輝かせながら楽しそうに車の細部まで眺めて楽しみだす。
どうやらリリス的には、純粋に車に対して興味があっただけのようだった。
そしてハヤトに運転席を譲られると、リリスは実際に走らせることはないが嬉しそうに内装も感心しながら楽しんでいた。
「ありがとうございましたっ! わたしもいつか、こんな車に乗れるようなビッグな女になりますっ!」
「うん、頑張ってね」
「はいっ!!」
そして、一頻りスポーツカーを堪能し終えたリリスと、俺はバッチリ目が合ってしまう。
するとリリスは、少し頬を赤らめながらもこちらへ近づいてくる。
「えっと、ごめん。はしゃいじゃったけど、おはよ……」
「う、うん。おはよう」
俺達の間に、何故か少しだけ気まずい空気が流れる。
「く、車好きなんだね」
「う、うん! ちょっとね」
いや、さっきの反応的に、絶対にちょっとじゃないだろう――。
「あはは、てっきり、ハヤトと一緒に乗りたいのかなって」
「え!? ち、違うよ!? あ、いや、車は正直乗ってみたいけど……そういうんじゃないからねっ!!」
俺の言葉に対して、慌てて否定をしてくるリリス。
その様子は、どうやらリリスの本心で間違いはなさそうだった。
「そ、そっか」
「う、うん! できることなら、本当は彰と一緒が……」
「え?」
「な、何でもない!! じゃ、またあとでね!!」
何か言っていたが、最後の方はごにょごにょ言っていて上手く聞き取ることができなかった。
そしてリリスは、慌ててメンバーの輪へと戻って行ってしまったのであった。
「あ、もうみんな揃ってるね!」
「眠い……」
するとそこへ、遅れてアユムとネクロが到着する。
朝から元気いっぱいのアユムに、眠そうというか最早半分寝ているネクロ。
こうしてFIVE ELEMENTSのみんなも揃ったことで、あとはマネージャーさん達の車の到着を待つのみとなった。
「おはようアーサー!」
「おはー」
「おう、二人ともおはよう」
「ちょっと、わたしには挨拶ないわけ?」
「あー、カノンもおはよう」
「おはー」
「なんか、適当じゃない!?」
カノンのツッコミで、みんな笑いに包まれる。
今日はオフだけれど、先輩後輩グループでの初の交流となるわけだが、今のところみんなの空気も良好と言えるだろう。
まぁ一人だけ、メンバーの中で唯一挨拶をされていないハヤトを除いては――。
そしてそこへマネージャーさん達の車も到着し、いよいよ向かう準備は万端となる。
「それじゃ、また現地で」
俺はみんなにそう声をかけ、ハヤトの車の助手席へ座る。
高級スポーツカーの助手席というのは、これまで乗ってきたどの車とも違っており、座っているだけで謎の緊張感があった。
「あはは、みんなの視線が凄いね」
ハヤトはそう言って、窓越しにみんなの姿を見て笑う。
「そりゃ、車が車だからだろ」
「うーん、僕はそれだけじゃないと思うけどね」
「他になんだよ?」
「いや、何でもないさ。それじゃ行くよ」
その言葉とともに、ゆっくりと発信する車。
こうして俺達は、いよいよ夏の別荘へ向かうこととなったのであった。




