第119話 アサリリ初コラボ
夜の七時半。
お風呂と夕飯を済ませた俺は、今は梨々花もとい愛野リリスと通話を繋ぎながら、このあとの配信の最終チェック中である。
「ヤバイ……ちょっと吐きそうかも……」
「あはは、緊張しすぎだってば」
完全に怖気づいてしまっているリリス。
笑ってリリスの緊張をほぐしつつも、実は俺だって緊張はしている。
こういったコラボにはもう慣れてはいるが、だからと言って全く緊張しないわけではないのだ。
それでも続けていれば、そんな緊張すらもいつか楽しめるようになる時がくるのだ。
それはやっぱり、この配信活動の経験をもっと積んで行かないと辿り着けない境地なのかもしれない。
だから今は、少しでもリリスが安心できるように声をかけてあげる。
「大丈夫、リラックスリラックス」
「だってぇ、今日はアーサー様とコラボなんだよ……?」
「まぁまぁ、この間だって一緒に買い物行ったじゃん?」
「そういう問題じゃないんだってばぁ……」
うーと呻き声をあげるリリス。
どうやらリリスの中では、桐生彰と飛竜アーサーでは、感じるプレッシャーのようなものが違うようだ。
それはなんだかなぁーと思いつつもリリスを宥めていると、夜の八時が近付いてくる。
配信時間が近付くにつれて、余計に緊張していっているのが丸分かりなリリス。
さすがに大丈夫か? と少し不安になりつつも、配信開始前の最終チェックを行う。
今日の配信は、少しでも多くの人にリリスの存在を知ってもらうため、リリスのチャンネルで行うこととなっている。
配信待機所には、既に十万人ものリスナーの人が待機しており、その注目度はさながら周年イベント並だった。
FIVE ELEMENTSとDEVIL's LIPの代表者二人による初コラボだと、リスナーのみんなからの注目度はかなり高まっているとは思っていたが、まさかここまでだとは思わなかった。
それもあって、リリスはまた余計に緊張してしまっているわけだが、今日このコラボを乗り越えることができれば、きっとリリスの今後のVtuber活動における大きな糧となるのは間違いないだろう。
そして運命の、夜八時がやってくる――。
「じゃ、じゃあ開始押すよ……?」
「うん、よろしく」
リリスが緊張しながら配信開始ボタンを押すと、コメント欄が一気に盛り上がり出す。
『きちゃー!!』
『アサリリは至高!』
『始まった!!』
目で追うのがやっとな速度で、一気にコメントが流れ出す。
今はリリスの配信開始用のアイキャッチ動画再生中。
このアイキャッチが終われば、いよいよみんなの前に出なければならないわけで、リリスは深呼吸をしながら気持ちを落ち着けていた。
「大丈夫? そろそろ始まるよ?」
「う、うん! 大丈夫!」
そして、ついにアイキャッチが終わり配信画面に切り替わる。
俺は別のモニターでリリスの配信を流しつつ、自分達の状況をリアルタイムで確認している。
「始まったかな? どうもー! 飛竜アーサーでーす!」
「う、うわぁーい!」
中々リリスが開始の挨拶をしないため俺から挨拶をすると、それにリリスはぶら下ってくる。
でもやっぱり緊張しているようで、ガチガチになってしまっているのが今の一言で伝わってくる。
『リリスちゃん?』
『こーれ、借りてきたあほピンクです』
等々、リリスのリスナー達にはすぐにその緊張が伝わり、心配といじり半々のコメントが流れていく。
「じゃ、リリスも自己紹介しよっか」
「そ、そそそ、そうだね!! えっと、DEVIL's LIPの可愛いピンク担当! 愛野リリスです!! はいっ!!」
ガッチガチの自己紹介を終えるリリス。
デビュー配信よりも緊張しているその姿に、コメント欄には草(笑い)が生い茂っていく。
こうして空気が生まれていくところも、既にキャラが確立しているが故だろう。
だから俺も、その空気に乗っかっていく。
「何? ガッチガチだね」
「ふぇ!?」
「リラックスリラックス。今の自己紹介じゃ、うちのリスナーには伝わらないってば。――はい、それじゃあもう一回?」
「ちょ!? 酷くないっ!?」
俺のいじりに、慌てふためくリリス。
その結果、そんな反応も面白くてコメント欄には笑いが溢れていく。
そう、俺はもう分かっているのだ。
リリスの配信アーカイブを全て見た結果、リリスは誰かがいじることで良い個性が出るということを――。
「DEVIL's LIPの可愛いピンク担当! 愛野リリスです!! はぁいっ!!」
そしてリリスは、言われた通り本当にもう一回自己紹介をしたことで、更に笑いに包まれていく。
こうして配信は、さっそくリリス色に染められていくのであった。
そして本番はこれから、俺とリリスによる初のコラボゲーム配信に流れていくのであった。




